第2話 不思議な【力】

「さぁて、これからどうしよう?」




 周りを見渡すと辺り一面、草だらけだが、ここが日本とかではなく、異世界なんだと直感的にそう思った。




 最初は(え?え?異世界?ここが?ひゃっほー!ついに…ついに来たぜー!)とこんな風に思って、にやけていた。




 だが…




 突如、異世界に転移されたことに冷静になって考えてみると、持ち物はなく無一文、さらに今いる場所は現在地も分からない森の中であった。




「まぁ、まずは街を目指すか。それが王道だもんな」




 漫画やアニメでは資金調達や宿の確保のため近くの街に行くのが見てきたなかでの常識だった。




 故にこういった状態でも冷静に考え、行動するための知識が■■■にはあった。




 そうして、いざ動こうとした時……




 目の前の茂みが小刻みにゆれ、ざわざわ…と草どうしが擦れ合う音がなった。




「おいおい、何だよ。これって、何かくる前兆じゃねぇか!」




 そんな風に独り言を言っていたら、茂みを飛び越え地面に着地した1匹の獣が突如、■■■の目の前に現れた。




「……い、ぬ?いや、違うな」




 見た目は一瞬犬っぽいがそんな可愛い生き物ではない。




 黒く、短い体毛。元の世界のドーベルマンと同じような体躯。足先は鉤爪のように鋭く、さらに目を疑うのは額から角を生やし、口からは恐ろしい牙がむき出しの状態で現れ、■■■を鋭い目付きで睨み付けてきたのだ。




「くそ、なんだよ」




 明らかに、餌を見つけたように自分に標的を捉え逃がさないよう構えを取り、低い唸り声をあげていた。




「おいおい、ちょっと待てよ。異世界に来て絶対絶命のピンチに陥るの早すぎだろ!ヤバいって!」




 異世界に突然転移されたことで持ち物はなく目の前の敵を相手に、準備する時間もなく、突然バトルイベントが始まったのだ。




「こんな奴相手に勝てるか分からねぇし、死んじまうよ」




 せめて近くに武器になりそうなものでもないかと周りを見渡すが辺り一帯にそのようなものはなく、どうするか一心不乱に考えていると…




「まてよ、異世界ってことは俺にチート能力があるんじゃね?」




 自室でほぼ毎日読んでいる漫画では、同じみの異世界に来たことでチート能力に目覚めるお約束の場面、その場面がまさに今、この時なのである。




 その事を思いだしたら、自分にも目の前の相手を屈服させられるような力があると思った。




「なら、こいつは俺の踏み台ということか。へっ、腕がなるぜ」




 謎の自信を糧に■■■は目の前にいる自分を狙う獣に右手を突き出した。




「さぁ、来い。俺の中に眠っている力よ!」




 そう言った直後、全身の力を突き出した右手に集中し"不思議な力を発動"…何てことはなく、襲いかかってきた獣の足に右手を削がれ赤い血が周りの草にぶちまけられた。




「があああああああぁぁ!!」




 引っ掻かれた傷を抑え痛みに泣きわめいていても獣は、動きを止めず次の攻撃をするよう前かがみの姿勢をとり餌となる相手を睨み付けていた。




「嫌だ嫌だ嫌だくるなくるなくるな…」




 痛い思いをしたくないことから咄嗟に出てきた言葉はあっけない苦し紛れの言葉だった。




 獣は、その悲痛な叫びに頷くことはなく再び襲いかかった。




「ああああああああぁぁ!!」




 右足を削がれ赤い血が流れる。




 獣は、次の攻撃をするように構えを取った。




「や、め、ろ…や、めろ、来る、な…」




 無駄だとしても他にすることがなく手のひらを前に出し相手の動きを止めるよう促す。




 だが、その行いも虚しいままに獣は目の前の相手の息のねを止めようと襲いかかり、




「来るなー!!」




 そういった直後、手のひらから光のような光線が発射され、襲いかかってきていた獣の頭を吹き飛ばし周囲に血飛沫を飛び散らせていた。




「え!?」




 頭を吹き飛ばされた獣は地面に倒れ、損傷した部分から赤い血を流していた。




 そして、1分もたたず、獣は動かず死んだ。




「今、のは?」




 目の前で起こったことが理解できずその場に座り込み今起こった光景をただただ回想するしかできなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る