第28話 裏社会との取引

 その後も、この執行役員さんとお話し合いをして、一応の了承を得た。

 後日、執行役員さん立会いの下、借金を支払うことでこの場は収まった。

 どうせ、あの人も俺たちのことを調べるのだろうからわかると思うが、ブルガン王国関係者と分かれば、あまり無茶はしないだろう。


 とにかく、約束の一千万円を準備することにした。

 大丈夫だ。

 俺にはまだ退職金が500万円以上ある。

 しかも、準備金としてローレン殿下から二千万円も預かっているから、これはすぐに使えるお金だ。

 そこから現金を引き下ろして一千万円を用意して先方からの連絡を待った。


 早速翌日にあの執行役員から連絡があり、前にあったホテルの一室で落ち合うことになった。


 密室で会うために俺の身の安全も図らないとまずいので、アプリコットさんに相談すると、アプリコットさんはもちろんのことマリーさんとキャシーさんも俺と一緒に同行することになった。


 また、隣室にはクルーザーの乗員で操船担当の女性4人までもが葵さんと一緒に入ることになった。


 なぜかって、それはこの方たち誰もが強いのだよ。

 下手な男なんか太刀打ちができないくらいに強い。

 乗員の4人は軍人で全員が格闘技をそれなりにマスターしているし、マリーさんとキャシーさんは情報部出身で、聞かなかったけど屈強な男どもを殺した経験も片手で足りないくらだと思われる。

 ちなみにアプリコットさんも情報部の人だ。

 経験こそなかったけど、しっかりと教育と訓練はされている。


 何の経験だってって、それは両方だよ両方。

 尤も片方の経験は俺もすでに済ませて、今も毎日のように経験値を増している。


 葵さんからドードンさん経由で警視庁公安部外事課にも一応の連絡はしてあるそうだ。

 いつでも動けるのだとか。


 どこまで本当かは知らないけど、一応の安全は担保した状態で翌日待ち合わせの部屋に向かう。


 待ち合わせの部屋に入ると、すでに部屋にはやくざの方たちが待っていた。

 さすがと言おうか、こういうところはやくざの人は外さない。

 俺も時間に余裕をもってここに来たわけなのだが、それよりも前に部屋に入りすっかりと準備ましていている。

 こういう緊張するような場面では、とにかく先に着いた方が心情的にも有利となる。

 俺は営業の経験もあまりないが、できる営業から聞いたことではそういうものらしい。

 最後は心理的な余裕がものをいうらしい。

 まあ、そういう部分では俺は万全の準備までしているからそれほど緊張はしていない。

 何せ修羅場に慣れた女性が俺の横にそれも複数いるのだ。

 ここで、大事なことには女性だという部分だ。

 やくざの方でも俺たちのことを調べるくらいはしているだろうが、どうせ俺のことくらいしか調べられないだろう。

 それも、会社を渡り歩いて今では産油国の王子に個人的に雇用されているくらいかたぶんわかっていない。

 いや、ここまで調べられればたいしたものだろうが、関東一円に勢力を張る大きなやくざ組織だ。

 油断はできない。

 それでもプロの諜報員までの経歴までは調べられればそれこそ俺たちが今後彼らの調査能力を使いたいくらいだ。


 まあ、そんな感じで最初からかなり緊張しながら取引は始まる。

「ではお約束の返済金一千万円を現金で用意しました。

 受け取りと、借用書を渡して下さい」

 部屋には前にあった人の他に、明らかに柄の悪そうな人がそれも少なくない人数詰めており、俺の話を聞いても何か言いたそうにしている。

 明らかに納得はしていないのだろう。

 まあ、それも理解はできるのだが。

 何せ、彼らの目的が美人母娘にあるのだ。

 それを俺が横からかっさらった格好になる。

 ぐちゃぐちゃ言いたそうにしているのを前に会った人が一睨みで抑えて、取引は順調に進み、書類関係が終わる。


「最後に、彼女から預かっている車も引き渡してもらおうか」

 そう、母親の借金になった原因の車については、きちんと陸運局や税務署に確認が取れており、存在している。

 その車もきちんと処理しておかないと、所有者というだけで何されるか分かったものではない。

 一応上部組織にはこれ以上俺たちにかかわらないという条件で納得してもらっているので、そうそう無理はしないとは思うが、俺は臆病なのだ。


「これが車のキーだ。

 車はホテルの地下駐車場にある。

 おい、駐車場の番号はいくつだ」

 偉そうに柄の悪そうなものが若いのに言い放つ。

 言われた若い衆は車の駐車してある場所を教えてきた。


 車の件も片付いたことで取引は終わり俺たちは部屋を出た。

 俺が部屋を出るまで、最後の最後まで俺のことを殺しそうな目を向けていたが気に入らない。


 俺は部屋から出て、すぐにアプリコットに連絡を取り、すでに話を通している外事課の警察を呼んでもらった。

 車に細工でもされたらたまらない。

 後のことはアプリコット経由で警察に車ごと預けたのだが、やはりというかあいつらは最後に嫌がらせをしていた。


 車のダッシュボードにきちんと薬と注射器を忍ばせていた。

 どうせ、俺が車を運転したら警察にチクって俺のことを捕まえようとでもしたのだろう。

 もしかしたら警察にやくざの協力者でもいるのかもしれないが、初めから車には乗るつもりはなかったのでかまわない。


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