不治の命と眠る夢

明日葉ふたば

第1話

 私の命のはては行く先がない。


 食べなくても生きていける。病気になっても生きていける。髪の毛は伸びても容姿が衰えることはない。俗に言う不老不死というやつだ。


 これまで永遠にも似た時間を過ごしてきた私にとって、それがこれからもまだまだ続くという現実は耐えがたい事実だった。


 あらゆる死に方は試してきたが、それでも死ぬことが出来なかったことから結論づけた不老不死の体質。試したことがない方法は起こるかも分からない呪殺くらいだろうか?


 でもあまりにも非現実的だ。


 だから私は見渡す限り木々が生い茂る湖のほとりで、夢の世界に閉じこもって過ごしてきた。


 眠りにつけば私は自由な夢を見られる。だから退屈も紛らわせられた。


 私が夢で描くのは、自由に羽ばたく鳥の夢。


 空の彼方へ向かって羽ばたいて、ずっと飛び続ける内に羽が摩耗まもうしてその生涯を終えていく、そんな自由を極めた夢だ。夢の方が、現実感があるなんて、まったくもって笑えない。


 もっと生きたいなんて考えたこともない人生を過ごす。


 俗世から離れた僻地へきちで生きるそんな私の元に一人の男がやってきたのは、まもなくのことだった。


 その日はたまたま木々のささやきに耳を傾けており、私にしては珍しく覚醒状態にあった。


 シャラシャラ楽しげに話す葉と葉のきに、ガサガサとした異音が混ざり合う。


 現れたのは若い青年。動きやすそうな格好にスッとした立ち姿は、群衆の中にいても人目を引きそうだ。


「こんな山奥に人がいるなんて。君は?」


「人じゃないわ。…………そうね、化け物よ」


「………雪女かと思った」


「化け物じゃない」


「でも綺麗だと思う」


「褒め上手なことで」


 相似点そうじてんとしては髪が長い事くらいしかない気がするけれど。私は別に着物を着ているわけでもないし、今日は雪も降っていない。


 ………ああ、でも年を取らない事は合ってるのかもね。


「何してたの?」


「一人になれる場所を探してた」


「…………そう」


 彼の言葉を聞いて私は内心落胆する。少しでも暇潰しの相手になってくれればと思ったけれど、それなら仕方ない。


 私は私の得にならないことはしないよう心掛けている。


 彼の邪魔をする気も無かったので、早々に立ち去ることを勧める。


「なら早くあっちに行ったら?」


「そうだな。でもこうして出会えたのも何かの縁なんだろう。正直引き返すかどうか、迷っていたけど、あんたのお陰で決心がついたよ」


「それは良かった。私はもう寝るわ」


 話し足りない気持ちは残っているが、これ以上は彼の迷惑になってしまう。会話を切り上げなくてはまだまだ話しかけてしまいそうだったので、こちらから強引に切り上げることにした。


 瞳を閉じ、体を倒して睡眠を取る体勢へ。


 ごく僅かな時間でも久々の会話はとても新鮮で楽しいモノだった。こんな特性を持たせた神を恨むばかりだが、今日くらいは感謝するのも悪くない。


「背中を押してくれてありがとよ」


 そんな言葉を残して彼は行く。


 また会えたらいいな、なんて思いながら、薄目を開いて彼の背中を見送った。

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