第19話 明かされるミツバチさんたちからの罠

 ちなみに、ローレン殿下の初めての女性で、しかも子供までこさえた葵さんに対してローレン殿下は、一切の感情を持っていないとも言っておられた。

 なので、実際には攫われて脅迫を受けても国益を一番に考え、切り捨てる選択も取れるのだそうだが、今まで協力してくれた仲間意識はあるので、助けられるものなら助けたいというものらしい。

 これは彼女の父親にあたる王兄殿下も同様で、そのあたりは王族特有ともいるものかもしれない。


 そこで白羽の矢が立ったのが俺という訳だ。

 テロ現場からローレン殿下たちを救ったことに対する褒詞もあり、調べると背景がまっさらの人物など早々いないものだが、俺はというと、はっきり言って根無し草だ。


 人物調査しても、性格心情的にも一切の問題は無し、これは頂きでしょうということになって、別荘でのハニートラップに繋がったという。


 やっぱりメイドさんたちはハニートラップ要員だったわけだ。


 おいしく頂いてしまったけど、先にも云ったように根無し草の俺には失うものも守るものもないので、頂けるだけお得だった。


 俺は話を聞いて改めてローレン殿下に忠誠と、預かった葵さんやこれから預かるローレン殿下の娘の安全を約束した。


 その後一度この場は解散となり、俺は葵さんに寝室の一つに招かれた。

 新婚初夜というやつか。


 さすがに『サトネ』が無駄に技術力の粋を込めて作った船なので、防音は完ぺきで、音は外には漏れない。


 いやがおうにも期待値は上がる。


 部屋に入ると葵さんから身の上話をうかがった。


 彼女が言うには、自分の母親は最近になって病没したことになっているが、暗殺の可能性も否定できなかったようだ。


 王兄殿下やローレン殿下は確かに親子や男女の愛情のようなものは感じたことはなかったが、それでも自分たち親子は大切に扱われていたという。


 今回日本への避難についても自分の母親の件があり、かなり無理をしてのことだと俺に詫びてきた。


 いやいや、俺にとってこれ以上にない幸運を運んだなと言ったら不謹慎かもしれないけど、迷惑など一切感じていない……確かにドバイでの見本市での無理押しには迷惑を感じたけど、今回の件で帳消しだ。


 葵さんは俺に身の上話をはじめ、今まで隠していたことをすべて話してくれた。


 ちなみに、ローレン殿下の中東における評判は優秀ではあるのだろうが、色々とわがままで仕出かす面倒な御仁というレッテルが張られているとか。

 それで、本来ならば見本市では上客扱いで、それこそセールスマンがひっきりなしに集まってくるところなのだが、その評判を知っている人たちは避けていたという感じだそうだ。


 だからあの時俺が感じた奇妙な視線は感じた通り同情の視線で『自分でなくてよかった』といたものだったようだ。


 どんどん謎が解けていく。

 そういえば、この船のキャビンで説明されるまで葵さんとは仲良くなった感触はあったが、どうしても入り込めない一線のようなものを感じて正直心配していた。


 遊ばれている筈は無いが、なんだろう。

 気持ち悪いというのには違うか、とにかくもやもやとするところがあったのは確かだが、先ほどの説明で、そのもやもやの部分が分かり、正直すっきりとした気分だった。


 そうなると、この先に期待してしまう。

 もう俺と葵さんとの間には隠し事などない……いや、俺の方にあったか。

 ハニートラップにしっかりと引っ掛かっていたことだが、どうもそれも葵さんは知っているようだ。


 すると葵さんは着ている服を脱ぎだした。


「お話を聞いておりますよね。

 私は殿下に抱かれた女ですが、それでも受け入れてくれますか」


 葵さんは、緊張した面持ちで俺にそう聞いてくる。


 ここでかっこよくできればよかったのだが、あいにく素人童貞の俺には正直に答えるしかできなかった。


「そ、そ、そんなこと関係ありません。

 す、す、好きです、葵さん」

 すると葵さんは裸で俺に飛び込んできた。


 この後は、このまま新婚初夜の儀式を迎えた。


 することをして、ピロートークも済ませたころに、操舵室から連絡が入る。

 まもなくドバイにつくというから、俺は身だしなみを整えて操舵室に向かった。


 この時裸の葵さんが身だしなみを整えるのを手伝ってくれたのは、本当にうれしかった。


 俺たちを乗せたクルーザーは以前見本市で使った場所で、ポートまで一緒だった。

 ほとんど自動操船で桟橋に着け軍人さん上がりの美人女性の乗員の内、二人がすぐに舫の処理にかかる。


 もう俺の出る幕がない、というよりも、こういうところは彼女たちの方が経験豊富だ。

 何せ乗船時間が倍どころか桁が違うから、任せられるところはすべて任す方針を執った。


 結構この方針、彼女たちには好評のようで、俺も彼女たちから好意を以て受け入れられたと思う。


 港でアプリコットさんの出迎えを受け、これまた見覚えのあるホテルに連れていかれた。

 港からすぐそばにある、あのバカでかいコンベンションセンターを併設しているホテルだ。


 俺たちはアプリコットさんに案内されるままホテル最上階にあるデラックススイートルームに連れていかれた。

 まあ当然だよな、こっちには王族がいるのだから、王族用に抑えた部屋のだろう。

 部屋の中にはすでに人が待っている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る