第8話 とにかくすごい金持ちの別荘

 商談は平行線のまま埒もあかないので、俺はここで一つの提案を出した。

 即現金で買い取るという王子に対して、預かり金としてそれなりの金額をすぐに振り込んでもらい、会社としては王子に対して試乗という名でクルーザーを自由に使わせるという案を提案してみた。


 王子の切羽詰まった感じをプロジェクトリーダーも感じ取ったのか、すぐに社長と連絡を取り合い、俺の提案を会社には了解を取った。


 後は王子の側の問題だ。

 王子の方も、俺からの提案ならばと、すぐに送金の手続きを取る。

 ドイツにある会社の銀行口座に振り込むことで、仮契約を済ませた。


 後は試乗という名で王子に船を引き渡すのだが、会社側からも王子の方からも両方から俺も一緒に船に乗れとあった。


 え、確かに試乗という名目なのだから会社側から営業担当者が同行するのはわかるが、あくまで名目だろうと言いたいのだが、王子側からしたら操船に関して不慣れというよりも全くわからないという面もあり、だからと言って俺かって気がしなくもないが、今までさんざん王子に付き合っていた関係で、俺にお鉢が回った感じだ。


 別に一月出張が伸びると思えば何のことはないと、俺は了承して、すぐに王子に船は渡された。


 船内にある備品については販促用に持ち込んだモニター類やPCなどは会社で片づけることになるが、試乗期間でもあることだし俺も乗船しているので、俺の下船と一緒に引き上げることになったので、本当にすぐに王子を載せて船はドバイの港を離れた。


 ここドバイからだとローレン王子の国であるブルガン王国はすぐだ。

 ブルガン王国にどれほどの港があるかは知らないが、たとえ一番遠くにある港だって、今からなら夕方になつけるだろう。


 俺は港から、ほとんど自動操船で船を出しながら、目的地を美女に聞いた。

 すると、王子から英語で「とりあえずインド洋に出してくれ」とだけ言われた。


 インド洋って言ったって、ものすごく広い。

 それに何より、俺たちがつい最近死ぬ思いをした場所だけあって、俺にとって少しトラウマでもある。

 とりあえず、港からでればアラビア海だが、そこを出ればインド洋になるので、アラビア海を出る方向に進路を取る。


「ミスター本郷。

 インド洋にセーシェルがあるよね。

 そこ行ってみようか」


 偉く簡単に言われたけど、簡単に行ける場所なのか。

 俺は操舵室にある自動海図検索で、検索してみた。


 え、インド洋のど真ん中。

 これって、地図上だから同じ画面に出ているけど縮尺が違うよね。


「~~~~~~~」


 美女が殿下に話しかけているが、何語かわからない。

 俺が不思議そうな顔をしていたら、何を殿下に言ったかを日本で教えてくれた。


「今日中にはつかないでしょうが、都合がいいかもしれませんね」 

 だって。


 しかし、都合がいいってなんだ。


 どうもすぐにドバイを出たがっていた割にはすぐに帰国はしたくはないらしい。

 結局俺は言われるままに航路を決めた。

 でも、急がなくてもいいらしく、操船は昼だけにして、夜は休むようにしてくれた。

 さすがに全員が寝るわけにもいかないだろうと思ったのだが、休まないと体が持たないので、夜は操舵室にあるソファーで仮眠して、午前中ベッドで寝かせてもらった。


 そんな感じで、距離はあったが3日で行けなくもないところを一週間かけてセーシェルに向かった。


 この一週間の船旅でも俺には収穫があった。

 あの通訳をしてくれる美人とかなり仲良くなったのだ。

 20代、下手をすると18,19歳かと思った彼女はなんと俺と変わらない、いや一つ年上の36歳だった。

 実は名前も聞いて連絡先もゲットしてある。

 名前を永谷葵さんという。

 それ以上の個人情報は教えてくれなかったけど、日本人であることには変わりがないが、日本には一度も行ったことがないという話だ。

 海外に出るとそういう人もいるんだと思うくらいの感想しか俺には持ち合わせていない。


 日本で生まれ、日本育ちの俺だが、だから何だという感じだ。

 この年まで海外に出たこともなければ日本国内も客先と自宅のある東京周辺くらいしか記憶がないのだから、偉そうなことは言えない。


 葵さんは日本に入ったことがないらしいが殿下について一緒にセーシェルや、ヨーロッパ各国にも行ったことがあるらしい。


 モナコには殿下の別荘もあるらしく、また、セーシェルには殿下の大叔父の別荘があるとかで、何度か行ったことがあると聞いた。


 うん、俺以上にいろんなところを観光している感じで、正直うらやましかった。


 とにかく、このクルーザーは省力化に命を懸けていただけに自動操船関連が充実している。


 操舵室を離れても、自動操船モードにしておけば夜中でも移動できたのだが、それをする必要がないと、移動は昼だけにしているが、何度もキャビンなどで休憩しながらお話をさせてもらっている。

 当然、殿下とも何度も世間話をしながら、彼女ほどではないだろうが仲良くはなったと自負している。


 俺たちは無事にセーシェルについた。

 船をエニス王子の大叔父が持つ別荘の船着き場に船をつけた。 

 すぐそばにはプライベートビーチまである絶好の別荘地だ。

 この時ばかりは世界のセレブのすごさに心底驚いた。

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