噂 〜私はいつでも一妻多夫を応援します!!〜
もちづき 裕
第1話
北方に位置するラハティ王国の冬の寒さは厳しく、諸外国からは森の豊かな国とも呼ばれている。国内には氷河に削られた湖があちこちに存在し、夏ともなれば太陽が沈まない日々が続き、冬ともなれば太陽が姿を現さない日も続く。
人が生きていくには厳しいとも言えるような環境で生活をしている人々は、十分に満たされていると感じる人の割合が非常に多い。厳しい環境だからこそ、互いが支え合って生きていかなければならず、そういった関係で人々はより親密な関係を築いているのかもしれない。
夏ともなれば太陽が沈まないので、女たちは遅くまで外に出て井戸端での会議に花を咲かせているし、男たちも外にテーブルと椅子を出してはカードを使った遊戯に夢中となりながら、度数の高いアルコールをちびちびと飲み、女たちと同じ程度とまではいかないまでも、最近聞いた面白い話とやらをしてまわる。
冬ともなれば家族や親族が集まって、身を寄せ合うようにして生活を送る。太陽が出ない極寒の外に長時間出ることもままならないため、皆で暖炉の前に集まってはくだらない話で盛り上がるのだ。
「そういえば友達が言っていた話なんだけどね?」
「そうそう、婆さんから聞いた話になるんだが」
「ああ、それは俺も嫁さんから聞いたな」
「でもなあ、あれって本当の話なのか?」
互いに顔を見合わせた人々は、小さく肩をすくめて言い出すのだ。
「まあ、結局はお貴族様のやることだからな。平民の俺たちには想像も出来ないことでも普通に起こるってことだろうさ」
ええ、本当に。お貴族様の間では、たまに想像も出来ないようなことが起こったりすることもあるけれど、まさかそれが自分の身に降りかかることになるだなんて。
これはカルコスキ伯爵家の令嬢だった私、カステヘルミ・カルコスキに実際に起こったお話なの。もしもあなたが今、どうしようもなく暇で、何か面白い話でもないかな〜と思っているのなら、暇つぶし程度でも聞いていったら良いと思うわ。
私の身に降りかかったこの話というのは、私の予想を遥かに超える形で広がっていくことになったのだから。
私たちが住む国は大陸の北に位置するのだけれど、生活を送るには厳しいこの国をラハティ王家は、民のことを考えながら代々治めてくれているの。我が国の王家は知識階級の人々を招聘して、新しい技術を開発するように取り組むことで、夏が短く冬が長いこの国ならではの、仕事の効率化、生産性の向上に専心してきたの。
そんなわが国は国王を頂点として二つの公爵家、三つの侯爵家、その他有象無象の伯爵家、子爵家、男爵家が連なり、自分の領地を管理したり、王宮に出仕したりして生計を立てているわけです。
最近では自分の資産を増やすために事業を立ち上げたり、投資をしたりする貴族が増えて来ているのだけれど、一番のホットな投資といえば鉄道事業がトップに挙がってくることになるでしょう。
我が国のお隣にあるルーレオ王国は海に面していない国なのだけれど、船を使っての輸送にはラハティ王国の港を利用していたの。今までは馬車を使って移送していたわけなんだけど、これって結構時間が掛かってしまうのよね。最近になって蒸気機関車をイブリナ帝国が開発した関係で、ラハティ王国にはこの機関車を購入する権利というものが発生することになったの。
さっきも言ったけど、効率化を求める我が国の王家は国外から知識階級の人々を招聘している関係で、帝国が機関車の開発をしている際も、色々と相談をされることが多かったみたい。特に機関車で使うピストンについては、我が国で作って輸出するという形となった為、完成品である機関車の購入権は簡単に獲得することが出来たわけですね。
だけどこの機関車、ものすーっごく高いので、うちの王家は海に面していないルーレオ王国に一緒に鉄道事業をやりませんかって声をかけたってわけ。今までの倍以上のスピードで倍以上のものが運べることになるのだから、ルーレオ王国が飛びつかない訳がない。
こうしてルーレオ王国を始発駅とした鉄道は、途中で我が国の王都を通過しながら港を目指すことになったのだけれど、我が国には二つの公爵家があるって言いましたよね。この二つの公爵家は広大な領地を持っているのだけれど、どちらも大型船を停泊することが出来る港を持っている。
我が国の王都は内陸寄りに位置しているので、ここから港を目指して線路を敷いていくことになるのだけれど、同じく内陸寄りにあるうちの領地から二股に分かれる形で線路は伸びていくことになっちゃうの。うちを中央に置いたとして、向かって右側に位置しているのがラウタヴァーラ公爵家の港湾。向かって左側に位置しているのがヴァルケアパ公爵家の港湾。
王家はとりあえず王都にも近いラウタヴァーラの港まで線路を敷いて、順次、ヴァルケアパ公爵家側の港まで繋げていくことを決定。これは非常に大きな事業になるのは間違いない為、政略的な意味で、カルコスキ伯爵家の娘である私がラウタヴァーラ公爵家の次男オリヴェル様の元へ輿入れすることが決定したの。
それは何故かというのなら、嫁入りするのに丁度良い年齢の私が万が一にも、ヴァルケアパ公爵家の傘下の家(ヴァルケアパ公爵家自体に結婚できる未婚の男性がいなかったので)に輿入れしたとして、再びヴァルケアパ公爵家が我が家も取り込んだ状態で、線路はまず自分の領地に敷いて、その後にラウタヴァーラ公爵家の方へ繋いだら良いんだと騒ぎ出したら面倒だと考えたみたいなの。
本当にそんなことが起こるかどうかは分からないけれど、世の中には万が一ということもあるものね。それに鉄道事業は何年もかけて行う大きなプロジェクトでもあるので、鉄道を通す予定の我が家とラウタヴァーラ公爵家が親密な間柄の方が都合が良いだろうとも考えられた。
そんな政略中の政略、王命が下ったわけじゃないけれど、ほぼ王命によって決められたような結婚なのだけれど、結婚する相手であるオリヴェル様が我が家に挨拶に来られることもなければ、顔合わせをするようなこともなかったの。
それこそ、顔を合わせたのは結婚式が初めて。
しかも、自分の親を殺した相手でも見るような感じで、憎々しげに私を初見で睨みつけて来たのよ?
初の顔合わせがバージンロードを歩いて行った先での司祭が立つ祭壇の前ですもの、私の頭の中は疑問符で埋め尽くされることになったわ。
「新郎オリヴェル・アスカム・ラウタヴァーラ、あなたは新婦に永遠の愛を誓いますか?」
「誓います」
「新婦カステヘルミ・スカルガ・カルコスキ、あなたは新郎に永遠の愛を誓いますか?」
「誓います」
我が国では結婚の儀で永遠の愛を互いに誓いあった後、誓いのキスをするのだけれど、オリヴェル様は苦々しげに私を見下ろした後、キスをするフリをして終わらせた。
これ、前列に座っている人なら、きちんとキスなんかしていないってことが良く分かるのよ。その前列の一番近くに座っているのが彼の親族、つまりは公爵家の一家ということなのだけれど、実はこの最前列には麗しい顔立ちの美少女が感極まった様子で涙をポロポロとこぼしている関係で、家族はその少女を慰めるのにも忙しくて、こちらの事態には気が付いていなかったみたい。
だけど、同じく最前列に座っているうちの家族は気が付いていたし、恐らく前側の席寄りの高位の貴族の方々も気が付いている。
ふと、目の前に立つオリヴェル様の方を見れば、切なげな眼差しをハンカチで涙を拭う美少女の方へ向けている。
私は心の中で『わーお!』と思わず大声を上げちゃったわ。そりゃ上げちゃうわよね?私、一応、社交界では完璧な淑女とも呼ばれているのですもの。間違っても声を出して「わ〜お!」なんて言わないわ!
*************************
夏到来、ついに学校も夏休み突入!!うんざりすることも多いけれど、気分転換の一つとなったら幸いです!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます