追放されたが女神の湖があったので元パーティーメンバーをぶち込んでみた。

小乃ネコ

追放:湖の女神との出会い

 「ああ、お前? クビ。明日から来なくていいから!」


 そう言って勇者エナンが俺に酒を浴びせると、場は大笑いに溢れかえった。

 他メンバーの幼女魔法使いロリンと巨乳戦士リリスも、クスクスと俺を見下している。


 「理由? お前の代わりの回復術師見つかったから。荷物持ちしかできない雑魚回復術師なんていらねえわ! もう姿見せんじゃねぇ、消えろや!」


――――こうして俺はあいつ等に追放された。

 

 最初に会った時の楽しかった思い出、力を得るとともにあいつ等はだんだんと歪になっていって、逆に弱くなった俺を虐げてきた。残ったのは悔いきれない哀しみと、その後を追う無力感。


 「俺、頑張ったのにな……」


 とりとめのない足は暗い街の明かりを通り過ぎて、やがて外れへ――――どこかもわからない林の知らない湖が足先にぶつかった。


 「なんだよ、邪魔な湖だな!」


 どこにもいけやしない。開放されたはずなのに自由に悲しむことも許さない、嫌な世界だ。

 俺はそこら辺にあった小石を湖にぶん投げた。ただの八つ当たり、そんなのはわかっていても、怒りを抑えられなかった。今までエナンが俺にしてきた仕打ち、その果てが、これっぽっちなのかと。


 「クソ……ん?」


――――小さな波紋は止まなかった。もう俺は何も投げていないのに、湖の水面にぽつぽつと広がる波紋があった。


 空を見る、雨は降っていない。周りを見ても誰もいない。なのに水面の波紋はあるばかりで、いや、それどころがだんだんと激しく、水飛沫を上げ始めていた。


 「だ、だれだよ! 脅したって俺には何もないぞ!」


 どよめく林、何か得体のしれないものが近くにいる。本能なのか、確かにその気配がある、けれどもどこにいるかもわからない。

 怖い。今までの感覚とはありあわない、何かが俺に迫ってきていた――――バシャン! 水が冷たっ!? 


 「あなたが落としたのは、この金塊ですか? それともこの銀塊ですか?」

 「……は?」


 奥ゆかしい微笑みにどこか安心感がある、なのに目を疑ってしまう裸の女が、突然湖の上に現れた。水の上にいるのに沈んでいない。なんかの魔法なのか?

 

 「あなたが落としたのは、この金塊ですか? それともこの銀塊ですか?」

 

 金塊? 銀塊? どっちも高価なものだが、何かの罠なんじゃ――――――――いや、彼女の清らかな姿が嘘なわけがない。


 「何も落としてない。小石を投げただけです」

 「そうですか、あなたは正直者ですね。なのであなたにはこの、異界の石を授けましょう」


 女神様は紫色に発光するそこそこ大きな石を俺に渡してきた。

 

 「私は湖の女神。邪なる心を祓い、善なる世界へ導く者。あなたは正直者でした、だから異界の石を授けました。また、異界の石には行ったことのある場所ならどこへでも一瞬で移動できる力があります」


 ワープできる石。そんな大層なものを…………待てよ、これがあれば色々と稼げるんじゃないのか。俺を馬鹿にしてきたあいつ等よりも豊かに暮らせるかもしれない。

 

 俺がそう企んでいるとじーっと視線が、女神が俺を見ていた。まだ何か用があるのだろうか。


 「もしもあなたが嘘をついていたら投げ捨てた小石は湖に消え去りました。ゆえに正直に生を全うしましょう」


 そう言うと女神は湖に姿を消した。

 俺が嘘をついてたら小石が消えた? 小石なんて消えても誰も困らないだろ。もしも投げたのが、それこそ金塊とかこの魔法の石とかじゃない限り、あるいは大切な人間――――そうだ、それと憎い人間もそうじゃないのか?


 「そ、そうか! エナン、アイツをここに……」


 俺はあいつより弱いが、ここに突き落とすくらいなら簡単だし。それに湖に消え去れば誰がやったのかもわからない。

 

 「エナン……」


 湖のほとり、紫色の夜空を眺め、閃いた星に俺はこれまでの恨みを浮かべた――――エナン、今のうちに大声で笑っていればいい。だってそれが最後の晩餐なんだからな。

 

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