第017話 食事


 残り2個の魔石を魔導石に変え終えたので最後に請求書を書くことにした。


「いくらくらいにしよ?」

「普通に請求したらどのくらいなんですか?」


 エーリカが聞いてくる。


「普通の依頼だったら100万エル。緊急依頼で納期が極端に短いからその倍だな……あとは依頼者都合でさらに短くなったことを踏まえると……300万エルかな? まあ、500万エルくらいにしておくか」

「すごいですね」

「民間だったら600万は取る。そのギリギリを攻めるのがコツだな」


 500万でも結構ぼっているが、民間より安いから問題ないだろ、で向こうは何も言えない。

 こっちに非はないし。


「ジークさんってそれだけの実力があるなら民間に行った方が儲かりません? ご自分でお店でも出したらどうです? まあ、抜けられたらウチは困りますけどね」


 正直、出世の道も断たれているし、民間で稼いだ方が金は得られる。


「バカな客を相手にしたくないんだよ。クレーマーとか大嫌いだ」

「あ、なるほど……」


 エーリカはすぐに納得した。


「まあ、請求書はこんなものだな。後は向こうの出方次第で交渉って感じ。エーリカ、鉄はどうだ?」

「もうできます。でも、3個目は時間が短くなっていませんね」


 時刻は7時を回っており、2個目にかかった時間と変わらない。


「しゃべる余裕はあっただろ」

「確かにそうですね。よし、やってしまいます」


 エーリカは気合を入れ、最後の作業にかかる。

 すると、数分で3個目の鉄鉱石を鉄に変えた。


「お疲れ。帰るか」

「はい。しかし、2日で終わってしまうんですね」


 エーリカが箱に入った魔導石を見る。


「エーリカもいつかやれるように…………なれるよ」


 無理かな……


「今のは嘘ってすぐにわかりますねー」


 エーリカが笑った。


「そんなことないぞ。よし、帰ろう」

「そうですね」


 俺達は片付けをし、支部を出る。

 すると、すでに辺りは暗くなっており、夜だった。


「エーリカ、俺はパンを買いに行くからここでお別れだ。また明日な」

「あれ? 食事は作られないんですか?」

「ヘレンのために作る時はあるが、あまり作らんな。まあ、それ以前にまだ荷物の整理ができていないんだよ」


 道具が段ボールの中だ。


「あー、引っ越したばかりでしたね。でしたらウチで食べませんか? ご馳走します!」


 ご馳走……作ってくれるってことか。


「ちょっと待て。会議をする」

「どうぞー」

「ヘレン、これはどうするべきだ?」


 ヘレン先生に聞いてみる。


「いや、行かない選択があるんです?」

「この時間に女性の家に行くのは失礼だろう」


 前も部屋を見せてもらったが、あれは昼間だったし、すぐに帰った。


「あ、まともなやつでしたね……エーリカさんが大丈夫って言っているんですから大丈夫です。せっかくだし、ご馳走になりましょうよ」


 ヘレンは賛成か。


「エーリカ、いいか?」

「ええ。是非」


 俺達はエーリカの家に行くことにし、歩いていくと、30秒で到着した。


「本当に近いと楽だな」

「ですよね。忘れ物をしてもすぐです。あ、どうぞー」


 エーリカが扉を開け、入っていったので俺達も続く。


「お邪魔します」

「どうぞ、どうぞ」


 エーリカが電灯を点けると、この前も見たリビングだった。


「準備しますんで座って待っててくださいね」


 エーリカがそう言って、寝室の方に行ったのでテーブルに座る。


「腹減ったな」

「頑張りましたもんね。お酒は飲んじゃダメですよ」


 飲まんわ。

 というか、エーリカは飲まないんだからこの家に酒なんてないだろう。


 俺達がそのまま待っていると、エーリカがリビングに戻り、キッチンで作業を始めた。


「パスタでいいですか?」

「ああ、悪いな」

「あのー……ヘレンちゃんも食べます?」

「食べまーす」


 ヘレンが答える。


「大丈夫? 猫って食べちゃダメなのがあるよね?」

「あ、私、使い魔なんで猫じゃないです」


 猫だよ。


「そういえば、そうだったね。じゃあ、作るね」

「ありがとうございます……いやー、良い人ですねー」


 ホントな。

 ヘレンの分まで用意してくれるなんて人間ができすぎている。


「待っている間にアデーレ宛の手紙を書くか」


 手紙とペンを取りだし、テーブルに置く。


「そうしましょう。仕事のことを聞いてましたよね?」

「そうだな……人に恵まれ、そこそこ充実していると書くか」


 エーリカも支部長も悪くない。

 それどころかエーリカに2夜連続で晩飯まで御馳走になっている。


「ちゃんとアデーレさんにも聞くんですよ?」

「わかってるよ」


 リート支部でそこそこ頑張っていることを書いた後にそちらはどうですかと書く。

 そうやって、手紙を書いていくと、ちょうど書き終えたタイミングでエーリカが3人分のパスタとスープを持ってきてくれた。


「お待たせしましたー」


 エーリカがテーブルに料理を並べる。


「悪いなー」

「ありがとうございます」

「いえいえー。食べましょうか」


 俺達はパスタを食べだす。


「うん、美味いな」

「魚介類ですね。王都では中々ないですよ」


 王都は国の真ん中の方だから海がないからな。


「この町は海が近いし、色々獲れるんだよ。でも、お口に合ったのなら良かったです」


 食レポはできないが、エビとかがパスタと合って美味いな。


「エーリカは料理が得意なのか?」

「そんなことないですよー。でも、自分で作るようにしていますね」


 エーリカの頬がちょっと染まった。

 これは絶対に得意だわ。

 さすがに俺でもわかる。


「良いですねー。ジーク様は私のご飯は作ってくださるんですが、自分は全然ですもんね」

「パンだって美味いぞ」


 飽きることなんてないし、サプリメントで栄養バランスも完璧だ。


「あのー、さすがに味気がなくないですか? この町は色んな食材が獲れるので料理の町でもありますよ?」

「うーん……めんどくささが勝つなー……」


 歓迎会の料理もこのパスタも美味い。

 でも、パンだって美味いのだ。


「良かったら私が作りましょうか?」


 ん?


「いや、さすがにそれはエーリカに悪い」

「そんなことないですよー。というか、すでにレオノーラさんの食事も作ってますしね」

「そうなのか?」

「はい。今は出張中ですが、それまではずっとウチで食べてましたね」


 すごいな……


「大変だな」

「いえ、一人分を作るより楽ですよ。それに食べてもらえると嬉しいですから」


 エーリカが照れたように笑う。


「そうか……」


 俺、頭が良いけど、エーリカが言っている意味がわからない。


「ジーク様、お言葉に甘えては?」

「え? じゃあ……エーリカ、本当に良いのか?」

「はい! お料理は得意……好きですから!」


 へー……まあ、金ぐらいは出すか。

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