第22話 亀裂

飯田翔が東郷翔也に飲まれたのは言うまでもない。

そういう感じで先輩は話す。

私はその姿を見ながら家に帰って来る。

すると萌香が抱き着いて来た。


「お帰り」

「うん。萌香。ただいま」

「無事に帰って来てくれて嬉しいよ」

「そうだね。...私も無事に帰って来れて良かった」


萌香は制服姿だ。

帰って来たばっかりという事らしい。

私は萌香を見てみる。


「帰って来たばかり?」

「そうだね。一応ね。...私も部活をしているし」

「どういう部活だっけ?」

「あ、えっとね。演劇部だよ」

「そうなんだ」

「うん」


そして私は制服を脱ぐ。

それから洗濯機を回し始める。

萌香も手伝ってくれた。

私達は洗濯機を見る。


「ねえ。萌香」

「...うん?何?陸羽」

「東郷翔也の彼女だけど」

「...ああ。飯田って奴?」

「うん」

「...飯田がどうしたの?」

「今日会った。だけどもう頭がおかしくなっていた」

「...そうなんだね」


萌香は膝を曲げてから洗濯機を見る。

私は洗濯機に手を添えながら苦笑いを浮かべた。

それから洗濯機から手を離す。


「私は対応がおかしいのかな」

「...おかしくないよ。どういう対応かは想像がつくけど。それはおかしいんじゃないよ」

「...そうかな」

「うん」


そして萌香は立ち上がる。

それから仰け反り伸びをする。

そうしてから私に向いた。


「何か食べよっか」

「そうだね。何を食べる?」

「クッキーでも焼くよ」

「え?でも面倒じゃない?」

「面倒じゃ無いよー」


それから私達はお互いにクッキーを焼き始める。

すると萌香が私にスマホを見せてくる。


「実はね。...愛犬のクッキーを見てから思ったんだ。クッキー焼きたいなって」

「あ。ミックス犬の」

「そうそう。クッキー。白髪も増えたんだけど」

「...懐かしいね」

「うん。家に行ったら会えるけど。...まあ今はね。もうちょっと状況が落ち着いてからの方が良いかな」

「...そうだね」

「...」


私は複雑な思いを抱きながら萌香を見る。

萌香は欠伸をしながら伸びをまたした。

その姿に私は目線を前に向ける。

グルグル回る洗濯物を見る。


「萌香。私ね。今日、飯田に会ったの」

「...そう」

「...彼女は飲まれた」

「東郷翔也に?」

「自らの心の黒い所をつかれた。全て飲まれていた」

「良いんじゃない。そういう奴の最後にはふさわしいでしょ」

「...そうだね」

「何か有るの?それとも」

「いや。優しすぎるだけだよ。私がね」


そして私は苦笑しながら洗濯機から目線を外した。

それから台所に行く。

クッキーを焼く為の準備を始めた。

萌香が隣に立つ。


「私は...どう考えても同情できないかな」

「そうだね」

「自業自得だけど。もう迷惑を掛けてほしくないねぇ」

「...そうだね」


私はクッキーを焼く為の材料を用意した。

すると萌香が私の顔を覗きこんでくる。

私は?を浮かべて萌香を見る。


「私はそんなに悩まなくて良いって思う」

「...悩んでないよ。...そうだなって思うだけ」

「そうだね。でも貴方は悩んでいる様に見える」

「...」

「ゲームオーバーだと思うよ。その人達は」

「...だね」


そして私は萌香に笑みを浮かべる。

それからクッキーを焼き始めた。

その時間は何となく楽しい時間となった。



私が悪いのか。

そう考えながら私はフラフラと町中を歩く。

それから吐き気がして立ち止まる。

すると目の前から声がした。


「よお」

「...翔也...」

「どうしたんだ?そんな顔をして」

「...丁度良かった」


そして立ち上がってから私は翔也を見る。

すると翔也はニコッとしながら立っていた。

私は首を振ってから意を決して前を見る。


「...私、もう貴方に会わない」

「それはつまり別れたいって事かな」

「...違うけど。違う。だけど一次的に距離を置きたい」

「...まあどっちでも良いけどね。俺は。...俺も親父を倒すのに忙しいし。...今は距離を置こうか」

「...うん」


だが急に翔也の態度が変わった。

それから私を見る。


「だけど代償を払ってもらうよ。それなりに」

「...代償って何」

「俺と距離を置くのは覚悟が要るよ」

「...お金?」

「お金もそうだけど。...まあ愛情とかかな」

「...」


私は翔也を見る。

この男とセックスするぐらいの覚悟は持っているけど。

何だか最近は受け付けなくなってきている。

それは多分、私が身がボロボロになっているせいだろうな。


「翔也。私、今は無理。愛し合えない」


すると翔也は平手打ちをブチかましてきた。

私は唐突の事に対応できずそのまま蹲る。

痛みが襲ってきた。


「イエス、ノーで言えば君にはイエスとしか解答権は無いよ。何故なら君は俺の彼女だから」

「...」

「それとも君は俺から逃れる気?まあそれなりに対応するけど」

「...何でもないです」


そして翔也に私は頷く。

唇から出血する。

この男...に付き合ったのが間違いだったのか?

そう思いながら私はそのまま翔也と一緒に歩き出した。



あのクソ女と一緒と話してから次元が変わった気がする。

そう思いながら俺は片づけをしていた。

ったく。気持ちが悪い。

忌々しい。


「...」


俺はそう考えながらベッドを整えたり本を片付けたりする。

それから部屋を掃除する。

そしてあらかた片付けてからベッドに腰掛ける。

そうしていると電話が掛かってきた。


「?...もしもし」

「もしもし。私、投稿新聞記者の後藤と申します」

「...ああ。そういうのは結構です」


そして俺は忌々しい感じで電話を切る。

日本中に知れ渡ったみたいだ。

俺の電話番号とか。

どうしたもんかね...。

考えながら俺はスマホの画面を見る。


するとインターフォンが鳴った。

俺は神妙な顔をしながらそのインターフォンを覗く。

そこに...高校生が居た。

この顔立ちからして俺と同級生だが。

誰だ。


「はい」

「あ。初めまして。私、酒井輝(さかいてる)っていいます」

「...誰だ」

「私の事、ご存じですか」

「知らない、が。...お前の様なキラキラした様子からして...多分お前は陸羽と関係が有るな?誰だ」

「ビンゴです。...私はアイドルです。開けてくれませんか。玄関」


俺はしぶしぶ玄関を開ける。

そして表に出ると酒井輝という女子が居た。

確かに可愛いなコイツ。

アイドルだな。


「何の用事だ」

「はい。えっとですね。一言で言いますと。...私と性行為して下さい」

「...は?」

「つまり、子種を下さい」

「...また変なのが来たな...」


まともな判断をできて良かった。

これも萌香さんとかのお陰だとは思うけど。

そう思いながら俺は酒井を見る。


「断る。そういうのは嫌いだ」

「あれ?そうなんですか?私、意外とナイスバディだと思います。それに日本一かわいい子だってされています」

「大体、何のつもりだ」

「まあ前々から観察していましたけど...噂で聞いていましたけど貴方はとても良い人だって言います。そういう人が好きです」

「...断る。という事は俺が陸羽と付き合っているのは知っているだろ」

「陸羽さんはそれほど良い人ですか?」


その言葉に俺は目を動かして酒井を見る。

酒井はニヤッとしながら俺を見る。


「彼女は本当に良い人ですか?セックスしてくれますかね?」

「...」

「私なら貴方を満足させられます」

「...何故そこまでするんだ」

「先程も言いましたが...」

「それでは理由にならない。どういう事を思っている」

「...陸羽さんより私の方が頭脳、芸能界で優秀だからです」


酒井はそう言いながら俺を見てくる。

そして笑顔になる。

それからどんどん近付いて来た。

俺はその姿に後ずさりする。

流石に危険を感じた。

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