第35 後処理に向けて


「凄いことになっているようだな。

 でも、マスコミが抑えられているのにずいぶんと詳しく知っているね」

「ええ、今回はお嬢様が攫われた時から公安の外事課に連絡を入れております。

 ですから私たちがお嬢様方を助けた事も外事課には知られているでしょうね」

「それって、非常にまずくないかな」

「大丈夫ですよ。

 昨夜のうちに外事課長から大使宛に詫びが非公式に入ったそうですから」

「そういうものなのかな」

「ええ、今回は警察が動きたくても証拠が無ければ、いや、証拠を示して令状でもないと動けなかったでしょうね。

 いえ、その令状も証拠あっても警察は動かなかったでしょうね。

 何せ相手が相手ですから。

 そうなると絶対に間に合わなかったことは明らかです。

 外事課も理解しておりますし、最悪公安が独自もしくは自衛隊の特殊部隊を使ってでもという感じでいたでしょう。

 噂でしか分かりませんが幹事長と対立する派閥の大臣に接触していたようですから」

「もう外交問題になっているね。

 そうなると俺はお手上げだけど丸投げでいいよね」

「ええ、政府対応はお任せください。

 ですが……」

「なに?」

「あのやくざがらみですが、政府に言って潰しますか」

「ああ、そういえばあいつらは、あの連中だったよね。

 どうしようかって、もう潰れているでしょう。

 あの時かなりの人数潰したようだけど。

 あいつら全員捕まるよね」

「ええ、あの組織は無理でしょうね。

 ですが、その上部団体が……」

 そういえば仁義を通したんだっけか。

 となると俺もそうだけどあの時の人の顔を潰したことにもなるよね。

 なら連絡をもう一度何かしておかないとまずいか。

 あの時は俺が対応したこともあるしな。


 そんなことを考えていると葵さん話しかけてきた。


「長秀さん。

 ホテルから連絡があって、あの時の人がもう一度ホテルでお会いしたいそうです。

 どうしますか」

「一度会う必要があるから、あの時と同じ要領でお願いできるかな」

「わかりました。

 連絡のあったホテルに返事しておきます」

 向こうから連絡があったか。

 まあそうだよな。

 あの時に仁義を通して以後拘わらないことになっていたはずなのに、誘拐それも幸までも誘拐するなんてありえないだろうに。

 なんと言ってくるのか最悪決別も考えないとまずい。


 夕方になり病院組が戻ってきた。

「本郷様。

 カレン様の件ですが薬の影響も大丈夫とのことでした。

 本郷様のご心配されていたストックホルム症候群の件ですがこれは否定ができないそうです」

「分かった。

 ありがとう。

 で、カレンさん」

 俺は彼女にの後のことについて相談を始めた。

 具体的には仕事について教員として採用されているようだが、教師になる気があるのかということだ。

「え?

 教員ですか。

 確かに私は東京都に採用を貰いましたが無断で3か月も放置しておりましたから」

「それは大丈夫のようだ」

「は?」

「担当のいい加減さが原因かは知らないが、カレンさんは長期病欠扱いになっているようだ。

 確認したから、まず問題はない」

「え、私、採用を取り消されたわけでは……」

「仮に取り消されていても犯罪に巻き込まれたんだ。

 裁判でもすればまず問題はない。

 もっとも、裁判沙汰になると色々と別荘のことが暴かれるからカレンさんにも無傷という訳にもいかないだろうから、連れ出したんだけどもな」

「それは感謝しております。

 また、私の気持ちを静めてもらった件も併せて……」

 そこまで話すと急にカレンさんは顔を赤らめた。

 きっとあの時のことを思い出しているのだろう。


 カレンさんが落ち着くのを待ってからその後話し合った結果、カレンさんは教員として復帰を望んだこともあり、それならば学期と中途いうこともあるので代用教員として幸たちの高校に押し込むことにした。

 元々都知事に強いコネクションもあったことに合わせて今回の件もある。

 カレンさんについては幸たちと同様に警察沙汰にはしてないが政府中枢には伝わっているはずだ。

 いずれ政府から何かしらのアクションがあるだろう。

 アプリコットさんの説明では明日にでも大使が外務省に出向き抗議を入れるらしい。

 まあ、当たり前だな。

 与党の幹事長の地元事務所が関与していた誘拐事件だ。

 しかも幹事長先生のご子息が主犯とあっては言い逃れはできまい。


 カレンさんの件は明日にでもこちらから知事に直接伝えることで、この日を終えた。

 そう、この日のお仕事を終えただけで、今夜もカレンさんに求められたので、今度は幸と由美さんを交えての4Pだ。

 今夜だけは葵さんたちには遠慮してもらった。

 流石に6Pは体力的に無理だ。

 本当はカレンさんだけにと思ったのだが、怖い思いをさせた幸たちが物欲しそうにしていたので仲間に入れた。

 別に俺が悪い訳でもないが、相当怖い思いをしたようだ。

 幸さんは慣れているのかそれほどでもなかったようなのだが、由美さんが相当に参っていた。

 幸さんが一緒にいて励ましていたようで、病院のお世話になるまでにはならなかったようなのだが、本当に海外の王族を取り巻く環境の厳しさを改めて感じた。

 まだ高校生になっていない少女が、しかも海外でも危ない思いを何度もして慣れているという現状にはさすがに驚く。

 自身に危険さが日に日に強まったことで、安全な日本に逃げてきてすぐに拉致されるなんて皮肉にもならない。

 後日詳細がわかるだろうがあのクズの幸たちの体目当ての犯行のようだ。

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