第45話 ハードアタック

「ねぇ、リューネ?フィンは大丈夫だったの?」


 『はぁはぁひゅうぅ』


 肺内に出血しており止まっていないルーナは呼吸もままならない状況でフィンの容態を聞く。


 「はい、何とか急所は避けているので死にはしないのですが、回復までにはかなりかかりそうです。」心配でルーナは落ち着かない。


 「あのですね、ルーナ様の状態の方が遥かに酷いのですから、心配しなくてもフィンの方が先に元気になりますよ。」


 ルーナの神器で抉られた無数の傷口は、難治であるばかりか幾つもの呪いも付与されているため、とても治るような状況では無かった。


 そこで、ストラトスとユニスが遣いに出ており、天界との初戦での情報報告の目的もかねて、アンブロシアから魔法医療専門部隊を招いている最中であった。


 そして改善の見込みのない床に着いていたルーナに救いの手が差し伸べられる。ジルドレイが帰りの遅いルーナを迎えに来たのだった。


 「おい、これは一体どうした?身体がめちゃくちゃじゃないか!帰りが遅いと思ったら何があったんだ!」ジルドレイが不機嫌そうに怒鳴りつける。


 「あぁ、ジル・・・ごめんなさい。天界の侵攻があって、撃破したんだけど私もこの様なの・・・」息も絶え絶えで弁解する。


 「また、治せないのか!」呆れ顔でジルドレイは怒鳴る。いつもの冷静さが無いのだ。


 「ふぅ・・・仕方ない奴だな。本来は私がお前から血を吸う立場なんだがなぁ・・・」ルーナを抱き起こしてルーナを膝の上に抱っこした状態で首筋に噛み付かせる。


 「ジルぅ、ごめんなさい・・・」ジルドレイの生命力がルーナに流れ込む。ルーナは何とか一命を取り留めた。


 「で、その左腕はどうするんだ?」ジルドレイはまだ怒っている。


 「神器による傷だからもう治らないよ・・・・・でも、私が一度死んでからなら、セイラなら完全蘇生魔法をかけて貰えば元通りだけど・・・一度死ななきゃダメかな。」


 「お前、無茶苦茶だな。」呆れて天を仰ぐ。


 「わかった。私もここに滞在しよう。私が大切にしていた僕をここまで痛めつけてくれた神族とやらに仕返さない訳には行かないな。」


 「ジルぅ・・・ありがとう。」ルーナは次の天界の侵攻が近いのを知っているかの様であった。


 翌日には、その時が訪れてしまう。


 天界は焦っていた。2度に渡って地上に攻めこんだはずの、戦神アーレスや神剣士達まで返り討ちにされ、50体にも及ぶ天使軍が壊滅させられたのだ。


 このまま、天界が黙っていられる筈はなかったのだ。命令は下された。ルーナ・メルル・カルバリオン・ド・アンブロシアの殺害であった。






 ラッパを鳴らして、黒光と共に数十体もの耀く天使軍が舞い降りてくる。率いるのは暗黒の軍勢を統べるザキエルである。


 他にも神楽を司るフェリエル、破壊を司るガザナエルなどのネームドエンジェルを投入してきたのだ。


 ルーナは慌てた。天界がまさか本気で自分をここまであからさまに狙うとは考えていなかったのだ。


 自分の身体の容態すら未だままならない状況であった。


 ルーナはフィンの病室に急ぐ。


 「フィン・・・力を貸して!クリティカルヒール!コンプリートリプロダクション!!」最高位の治癒魔法と完全再生の魔法をかける。


 「がはっ、かっはぁ」ルーナは大量の吐血をしてうずくまる。


 ルーナは心臓に呪術をかけられており、魔力や神聖力を使うと自分の身体も相応のダメージを受ける様に仕込まれていたのだ。


 フィンはルーナを抱きかかえると戦場に向かって転移した。  


 「姫様、少しばかり荒れますがお許し下さい。」


 「大丈夫、私が護るから好きに戦って!」ルーナは無理に微笑むとフィンに告げる。


 リューネとイースはガザナエルを、ルーナとフィンはザキエル、ジルドレイは、ファリエルに相対していた。


 ジルドレイは、ルーナの血から受け継いだ、光学魔法や空間魔法に加えて、魔眼が使えるため、神楽を操るファリエルとは、精神と精神との戦いとなった。  


 ファリエルの神楽は頭や中枢神経に直接流れ込み敵を支配する。かたやジルドレイの魔眼は相手が視界に入らなければ役に立たない。ファリエルが有利なのであった。


 予想通り神楽はジルドレイの頭に直接ダメージを与えてジルドレイの視覚を支配してしまった。ジルドレイは動けない。


 「吸血鬼ごときが私の相手になると思ったか?」


 シルドレイの首に神器が当てられ、血飛沫が上がる・・・


 「ふふふっルーナの技は愉快だな。一発逆転だ。」  


 「インペリアル・ブラッド・フィールド!」ファリエルは、ジルドレイの造る絶対空間に閉じ込められ魔眼で失神させられ囚われてしまった。


 先ずは一勝である。


 イースはガザナエルの高出力物理攻撃を防御壁で防ぎ、リューネは高圧縮気体の刃でガザナエルの首を刈りに行くが強靭な皮膚に傷も付けられない。 


 超高火力光学魔法も反射特性のあるガザナエルには効かない。ユニスが居れば絶対切断で一撃で切り捨てられるが留守である。


 一進一退を繰り返し消耗戦となっていた。


 そして一瞬にしてガザナエルが動きを止める。ジルドレイの魔眼がガザナエルを捉えたのだ。精神破壊攻撃によってガザナエルも戦闘不能となった。ジルドレイは大活躍である。


 後は、問題のルーナとフィンである。


 ザキエルは、暗黒魔法から即死魔法まで使える厄介な相手である。ザキエルの視界に数秒留まっただけで絶対的致死「コンプリートデス」をかけられてしまうのだ。


 フィンはルーナを抱き抱えたまま高速移動でザキエルの視界の外から逃れる様に動き回る。かたやルーナは隙をついて超高速光学魔法を放てる様に魔力を研ぎ澄ます。


 「チョロチョロと煩いハエだな・・・」ザキエルは暗黒魔法が反映し易くなるための空間占拠魔法を展開、ルーナを捉えようとする。


 「アビス・フィールド」


 一瞬でフィンの動きを制限し視界に止める。


 「インペリアル・ブラッド・フィールド」


 霧状の血液の霧がルーナとフィンを取り囲み護る。


 「チッ!」ザキエルは舌打ちする。


 アビスを押しのけて血液結界を張れると言う事は、魔力自体はルーナがザキエルに勝っていると言う間接的な証明であった。


 ザキエルの殺意がひしひしと伝わってくる中、ザキエルが先に仕掛けてくる。


 「カオス・ホールド」アビスの空間から影の腕がルーナだけを捕まえた。


 しかし、攻撃の機会を狙って居たのはフィンも同じだった。作戦でルーナを囮にしてザキエルの隙を突いたのだ。


 フィンは瞬間転移でザキエルの目の前に出現して一気に袈裟斬りに斬り伏せた。


 「ぎぃあああっ」ザキエルは悲鳴をあげて地上に落下して行く。


 「おのれ!自分の君主を囮に使うとは・・・このままでは済まさん。」ルーナを掴んだ暗黒の腕がルーナの心臓を握り潰す。


 「あっ・・・やぁ痛たあぁっ」『クシャっ』ルーナも吐血しながら地面に落下、地面に叩きつけられる。


 落ちた場所はザキエルと5メートルと無い直ぐ側であった。


 ザキエルは直ちに致死魔法を発動するが、数秒の時間差があった。


 ルーナは瞬時に危険を悟りマナリフレクションを発動。放たれた致死魔法はそのまま自身に跳ね返されザキエルは絶命したのだった。


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