私が秘密結社を作った理由

坂井そら

回顧1 朝の光

「朝焼けがとっても綺麗だよ、くおんちゃん!」

 

 桜は、綺麗なものを素直に綺麗と言える、そんな女の子だった。

 

「朝焼けなんて、私たち良く見るじゃない。早く帰って寝ようよ」

 

 それに対して、高校一年生だった当時の私はかなりひねくれていた。

 朝の光と、それを浴びるクラスメートの桜の姿が本当に綺麗だと思っていたのに、口に出すことはなかったのだから。


「今日はありがとうね、くおんちゃん。くおんちゃんが後ろで支えてくれているから、わたしも気持ちよく魔獣と戦えるよ」

「いつも言っているけど、桜は前に出すぎ。もう少し全体を見て戦わなくちゃ。私が戦いに加わる前は、よくケガをしなかったと思うよ」

「あはは……ごめん。でもある意味バランスが取れてるってことだよ。わたしたちは本当に最高のコンビだ!」


 私が生まれた世界には、人々には知られていない魔獣という脅威があった。異次元から世界を襲う獣たちは、ただ本能のままに暴れまわる。

 世界に出現したばかりの魔獣たちを察知出来ていたのは、ごく僅かだっただろう。


 他の誰かに知らせる、社会に周知させる、という手段はためらわれた。なぜなら、魔獣は人間の恐怖を喰らう。世界が魔獣を知れば、多くの人々が恐れを感じるだろう。獣たちはそれを感知し、ますますこの世界に集まってくるかもしれない。


「ねえ、くおんちゃん。わたしはこの綺麗な世界をいつまでも大切に守っていきたいと思うんだ」


 桜には生まれつき魔獣を見つけられる能力があった。そして、魔獣と戦う力も。

 私にも幸い異能は備わっていて、桜を手助けすることが出来た。

 

 私たちは戦った。

 戦って、戦って、戦って。

 そして。


「桜?」


 あの時も、綺麗な朝焼けだった。


「なんで。どうして。桜。なにか言ってよ桜」


 桜は答えない。じっと私の方を見るだけだ。

 当たり前だろう。

 桜の左半身は、魔獣の攻撃で吹き飛ばされていたのだから。


「いやだ。こんなのいやだ。いやだよ。たすけて。だれかたすけて。桜をたすけて」


 その時に戦った魔獣は倒した。けれど、私を守って桜は攻撃を受けた。

 半分になってしまった桜に対し、私は何も出来ずに、ただ抱きしめる。


「私をおいていかないで、桜」

 

 戦いのなかで、桜は死んだ。

 私はこの世界にいる魔獣たちを皆殺しにすると、旅に出た。

 多元宇宙を渡る旅に。


「桜は世界を守りたいと言っていた。私も世界を守らないといけない。たくさんたくさん、守らないといけない」


 私は秘密結社プラントを作り始めた。

 

 多くの世界には多くの破滅が潜んでいる。

 破滅は魔獣だけではなかった。多次元世界には、それぞれその世界の人類を滅ぼしうる脅威が存在していた。

 宇宙からの侵略。天変地異。怪獣。ウイルス。悪魔の囁き。核戦争。

 他にも山ほど。


 これに対抗するには人類自体を強化するしかない。

 プラントの主な業務は、脅威に対して抵抗力の無い世界に異能を植え付けることだ。

 脅威に対して何らかの対抗策があれば問題ない。だが、もし力がないのであれば、我々が力を与える。

 異能の才能がある少数の人間を拉致し、改造を行うのだ。

 しかし手術が失敗することもある。当然、その時に人は死ぬ。

 

 大々的な行動は基本起こさない。その世界の自主性を尊重するためでもあるし、プラントの介入が過ぎるとそれが逆に滅びにつながってしまうからでもある。

 これは経験則だ。


「もし桜が今の私を見たら、どう思うかな」


 たまにそんなことを考える。

 

 他の多くの世界のために、一つの世界を滅ぼす。

 そんな判断を、もういくつも重ねてきた。

 プラントは途方もない数の命を奪っている。

 私は、私の考える正しさを基に、組織を運営してきた。実際に多数の世界を救ってきた自負もある。

 

 しかし。

 しかし、だ。

 確かにプラントは、悪の組織でもあるのだろう。




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