第30話 誘拐事件

 あかねさんは料理が好きならしい。

 それならばと、あかねさんを専属の調理師として雇うことにして会社に入れた。


 すぐに北海さんを通してドードンさんから殿下に相談すると、全て任せるとの返事なので、年棒800万円でとりあえず雇う。

 すぐ後に200万円の上乗せをして晴れて一千万円の大台に乗せた。

 これは俺にも昇給があったために俺の心の平安のためだ。

 俺は船長としての報酬の他に、会社の役員としての報酬を貰えることになり、倍の三千万円だそうだ。

 葵さんも社長報酬で二千万円の他に、王家から年金扱いなのか捨扶持として一千万円が支給されているから年棒としては同額になる。

 しかし、俺も葵さんもあまり金を使わないので、正直あまり感激もなかった。

 何せ衣食住のうち、食住については支給に近い。

 衣についても、ほとんど船長服で済ませているからそれにもお金を使っていない。

 まあ、お金はある分には困らないのでとりあえず考えてはいない。


 しかし、幸さんが入学してからGWまでは色々とあったのであっという間に時間だけは過ぎて行った。

 夏休みを前にして、やっと代理店としてのお披露目ができるまで準備ができたので、事務所に関係者をご招待して事務所開きを改めて行った。


 この時のパーティー料理はいつもお世話になっている冷食も使ったが、少なくない量をあかねさんが作ってくれた。

 大使館から三等書記官のドードンさんが参加したのをはじめ北海さんも来てくれた。

 また、前に勤めていた会社からはお世話になった特命担当リーダーをはじめ数人が参加してくれて、狭い人間関係ではあったのだが、にぎやかな会になった。


 あ、なんと社長秘書の美女までも参加してくれた。

 秘書さんは社長から『参加したかったのだが済まん』というメッセージまでいただいたのだ。


 で、この事務所開きで初仕事ではないが、会社として二艘目、代理店として初めての注文書を発行した。

 納期は来年になるそうだが、頭金も数億円を収めているから、出だしから順調だ。

 尤もこれは初めから決まっていた王兄殿下の注文なので、これからが本番になる。

 殿下の人脈に期待だ。


 事務所開きも無事に終わり、俺たちの周りに日常が戻ると期待したのだが、ここでまた事件が起こる。

 なんと学校帰りに幸さんと由美さんがさらわれたというのだ。

 一報がもたらされたのは、アプリコットさんからで、犯人は例のやくざだそうだ。

 完全に約束が違うと俺は電話でインテリヤクザに文句を言うと、彼は知らないとしらを切られた。

 こちらでもすぐに動かないとまずいとばかりに、また大使館を経由して外事課の刑事に連絡を取る。


 その間にアプリコットさんは情報部出身の二人を使って、情報の収集しながら軍人たちに出動の準備をさせている。


 二人の所在地はすぐに判明した。

 元々身に危険の迫る生活を長くしていたのだ、それなりの準備はしてある。

 流石に治安のしっかりとした日本でさらわれるとは誰一人として思ってもみなかったんだが、それも祖国とは一切関係のない地元やくざにだ。


「背後関係が分からないのに不安がありますが、すぐに救助に向かいます」


「俺も行くよ。 

 悪いが連れて行ってくれ」

「ですが、相当な危険が予測されますが…」

「ああ、わかっている。

 だから君たちに任すし、何よりやり方についても一切口は挟まない。

 ただ俺には幸さんを守る責任があったのだ。

 それが……」

「それは私たちもです。 

 わかりました。

 ですが……」

「ああ、わかっている。

 現場では出しゃばらばいよ」


 幸に持たせてあるGPSは携帯なんかからではなく、軍用のそれも諜報活動でも使える本格的なものだ。

 それが携帯の電波に乗せて現在地を発信しているので、携帯の電源を切っても、携帯電話そのものを捨てても関係ない。

 それに、一つだけでないので、まず日本人ならばわからないだろう。

 荒事に慣れているやくざでも同じだ。

 流石に諜報の専門家でもなければ見つけられないはずだ。


 なので、現在移動しているのもリアルタイムでとらえている。

 俺はヘリでも使ってすぐにでも助けに行きたかったのだが、距離的にもヘリを用意する手間を考えると車での移動の方がはるかに速いそうだ。


 この辺りについては諜報の専門家が三人もついているので心強い。


 向かっている先はどうも軽井沢にある別荘地のようだ。

 しかも高級なものばかりが集まる地域だ。

 やくざ風情が持てるようなものでもないだろうにと思ってしまう。


 GPSの発信元はいくつかある別荘の一つに止まったようだ。


 遅れること1時間で俺たちもその別荘の前に来ている。


 現場はまだ日のある時間で、流石に乗り込むには躊躇される。

 この辺りはいわゆる高級別荘地なので、人通りは少ないが、それでもいないわけでもない。

 普通にお邪魔してもしらを切られるのが落ちなので、暗くなってから力づくで押し入ることにしたようだ。

 一応俺に許可を求めてきたので、俺は全てを任すとお願いした。

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