第19話

「すまない。また私の、個人的な意見ですが…ダイベンシャは、未成年の君達をここまで追い詰めた。君がするべきだったのは、警察への通報だ。隠そうとしたことは間違いだったと思う。しかし俺は、ヤツのことはそれ以上に許せない。あまりにも、あまりにも醜悪で外道だ。ヤツには確実に罰を与える。だから君は、お兄さんのことを考えてあげてほしい。君は、お兄さんをとても大切にしている。お兄さんもだ。お兄さんも、君をとても大切に想っている。きっとこの先、君達は今回のことで多くの困難にぶつかる。でも、君達だけじゃない。俺達大人がいる。迷わず助けを求めて欲しい。誰もかれも信頼してはいけない。漬け込まれることもある。だから周りの、俺でもいい、それ以外でも、もちろんいい。数多くの人間に頼ってほしい。…何か、お兄さんに、光希さんに伝えたいことは、あるか?」

清はぐっと拳を握った。たくさん、ショックな話を聞かされた。

でも、権田の頼ってほしいという言葉が一番清に刺さった。光希を守るため、自分だけでどうにかしようと考えていた。周りの大人は信用できなかった。大人は両親や、あの村の人間だけじゃない。

「………あいつ、ニャンニャンて、子供向けの、テレビの…好きらしいんす。毛布、渡してやって下さい。ボロボロで、きたねぇけど、もし、残ってたら…」

「わかった。押収品を探してみる。ここまでにしよう。たくさん嫌な話をして、すまなかった。それから…ご両親は今、警察署で安置させていただいています。後ほど、ご両親への面会の時間を改めて…」

「いえ。まだ、いいっす。親に、会うのは、まだ」

清は権田の言葉を遮って答えた。亡くなった両親に対しての感情が正直まだまとまっていない。そもそも死に目に会いたいかと聞かれると、どう答えたら良いかわからない。清は遺書に目を落とす。

『光希と清が逃げたのは私達の監督不行届です。命を持って償います』

清は遺書を指さした。

「あの、すんません、最後に…これ、カントク…ブ?…って、どう、読むんですか」

「カントク…『監督不行届』、ですね………申し訳ありません。遺書は今しばらく、こちらにお預け願えますか。証拠品と、なりますので」

刑事は文字を指差して答えた。監督不行届。聞いたことはあったが漢字初めてみた。両親が死んだのは清と光希が逃げたせいだと言いたいのだろうか。

刑事の言葉に頷き、清はつぶやいた。

「あいつら…こんな言葉、知ってたんだ」

ピクリと、目の前の刑事の手が動いた。『償う』という漢字も日常的に使う漢字ではない。書き間違っている。スマホで遺書とでも入力して、調べて書いたのだろうか。誰に対する謝罪なのか。きっとダイベンシャ様とカミ様に対してなのだろう。光希や清に対する謝罪も言葉もない。清はふと、笑ってしまった。どこまで清や光希を軽視するのだろう。

「この遺書…なにか、おかしいと感じますか?」

「こんな文章、書ける親じゃないんで…スマホで調べたんかな、と思ったら、なんか…」

はは、と乾いた笑いが清の口から漏れた。面白くなくても、どうしようもなくなると人は笑ってしまうのだと清は知った。

「これは、お父さんとお母さん、どちらの字だと思いますか。見覚えはありますか」

「このきたねぇ字は、母親です。父親もきたねぇっすけど。清って字のさんずいがぐちゃぐちゃになってんの、母親の字です。償うって字も間違ってる。間違ってんの誤魔化すこの書き方、母親の、字です」

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