第014話 なかーま


「ジークさん、1週間なんて大丈夫なんですか?」


 詰所を出ると、エーリカが聞いてくる。


「100個程度なら問題ない。それよりもあの少佐はいつもあんな感じか?」

「あまり会ったことがないですか、そうですね」


 嫌な方の貴族らしいわ。


「エーリカ、今回の緊急依頼は俺一人でやる」

「え? でも……手伝いますよ?」


 エーリカならそう言うだろうなー……


「いや、この依頼はちょっと特殊なんだ。エーリカはレンガとインゴットを頼みたい。インゴットはやったことないんだよな?」

「はい。もちろん、学校の実習ではやったことがあるんですけど……」

「それで十分だ。とにかく、一度、支部に戻ろう」


 俺達は詰所をあとにすると、支部に帰るために歩いていく。


「あ、あの、ジークさん、この緊急依頼って本当に大丈夫なんですかね?」


 ん?


「大丈夫とは?」

「緊急依頼なんて初めてだったんで……しかも、魔導石の納品なんて昨年もなかったです」


 魔導石という軍必需品のアイテムの納品がないっていうのは悲しいな……


「これは嫌がらせの仕事だ」

「え? い、嫌がらせですか? どうして?」

「理由はわからん。上からのお情け依頼指示が嫌だったのか、民間から金でももらったか……とにかく、この依頼は通常では考えられない」


 俺は俺達を潰すために民間から金をもらったと思っている。

 役人なんてそんなもんだ。


「すみません……よくわからないです」


 エーリカが伏し目がちになる。


「いや、こんなもんはわからなくていい。そもそも、戦争や魔物の大発生でも起きない限り、魔導石が足りないなんてことは起きるはずがないんだよ。軍にとって魔導石は必需品だから常にストックがあるはずだ。それでもこの依頼を出したのは支部に魔導石を納品する力がないと思ったからだろう」


 実際、昨年はそういう依頼がなかったわけだし。


「そ、そうなんですか……」

「まあ、支部が潤うチャンスだし、気にするな。魔導石なんてそんなに難しいものじゃない」


 手作業でやるのは面倒だが、まあ、できないこともない。


 俺達は話をしながら歩き、支部に戻った。

 そして、2階に上がり、それぞれに席につく。


「魔石が来るまで暇だし、インゴットの作り方でも教えてやろう……と言っても、魔法学校でやったことあるんだよな?」

「はい。実習でやりました」

「じゃあ、それでやってみろ」

「えーっと……」


 エーリカは1つの鉄鉱石をデスクに置くと、手を掲げながら魔力を込めだした。

 すると、鉄鉱石がわずかに光り出す。


「なんだ……できるじゃん」


 教えることない。


「時間がかかっちゃうんですよ」

「皆、そうだよ。専用の機器でもあれば一瞬なんだが……」


 ここにそんなものはない。


「いつかはそういう機器も揃えたいですねー」


 いつになることやら……


 エーリカがひたすら鉄鉱石を鉄に変える作業をしているのを眺め、たまにアドバイスをしていると、昼休憩の時間になったのでパンを買いに行く。

 そして、買い物を終えて戻ると、支部の前に車の荷台から木箱を下ろす数人の兵士がいた。

 その中にはルッツもいたので近づいてみる。


「よう、魔石を持ってきたのか?」

「ん? あー、ジークヴァルトさんか」

「ジークでいいぞ。それに敬語もいらん。同じくらいの歳だろ」


 ルッツはおそらく20代前半だろう。


「まあね。エーリカは?」

「上で昼飯だな。呼んでこようか?」

「あ、いや、いいよ。それよりも魔石を100個用意したから頼む。これが鑑定書だ」


 ルッツがそう言って一枚の紙を渡してきたので読んでみる。


「Bランクが5個でCランクが22個……残りはDランクか……」


 粗悪品ではないが、微妙だな。


「市場で慌てて集めたよ」


 人を使って午前中で集めたか。

 午前中だけじゃなくて、一日使ってでも質の良いもの用意しろと言いたいが、まあ、依頼主に言うことじゃない。


「触媒を使って質を上げる必要はあるか? もちろん、割高だが……」

「いや、それは大丈夫。でも、少佐が3日以内って言いだしたよ……」


 バカかな?


「依頼者都合だからさらに料金が倍になるぞ? いや、もっとだろう」

「……ここだけの話、少佐は失敗してほしいんだよ」


 知ってる。


「こちらは3日でも構わんぞ。でも、請求書は覚悟しておけ。まあ、お前には関係ないか」

「私はただの使いだからね。でも、本当に大丈夫かい? 私は錬金術に詳しくないが、普通は期日を1ヶ月は見る依頼だぞ」

「緊急なんだろ? そういうこともある。こちらとしては料金さえもらえば何でもいい」


 王都の本部では緊急依頼なんてしょっちゅうだし、なんなら俺も出した。

 相手が渋ったら『1日は24時間あるんだぞ?』が決めゼリフ。

 うん、そりゃ嫌われるわ。


「とにかく、3日で頼むよ。悪いけどね」

「気にするな。それと一つ聞きたいんだが、あの少佐はこの町の出身か?」

「いや、北の方の貴族様らしいよ?」


 左遷だな。

 俺と一緒。


「ふーん……そうかい。じゃあ、3日以内に納品するわ。ご苦労だった」


 そう言って、兵士達が支部の前に置いた木箱を空間魔法にしまう。


「空間魔法……使えるなら最初に言ってよ。無駄に荷台から下ろしちゃったじゃないか」

「そりゃすまんな」


 まったく悪いとも思わずにそう返すと、支部に入り、2階に上がった。

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