第15話 希望
「嫌がらせを受けるのは...想定していたよ。...だけどまさかこうして暴露されるとはね...大概にしてほしいものだ」
マネージャーはそう言う。
事務所にて。
私はそんなマネージャーの顔を見ながら「...ですね」と返事をする。
それから横に居る萌香を見る。
萌香は「...」となってから沈む様な顔をしていた。
「...いずれにせよこの状態は良くない。...正直、プライバシーの問題で警察に訴えても構わないぐらいだ。...警察に相談しよう」
「...そうですね」
「プライバシーは守れないと。ストーカー規制法でも良いけど何か捕まえる手立てを考えないとね」
「私...」
萌香がそう切り出す。
そして涙を浮かべて悔しそうに「何で陸羽だけがこんな目に」と涙を流す。
私はその姿を見ながら「...有難う萌香。そう言ってくれるだけ有難いよ」と笑みを浮かべた。
萌香は涙を拭いながらグスグスと言ってからティッシュで目元を拭う。
「...とにかく。芸能活動が出来ないのはかなり不利がある。...犯人をとにかく捕まえてくれる様に警察にお願いしよう」
「そうですね。分かりました」
「...それで陸羽さん」
「...はい」
「...暫くの間だけど萌香さんが一緒に暮らす事になると思う」
「...はい。それは存じております」
萌香は一緒に暮らすと言ってくれた。
それはセキュリティの問題で、だ。
私は感謝しつつ。
シェアハウスの様にしたいと思いながら彼女を。
萌香を見ていた。
「...犯人が身近に居る可能性もある。その方が安心だろうね」
「マネージャー」
「...何かな」
「...私、瀬戸洋子(せとようこ)さんに任せたいです」
「それはつまりセキュリティの問題かな」
瀬戸洋子はタレントの先輩の人。
私の家の近所に住んでいる。
女性の人だけど...かなり信頼している。
何故なら彼女はとても優しく。
私に対して良くしてくれる。
「...分かった。調整しよう」
「...近所なので。家が」
「そうだね」
「...」
私は考える。
すると萌香が「...何で陸羽なんだろう」と呟いた。
「陸羽は良い子なのに」とも。
私は「妬まれるのも仕事のうちだよ。...そう思わない?萌香」と向いた。
萌香は「...だけど」と困惑する。
「...相手はネットカフェから接続していたんだよね?悪質だね」
「悪質ユーザーも居るでしょうきっと。私は有名になり過ぎた。...自慢じゃないけどね」
「...そうだね。その分気を付けないといけないって事だよね」
「そう。...だから対策をしっかり考えるよ」
「私も...守れる様にする」
そして私を見る萌香。
私はその姿に「...有難う。萌香」と柔和な顔をした。
するとマネージャーが「すまないね。至らぬ点が多すぎて」と複雑な顔をしてから書類を見始めた。
私は「マネージャーはしっかりやってくれています」と首を振る。
「...いつか起こるって思って居ましたから」
「...そうか」
「お父さんに迷惑を掛けたくないです」
「...そうだね。それは最優先にしようか。君の望みだから」
「私はどうなっても良いんです。だけどラーメン屋だけは潰させたくない」
「それは言い過ぎかもだけど。...成程ね。陸羽さんは...本当に良い子だね」
「...いえ」
萌香もニコッとする。
私はその顔に恥じらいながら「マネージャー。本当に有難う御座います」と頭を下げてからマネージャーを見た。
マネージャーは「するべき事をして。そして対策だ。...頑張ろうね」と頷く。
私はその顔に「はい」と返事をした。
「...そういえばマネージャー。娘さんはお元気ですか」
「...ああ。元気だよ」
「...何か...聞いたところでは...」
「心臓病を患っているからね。...だけどとても元気だよ」
「...」
心臓の弁が上手く機能しない難病。
マネージャーが働いている理由。
それはお金を稼ぐ事だけど。
だけど...それであっても私達に優しい。
とても...優しい。
「...何かあったら直ぐに言って下さい。私...協力します。金銭面でも」
「それは有難いけど気持ちで十分だ」
「...私も...何かあったら」
「うん。気持ちだけ受け取っておくよ」
そうは言うけど...。
マネージャーの娘さんに残された時間は少ないと思う。
20歳まで生きられないと聞いたから。
皮肉なものだ。
金を使い込んでいるクソ馬鹿も居る。
この世界は本当にクソだな。
こうして真面目に働いている人には何の恩恵も無い。
働いている者が馬鹿に蹴落とされる世界、か。
「...あと...4000万円必要なんですよね」
「6000万円は用意できたけどね。...後は仕事次第かな」
「アメリカで手術じゃないと厳しいですからね...」
「あっちは医療保障制度が無いのもある。ドナーも見つかったのにね」
マネージャーは。
あと3年ほどで4000万円を手に入れないといけない。
彼女は余命は3年とされているから。
マネージャーは「そんな暗い顔をするな」と笑顔になる。
「今は今。そしてあっちはあっち。...とにかく集中して今を変えよう」
「...マネージャー...」
「...その。マネージャーはクラウドファンディングしないんですか?」
「...俺の手で変えたいから」
そしてマネージャーは肩をすくめる。
「追い詰められているのは同じだね」と話した。
私達は顔を見合わせる。
それから「...ですね」と言った。
「...とにかく。...仕事に集中だ」
「「はい」」
私達は複雑ながらも返事をする。
あっちもこっちも。
どっちも...大変だな。
そう思いながら、だ。
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