淵底のモノローグ

笹原露乃

第1話 逃避行

気が付くと、私は床に居た。冷たく重い服が肌に張り付き、身体を締め付けている様に感じる。暗い部屋には物が散乱し、息苦しい程の静寂が支配していた。

「リウ、ごめんね。駄目なお母さんでごめんなさい。」

お母さんは優しく頭を撫でながらそう言った。しかし、その優しい言葉とは裏腹に、その目には冷酷な光が宿っていた。そして、次の瞬間、母は自分に背を向け自室へと去って行った。


途端に胃に不快感を覚え咳き込んでしまった。

「ゲホッゴホッ…、うっ…おえっ…。」

吐瀉物は殆ど水のように透明だった。浴室に沈められていた時に水をどれだけ飲み込んでしまったのだろう。吐き終えた後も、胃のむかつきと虚無感が消えることは無かった。

「一体、私は何の為に生きているんだろう…。」

誰も私の存在を愛してくれない。誰も私を理解してくれない。私が何を感じて何を考えて生きているのか、自分でもよく分からない。ただ、虚しく生きているだけ。死んでいない、だけ。


ぼんやりと窓の外を眺めると、空に一番星が輝いていた。まるで諦めないでと言わんばかりに輝いていた。そうだ、この狭い家に居場所が無くても。外なら、何か自分を満たしてくれる存在が、在るかも知れない―。




目が覚めると、目の前に母が居た。辺りは暗く、夕焼けが窓から差し込んでいた。どうやら私は一日中寝てしまっていたらしい。

「リウ!?如何して学校に行ってないの!何の為にアンタを高い金払って私学に入れてやったんだと思ってるの!勉強して良い大学入って親孝行するんでしょ!?こんなに金払ってんのにアンタはお母さんを困らせて何がしたいの!如何して言うことも聞けないの!こんな娘育むんじゃなかった、あの時に死んでれ ば良かったのに。この疫病神!」

背中に痛みが走った。涙が頬を伝う。逃げてしまいたい。いや、 逃げれば良いんだ。二階へ上がり、鞄に枕の中へ隠してあるタブレットを仕舞い学校へ行こうとする。

「待ちなさい!夕方に学校に行って如何するつもり!」

そう言って母が掴み掛かってきた。

「やめて!もう放っておいて!」

叫びながら親を突き飛ばしてしまった。その瞬間、自分の中で何かが切れてしまった気がした。これは終わりではなく、始まりなのかも知れない。気が付くと私は外に居た。母は世間体を気にしてだろうか、追いかけて来る姿は見えなかった。

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淵底のモノローグ 笹原露乃 @SasaharaTsuyuno_oO

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