ダブルクロス「魔女との約束」

@shiffon4378

第1話

廃墟探索、非常に危険な行為だ。

建物崩壊の恐れはもちろん、柄の悪いものたちの縄張りになっていることも多くあり、

常識を持った人物ならば、そのような危険な場所に足を踏み入れることはまずないだろう。


そんな場所で月に照らされる一人の少女がいた。

少女の名前は彩音篝。

「えっと、どこにいるのかな?あったあった。ペンチちゃん出番だぞ」

有刺鉄線を慣れた手付きでペンチで切り、不法侵入をする。

「さて、ここがあの廃病院かぁ」

数十年前に廃棄された病院。

多くの廃墟を探索して来た不良少女にとっては特段珍しくもないような場所。

だが、少女はこの場所に期待していた。

「さて、ここには、本物がいるかな?」





廃墟探索、少女にはこの活動を行うにあったてポリシーがあった。

それは、情報収集。

どんな噂があろうとなかろうと行くのだが。

怪談などによる心霊スポットになっているかどうか?

悪い人たちのたまり場になっているかどうか?


少女が求めていたのは、本物の怪異だった。


だから、最初は今回の廃病院に対しては特段の興味が湧かなかった。

しかし、情報収集するにあったて、おかしいことに気付いてしまった。

普通なら存在するチープな怪談の話が全くと言っていいほど集まらなかった。


最初のうちは偶然が重なり、情報が上手く収集できていないと思った。

廃墟という場所は噂好きな人たちに虚飾されるものだ。

それらが存在しない。

まるで、あの病院に誰も興味を持たないように情報を統制されていると感じるほどに。



懐中電灯の明かりを頼りに少女は廃病院を探索していた。

中はなんてことない荒れた廃墟。

しかし、少女は前述の情報収集の違和感からこの場所に何かあると確信していた。

一部屋ずつ見て回り、食堂、厨房、職員が使っていたであろう部屋、病室。

目ぼしい部屋は見て回ったが特段面白いものは見つけられない。

「おかしいなぁ...絶対に何かこの病院にはあると思うんだけど」

そんな諦めそうになったとき、彼女の視線の先で影動いた。

「今の何!?」

少女は追いかけ、その先に黒い獣がいた。


明らかに犬や猫ではない、見慣れない4つ足黒い獣。

「化け物だああああ!?」

声を上げて急いで少女は逃げ始めた。

叫んでしまったこともあり、化け物は少女の存在に勘づき追いかけて来た。


化け物は、当然のように少女よりも俊敏に移動し、追いついてきた。

少女はこのままだと体力が尽きて食い殺されると確信した。

だから、賭けに出た。

部屋に逃げ込み、扉を閉めた。



しかし、扉は数秒の間に化け物爪によって破壊された。

少女と化け物は相対した。

化け物は少女を殺すために爪を振るった。

少女はそれを紙一重で躱し、一瞬の隙を突き、隠し持っていたバールで化け物の目玉を潰した。

そして、少女はすぐさま逃げ出した。

化け物を殺せるとは思わなかった。

だが、目玉を潰せば逃げられる勝機が生まれる可能性にかけて。

そして、それは成功した。


しかし、それは無意味だった。

化け物の爪切り裂かれて吹き飛ばされた。

「なんで...」

少女は驚きを隠せなかった。

化け物の腕の長さでは届かない距離まで離れていたのにも関わらず攻撃を当てられた。

答えは単純だった。

化け物の腕は明らかに伸びていた。

通常の生物では考えられないほどに。

そして、目の傷も治り始めていた。

少女は自分の運命を悟った。

自分はここで死ぬと。

化け物に殺されると。

もしも化け物が自分を殺さなくても、もうこの傷では助からないと悟ってしまった。

しかし、不思議と悔いはなかった。

憧れていた本物に出会った末に死ぬのだから。

そして、少女は意識を手放した。



とある病院。

少女は知らないはずの病院。

この世の者とは思えない銀髪の少女と話していた。

「約束だよ。

 必ず、殺してね、私を」





...憎悪..憎悪.憎悪。

憎かった。つまらない日常が。変わらない日々が。

憎かった。化け物がいない世界が。空想が現実にならない世界が。

憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。

憎悪が募っていく。折角、化け物に出会った。私の世界が始まったのに。

こんなところで終われない。終わりたくない。

だから、私は!


目を開ける。

ボロボロの体、破けた服。

化け物はこちらを見ている。

そして、腕を振われ「死」が迫る。

少女は躱す。

一度ではない、何度も「死」が迫る。

剣豪のような武術を極めた人でも避けられない「死」の連続。

それを先ほどよりも小さな動きで少女は避け続ける。

そして、いつの間にか持っていた、鉄パイプで化け物を殴った。

なんてことない一撃だったはずだった。しかし、どの一撃も的確に化け物の急所を抉っていた。

そして、「死」を与える立場は逆転した。

化け物は必死に少女を殺そうとした。しかし、少女に「死」は届かず、自らの死が近づいていく。

だから化け物は逃げることを選択した。不死身のはずの自らの肉体が壊れていくのを感じがために。

少女はその隙を見逃さなかった。距離を取った一瞬の隙に鉄パイプを投げ、化け物後ろ脚の片方を破壊した。

そこからは一方的だった。少女は化け物四肢を再生ができないほどに完全に破壊し、化け物を殺した。


化け物を殺した頃には朝になっていた。

化け物の返り血にまみれた少女は意識を手放した。

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