10話「クラブ活動と貴族決闘」
サツキと共に学園見学を行いクラブ活動や学院内の施設を見て回ると中々に興味深いクラブ活動があり、俺としては【魔王研究クラブ】というのに一番惹かれるものがあった。
やはり自身が魔王ということが影響しているのかも知れないが、クラブに属する者達から資料なる物を一部見させてもらった限りでは、かなり詳しく詳細に数々の魔王達の情報が書かれていたのだ。
その中でも俺の父こと6代目魔王については人界側でも唯一温厚派の魔王として知られていたようで、その時代が最も平和で両界とも安定していたようである。
だが7代目魔王についての所は空欄となっていて今現在で公開されている情報が何一つなく、どうやらイステリッジ王国の方針として7代目については完全に秘匿扱いにしているようであった。
しかし来るべき日が訪れれば自ずと全員が7代目の姿を目の当たりにすることだろう。
それからサツキについては【英雄達の遺産探求クラブ】なるものに興味を惹かれていたようで、歴代の英雄達が愛用していたとされる聖剣や聖盾など様々な展示物に視線が釘付け状態であった。
といっても無論のこと、その全ては模造品である。本物は全て国が厳重に管理しているのだ。
――そしてサツキと俺が見学を終える頃には時刻が昼となり、食堂と呼ばれる場所で昼食を済ませると漸く午後の授業……そう貴族共との決闘の時間を迎えることとなった。
決闘の場所は学院内の闘技場であり、普段は生徒達が戦闘訓練等を行う場所である。
「ほう、よく逃げずにこの場に出てこられたな。その威勢は褒めてやるべきか?」
闘技場へと足を踏み入れて俺が会場の真ん中まで歩みを進めると、既に対面側にはオズウェルが準備万端の様子で立っていて醜い笑みを晒しながら話し掛けてきた。
しかも彼の隣にはパウモラやティレットも居て、二人は目に見えて苛立ちのオーラを放ちながら只管に俺のことを凝視している。つまりは役者は勢揃いであり、いつでも戦闘は行えるということだ。
「ふっ、そんな気遣いは無用だ。どうせお前達はここで俺に倒される運命なのだからな。それと、この闘技場を確保してくれたことに関しては別とし感謝する」
二人からの視線を軽く無視して決闘の場を用意してくれた事に対し感謝の言葉をオズウェルに送る。幾ら相手が傍若無人の貴族だとしても最低限、礼を言うべき所はしっかりと言わねば彼らと同類かそれ以下になってしまうだろう。
「そんなもん貴族なら余裕のことだしー。それよりも平民如きが本当に俺達3人に勝てると思ってるの~?」
オズウェルに伝えた筈の言葉に逸早くパウモラが反応を示すと相変わらず気怠い感じを装おうとしているようだが、内側に巣くう闘争心だけは剥き出しのままで理性の抑え方を知らないお子様のようである。
「彼の言う通りだ。平民がたった一人で、この僕達に挑もうなんて烏滸がましい。さっさと終わらせて格の違いを教え込んでやる」
ティレットが人差し指を巧みに扱いメガネの位置を整えながらそんな事を言うと、見た目は知的だと言うのに感情的になるのは年相応だということが伺える。やはり総合的に三人を捉えて見ても、これではお遊戯にすらならず俺の独壇場となってしまうだろう。
「そうだな。いつまでも喋っていては観客も興ざめというものだ。せっかくこうして他の者達に見て貰えるのだから、早いとこ見所を見せた方が何かと楽しめるだろう」
ティレットの言葉にオズウェルが頷きながら返すと、周りを取り囲む大勢の観客達に視線を向けていた。この闘技場は戦闘訓練を行うと共に決闘の場としても使われることから、観客席という見学が出来る席が設けられているのだ。
「なるほど。通りで周りが騒がしいと思ったが、これもお前達の仕業か。まったく、貴族というものは本当に目立ちたがる生き物だな」
両腕を組みながら視線を観客席へと向けて呟く。すると俺の視界にはサツキの姿が映り込み、彼女は観客席から試合を観戦するようであった。
別に見なくともいいと言ったのだが、どうやらその申し入れは却下されたようだ。
しかしよく見ると観客席には若干ではあるが平民の生徒達も見に来ているようで、彼らは俺が貴族に勝つ所を見に来たのか、或いは貴族に負けた場合どういう結末になるのかを知りに来たのか。
どちらにせよ好奇心に惹かれて見に来ているということだけは理解できる。
「頑張れっす! 兄貴!」
「若ーっ! 我らも応援していますぞ!」
「んだ! んだ!」
そして当然というべきかオズウェルの取り巻き三銃士達も観客席に居て、彼を応援するように声を張り出していた。
「おう、お前達よく見ておけ。一流の貴族がどういう戦い方をするのかをな」
取り巻き達の声を聞いてオズウェルが妙に自信の篭った表情を浮かべて返す。その表情からは何か秘策らしきものが見受けられるが、果たしてそれは俺に通用するものだろうか。
まあ余り期待せずに戦うことにしよう。所詮はまだ基礎も学んでいない素人だからな。
「ベリンダ先生~。試合開始の合図をお願いしまーす」
「は、はいっ! 分かりました!」
パウモラに言われて彼女は試合開始の合図として銅鑼の音を鳴らすと闘技場内に重低音を轟かせた。しかし見るからに今回の試合を監督するのはベリンダで間違いはなく、だがそれも俺達の担任ならば妥当なところだと言えよう。
新任早々に色々と問題事を背負わせて申し訳ないとは思うが、それでも今は俺と貴族達のわがままに最後まで付き合って欲しい。
なに、貴重な時間を取らせることはない。直ぐに決着は着くだろうからな。
「おいおい、試合はもう始まってんだぞ? いつまで余所見してんだこの平民風情が」
俺がベリンダに視線を向けていると、オズウェルがそれを舐めた行為だとして勘違いを起こしたのか早々に怒声を吐く。
「オズウェル~。あれ使おうよあれ! そうすりゃぁ直ぐに終わるよー」
「僕も同じ意見です。平民には絶対扱えないような物を敢えて使うことで、絶対なる格の差を見せつけてやるのです。そうすれば泣いて降参を願い出るかも知れませんよ?」
試合が開始しても一方的に彼らは攻撃を仕掛けてくる気配はなく、それどころかパウモラとティレットは何かを使おうとする素振りすら見せてきた。
だが俺としては三人の戦闘能力を知りたいことから、不意打ちという行為は余りしたくない。
まずは静観することが、この場の正しい選択と言えるだろう。
「くくっ……お前達も相当な奴らだな。だが良いだろう。あれを使う事を許可する」
小悪党のような笑い声を漏らすとオズウェルは右手を大きく振りかざして告げていた。
「よっしゃ流石オズウェル~! 話がわかる~!」
「これで僕達の勝率は99%から100%に変わりましたね」
それを聞いた瞬間に二人の表情からは何処か余裕のあるもを感じられて、俺は僅かに苛立ちを覚えた。パウモラは両手を振り上げて勝ちを確信したような態度を晒し、ティレットは最初から負ける気がないのか浅はかな勝率を計算しているようであるからだ。
「一体なにをするつもりだ?」
だが問題はそこではなく、彼らがこの期に及んで何をしようとしているのかという所だ。
正直に言うならば試合が既に始まっているにも関わらず、一向に戦闘態勢を整える姿勢が見えないのが何よりも癪に障る。
「まあ慌てるな平民。今から面白い物を見せてやる」
俺の苛立ちを察したのか偶然のかは知らないがオズウェルが歪な笑みを見せながら口を開くと、それに続いて残りの二人も不敵な笑みを浮かべて全員が右手に聖力を集中させるのであった。
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