言葉
紫釣
言葉
スーッ…、スーッ…。
「……姫莉(ひめり)?まじか、寝ちゃったよ。」
彼女に誘われて、彼女の行きつけのバーにまた来ていた。
「『ライラ』とかガンガン飲んでるからじゃん…。マスター、お会計いい?……これで。ご馳走様でした。また来るね。」
タクシーに彼女を乗せ、俺も一緒に乗り、行き先を告げる。何回かこうやって、酔い潰れた時がありその時のためにと合鍵を渡されていた。(別に恋人でもなんでもないんだが…???)姫莉とは大学時代からの友人だ。お互い恋人もいなく時々どちらかから、ご飯のお誘いをするぐらいであった。
ガチャ「は〜。着いた着いた。……ぐっすり眠ってやがるし。」
おぶっていた彼女をベッドに放り捨て、さっさと帰る準備をする。
「またな。おやすみ。」
そう声をかけたら手だけ振ってきた。
「起きてたんかい。まぁいいか。」彼女の家を後にした。
「やっほ〜。前回はごめんね〜。また寝ちゃったw」
「あー、まぁ初めてでもなかったし大丈夫。けどまぁ、一応俺も男なので気をつけてな。」
「あははは。今更じゃんよ〜!wけど、気をつけます!」
そんな話をしながらまた久々にいつものバーで飲んでいた。
「そうそう!報告!私結婚することになったんだ。」
思わず酒を吹き出しそうになった。
「まじか…。おめでとう!」
「ありがとwまぁ親にそろそろ身を固めろって言われて、お見合いしたんだよね。なんだかんだ良さそうな人で交際もして、結婚ってなったんだ〜。」
「なるほどね。いいねぇ。俺もいい人見つけないとだなぁ。」
そう、未だに収まらない動揺をひた隠しにして、彼女と話していた。
「落ち着くまではこうやって飲みに行けないけど、旦那から許可貰えたらまた飲みに行こうね!今日で一旦終わりだから飲むぞ飲むぞ〜。」
「いつもなんだかんだ飲んでるじゃねぇかw」
「まぁそうなんだけどさ。うーん、瑠璃(るり)もこれ飲んでみない??たまには違うのも飲んでみてよ。」
そう言って、彼女は『キール』を勧めてきた。俺は彼女の言葉を素直に聞き入れて試しに飲んでみた。日頃、ウィスキーやら日本酒やらを飲んでる俺からすると未知のものではあったが美味しかった。
「美味いな…。」
「でしょー!?色々飲んでみようよ。」
その日は彼女の好きなカクテルを2人で楽しんだ。
「綺麗だったなぁ。」
結婚式のあと1人でいつものバーへと来ていた。
「マスター、今日はオススメある?」
「ありますよ。お出ししますね。」
そう言ってマスターはとあるカクテルを俺の前に置いた。
「これは…?」
「『ロブロイ』というカクテルになります。」
初めて聞いた名前だが、今日の彼女を思い出しつつ飲み始めた。
「あなたの心を奪いたい。このカクテルはそんな意味が込められたカクテルになります。カクテルにはそれぞれ、花言葉のように意味が込められている物が多数あります。」
ロブロイを飲み終えたところで、マスターがそう話した。
「カクテルにそんな意味があったなんて知らなかった…。でも、なぜマスターはこれを俺に…?」
「これはとある方からあなたに飲ませて欲しいと頼まれました。…………どなたかなんて言わなくてもあなたならきっとわかると思います。私は、とても驚きました。男性を連れて来店されたのも、あんなに楽しそうに会話をしているのも、酔いつぶれて眠ってしまったところも。よく来て頂いていましたが、全て初めて見ました。」
理解が追いつかなかった。ゆっくりと言葉を反芻して、やっと理解をした。
「ハンカチは必要ですか?」
そう、声をかけられた。自分でも気づかないうちに涙が流れていたようだった。
「いえ、大丈夫です。………………俺は、姫莉のことを分かっていなかったんだな。もっと言えば、自分のことですら。」
「まだ、飲みますか?」
「そしたら、ちゃんとしたマスターのオススメをくれ」
マスターは頷いた。
「『ジンライム』です。込められた意味は、色褪せぬ恋です。気づくのが遅かったとしてもその感情は尊いものでしょう。」
「ありがとう。」
少し、飲み終わるのに時間がかかってしまった。
支払いを済ませ、酔いのせいだろうか、視界の悪い中、しっかりとした足取りで帰路を歩いていった。
言葉 紫釣 @kabuto22
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます