フィリピン人女性に逆ナンされた時の話

これは僕が海外駐在で中東地域を担当していた頃の話。


当時の僕は遠距離とはいえ、月に何度も大喧嘩をしていたメキシコ人女性とまだお付き合いをしていた。


頻繁に喧嘩はしていたものの、結婚を考えるほどの関係には発展していた。


僕はとある国へ出張に行った。


出張先では10以上歳の離れた韓国人の現地代表(男性)がわざわざ出迎えに来てくれた。


彼の英語は流暢ではなかったが持ち前のコミュニケーション能力を活かして周りを笑わせることに長けた人だった。


僕はこの国に行くと、彼に会うことが一番の楽しみだったのだ。


彼は韓国人でありながら、韓国を嫌い、日本を好んでいた。


あれは今思えばきっとお世辞だったのだが、韓国嫌いなのは本当だったのだと思う。


いかんせん韓国や韓国企業の悪口を聞かない日はなかったのだ。


このときの出張目的は、彼の代理を担うこと。


彼は1ヶ月ほど別の仕事で事務所を離れないといけなかった。


現地スタッフだけには任せていられないと彼は判断し、僕に白羽の矢が立ったのだ。


2-3日ほど、彼から引き継説明を受けつつ、関係者たちに挨拶に回った。


その国には外国人向けのバーがいくつかあり、彼はそのうちの1つに毎週末通っていた。


僕も彼に紹介されて、そのバーに何度か足を運んだことがあった。


彼がそのバーを気に入っていた理由は、客の中に美女がいる割合が高いことと、もう一つ。


彼お気に入りのフィリピン人女性スタッフがいたのだ。


彼女の年齢は不明だが、見たところ20代半ば。


背が僕より低く、155センチ位だっただろうか。


細身で華奢。


ショートの黒髪と大きな丸い目が特徴的な可愛らしい女性だった。


久々に彼女に会うと、僕のことを覚えていてくれた。


「元気でしたか?しばらくぶりですね!」


と明るい声で話しかけてくれた。


同時に韓国人にも挨拶をして何やら冗談を言いつつ2人で大笑いしていた。


これはよく見る光景だった。


「今日は美女少ないな・・・・。お、あの女なんかどうかな。声かけるか?」


遊び人にはあまり見えない彼。


背は低く、僕より数センチ高い程度。


かっこよくなんてないんだけれども、コミュニケーション能力が高すぎて、色々な女性が魅了されたという話は噂で聞いていた。


彼からそういった話を直接聞いたことはなかったのだが。


声をかけた女性はトルコ人だったと思う。30代後半、厚化粧で少し老け顔。


僕の好みではなかった。


面白いことに、彼と好みの女性が一致したことはない。


僕が良いと思った女性は彼は嫌いで、彼が良いと思った女性は彼は嫌いだった。


残念ながら、トルコ人女性には付き添いがいて、付添の男とも仲良くな飲み始めたのだから彼のすごいところだ。


しばらくして、「やっぱり今日はいい人いないなあ」と彼はつぶやいた。


ふと、疑問に思った。


「あのフィリピン人女性が気に入っているなら、誘えばいいじゃん」


「あのな、せっかく中東にいるんだぜ?中東美女と遊ばないでどうする?第一フィリピン人女性はあまり好みじゃない。あの子は少し別ってなだけだよ。」


一理あった。


中東の女性は美人な人はとんでもなく美人だ。


整形も流行っているから、整形にハマってしまった女性は流石に僕は好まないが、美人な女性はとびきり美人。


スタイルも良い。


僕も下ネタはそれなりに抵抗なく話せるようになっていたが、僕はどの女性を見てもあまり声をかけたいとは思わなかった。


なにしろメキシコ人の可愛い彼女がいるのだから・・・と僕は高みの見物をしていたのである。


あまりにも退屈だから帰ろうということになり、僕らは会計をして店を出ることにした。


彼はそそくさと先に店を出て、僕は人混みをかき分けながらようやく出口にたどり着いた。


そんなときだった。


駆け足でフィリピン人のスタッフがやってきて、僕に耳打ちをした。


「あなたの連絡先、教えてほしい」


大音量の音楽にかき消されるほど静かな声で、真っ赤な口紅のついた唇が僕の耳にあと1ミリで当たるというところまでの距離で、たしかに彼女は言った。


一瞬僕はためらった。


「ごめん、また今度ね」と言って僕は上司にもあたる韓国人男性の後を追った。


彼がいよいよ他国へ出張に出た後、僕はフィリピン人女性が気になって、バーに向かった。


決して下心は出さない。

あくまで友達として・・・。


そう強く自分に念じて店に入った。


すると彼女が可愛らしい笑顔とともにやってきた。


「いらっしゃい!今日は1人なの?」


「うん、いいかな」


「もちろん!」


そういってカウンターに座り、ビールを頼んだ。


「この間のことだけど・・・」


「あ、うん・・・!」


少し緊張した表情だった。


「連絡先、QRコードで交換する感じでいいかな?」


WhatsAppを開いて彼女に見せた。


「あ!うん!ちょっとまってね・・・!」


笑顔で彼女はスマホを開き、僕らは連絡先を交換した。


そして「またね」と言って僕は店を出た。


彼女の仕事は朝4時半に終わった。


彼女は仕事が終わると僕にたくさんのメッセージを送ってきた。


「今日は来てくれてありがとう」

「今度2人で会いたいな」

「連絡先交換できて嬉しい」


そんなメッセージで最初は溢れていた。


僕らは何度かショッピングセンターに2人で出かけて食事をした。


出稼ぎできていた彼女のために、僕は基本的にご飯を御馳走した。


ある時から、僕の滞在していたアパートに来たいとしきりに言うようになった。


でも、僕には彼女がいた。


フィリピン人女性にもそのことを伝えたものの、遠距離なんだったら今隣りにいる私を見てほしいということを何度もお願いされた。


それが少し、僕には鬱陶しかった。


また、バーに行くと、他のフィリピン人スタッフや客で来ていた若いフィリピン人男性たちに


「あ、君が彼女と付き合ってる僕くんでしょ!?」と声をかけられるようになった。


それがあまりにも居心地が悪かった。


いかんせん、僕には彼女がいたし、フィリピン人女性と付き合っていたわけでもない。


韓国人の彼によく思われないことも考えると、変な噂が広まることは迷惑だった。


僕はフィリピン人コミュニティを甘く見ていたのだと思う。


村社会のごとく、次から次へと話が広まっていったのだ。


「何をしたら誤解を解いてくれる?もう少しで韓国人の上司が帰って来るし、それまでになんとか火を消してほしいんだけど」


「じゃあ、私だけを見て。私と一緒にいてくれればそれでいい。それじゃだめなの?私は最初見たときからあなたが好きだったの。お願い・・・!」


フィリピン人女性とのいざこざの合間に、僕は彼女とも大喧嘩をしていた。


僕のSNSを彼女がストーキングしていたのだ。


フィリピン人女性が僕のSNSにいいねをしていたことにも怒っていた。


メキシコ人彼女が僕に別れを切り出すと、僕の怒りはフィリピン人女性にも向いた。


しかし、その子はなんともまあ、お気楽だった。


「そんな人とっとと別れたら良いじゃん!私があなたのそばにいるよ!」


韓国人の彼が帰ってきても、このいざこざは続いていた。


彼はフィリピン人に興味ないと改めていうので思い切って彼に相談してみたところ、


「俺だったら、とりあえずセックスやってみて考えるかな」


なんて想像もしなかったことを言われた。


とはいえ、僕はもう赴任地に戻る直前だったため、誘うこともなく、僕はそのまま国を後にした。


メキシコ人の方はというと、飽き飽きするほどいつものパターンで、別れ話の白紙を提案され、再び彼女と付き合うことにした。


正直、どっちもどっちという感じの選択肢ではあったが、長く一緒にいるメキシコ人彼女の方がやっぱり落ち着くと心の底で思ったものだ。


そうして、フィリピン人女性の連絡先をブロックし、彼女に二度と会うことはなくなったのであった。









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