26話「クラス代表決定戦」

 昼食を済ませて教室へと戻ると何事もなく午後の授業が開始されて、そのまま淡々と授業を受けると気が付けばあっという間にクラス代表を決める時間となっていた。

 既に1-Aの全員は一学年の校舎を後にして、お馴染みの闘技場へと足を運んでいるのだ。

 

 そして俺とサツキとメアリーは闘技場内の控え室にて、戦う順番と主なルールを決めるべくベリンダの指揮のもと話を進めている状況だ。

 恐らく今頃外では1-Aの連中が観客席にて優雅に見学の姿勢を整えていることだろう。


「それでは順番とルールを確認します!」


 ベリンダが人差し指を立たせて得意気な顔を見せながら口を開く。


「「はい」」


 それに対して冷静な返事を行うサツキとメアリー。


「まず最初に順番ですが、サツキさんとブラッドくんになります。そしてルール内容としては命を脅かす行為は無論なしで。それから試合判定は私の独断で行ないます。よろしいですか?」


 今回のクラス代表を決める決闘でのルールをベリンダが説明するが、今回の決闘で特筆して言うことは特にない。神聖な学び舎で殺しは言語道断であるから当然禁止である。まあ前回オズウェル達を一度殺したが、あれは結果的に生き返らせたのだから無問題であろう。

 

 しかし強いて言うのであれば今回の決闘では、勝敗の行く末が全てベリンダの判定に委ねられているという点にあるだろう。間違って変な判定を下さければいいのだが如何せん不安だ。


「ええ、問題ありませんわ」

「同じく! 大丈夫です!」


 二人は同時に返事をするがサツキは気合が満ち満ちと溢れているのか若干聖力が放出気味である。


「ああ、俺も問題ない」


 そんな二人を視界の端に捉えながら同じく言葉を返した。


「ありがとうございます。それではサツキさんとブラッドくんは、武器を選び次第闘技場へと出てくださいね」


 柔らかい笑みでベリンダがそう言うと、そのまま彼女は闘技場へと出るべく足を進めていた。

 そしてこの場に俺とメアリー達だけが残されると、


「武器を選べばいいのだな。だったら既に決まっている! 私は剣一択だ!」


 サツキは言われた通りに武器庫から訓練用のショートソードを手にして腰に装備していた。

 やはり剣聖一家の一人娘には剣がよく似合う。しかし周りを見れば武器庫には剣の他にも銃タイプの物や、槍型の武器と数多の戦闘用具が点在としているようだ。


「よし、私の準備は整ったぞ! ……あれ? ブラッドは武器を持たないのか?」


 腰に携えた剣の位置を調節したりとして支度を終えるとサツキは唐突な質問を投げてきた。

 だがその質問は余りにも不毛だと言えるだろう。


「ああ、そうだな。今回は素手のみで戦ってみることにする」


 なんせ俺の本来の戦い方は得物に頼らず、己の五体と魔力のみで戦うことを第一とするからだ。

 しかし何も武器を使用する者を侮辱している訳ではない。

 個々が最高の状態で戦えることが何よりも優先すべき事だからな。


「素手って……。お前もしかして手加減を――」

「否。これは断じて手加減なんぞではない。ただ単に俺の戦闘スタイルが基本素手というだけだ」


 サツキが不快そうに言葉を口にした瞬間に、即座に手のひらを前へと出して言葉を遮る。

 確かに見方によれば手加減に見えるかも知れないだろう。だが断じて答えは否である。


 けれど改めて考えてみるとサツキと本気で戦い合うことは一度目の世界線の時でも無かったような気がするのだ。……となるとこの試合では現状の彼女の強さを身を持って確認出来るということか。ふむ、であるならば中々に役得と言える。

 

「そ、そうなのか? まあブラッドは剣術が苦手だから……まあそうなるか」


 剣の扱いが苦手だということを昔から知っているが故にサツキは簡単に納得していた。


「そういうことだ。ではそろそろ無駄話は止めて闘技場へと出るぞ」


 そう言いながら足を前へと進めて決闘を行う為に闘技場へと出ようとする。

 ――――だがそこへメアリーが唐突にも、


「ふふっ、お二人とも頑張ってくださいね」


 小さく不敵に笑みを零して声を掛けてきた。

 しかし気になることに彼女の瞳は何処か相手の内側を探るような色をしているのだ。


「うむ、応援感謝するぞ。だが必ずメアリーとも戦うからなっ! それまで待っていてくれ!」


 けれどサツキはそんなこともお構いなしに握り拳を掲げて反応すると、彼女と戦うことについては存外乗り気の様子である。これは多分……いや、十中八九メアリーの真意に彼女は気が付いていない。


 まあ昔から人を余り疑わない性格だから仕方ないのだがな。

 だが逆にそれがサツキの良いところでもあり、同時に俺としては不安が募ることも屡々だ。


「はい、待っていますとも」


 絶えず笑みを見せて言葉を口にするメアリーだが、その殆どに感情が込められてはいなさそうである。

 ――それから俺とサツキが決闘を行うべく闘技場へと姿を現すと、


「「「おぉぉぉぅ!」」」


 という歓声の雄叫びが周囲に木霊していた。

 しかしどうにも声量が1-Aの連中だけではない気がするのだ。


「チッ……これはどういうことだ?」


 そしてその正体は周囲を見渡せば直ぐに分かることであり、観客席へと視線を向けるとそこには1-Aの連中だけではなく他にも多くの生徒達が観客席に腰を落ち着かせていたのだ。


 しかも面倒な事に同じ一学年は無論のこと、二学年や三学年という上級生たちも軒並み勢揃いしている状況だ。これは何処かで情報が漏れたとしか言いようのない光景だが……まあ大凡の出処は考えずとも分かる。


「差し詰め上級生たちは貴族に反旗を翻した俺を見定めに来たのだろうな」


 つまり今ここで実力を示すと後々に貴族関連で面倒事になるのは火を見るよりも明らかだが、それでもこの場で力を抑えて戦う事は出来ない。なんせサツキと一切の手加減なしの条件を結んでいるからな。俺に幼馴染を裏切るような真似は出来んさ。


「まあそれでも貴族が本当に面倒事を引き起こしたら、魔法を行使して貴族という生物を全てを俺のマリオネットに変えてやろう」


 偉そうに席に座りながらこちらを見下ろしている上級生たちに視線を向けながら呟くが、ふと隣に視線を向けてみれば大人数の観客を目の前にしてサツキの顔は青白くなっていた。

 

 流石にこの観客数は想定外だったのだろうな。

 それからベリンダが俺達の元へと小走りで近づいてくると、


「両者、一定の距離を取り構えて下さい!」


 そう指示を出すと自身は真ん中の位置に立ち基準となっていた。

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