師匠が師匠だから、やはり姉弟子も……
私はフランクリン、一応この国の宮廷魔導師長だ。
宮廷魔導師長って、この国の魔導師のトップなんだよな? なんで私なんだ?
どう考えたってアカリ師匠がなるべきだろうに。
師匠は渡り人だから、表に出てしまうとよからぬ輩が寄ってきてしまう。
だから師匠が公職に就かないのは仕方ないけど、私は師匠に教えられたことをやっているだけで、各国から賢者の称号を贈られてしまった。
違うだろう、本当の賢者はアカリ師匠だ。言えないけど。
私は確かに魔法が好きで、ヴォイツにまで行って魔獣討伐でレベルを上げてはいた。
魔獣を牽制できる魔法が使えるようになってよろこんでいたが、アカリ師匠に会って、それは単なるレベルごり押しの拙いものなんだと思い知った。
配下の魔導師のレベル上げにも師匠は付き合ってくれたことがあったけど、その時に見た師匠の魔法は、私の常識を一変させるものだった。
見えない盾で魔獣を身動きできなくさせ、配下の者を目の前に立たせて魔獣を討伐させる。
この方法が一番魔素の吸収率が良く、レベルが上がりやすいからと。
しかもどういうわけか、アカリ師匠は魔獣がいる位置まで分かっていた。
そして配下がレベルアップする討伐量に達したかどうかさえも。
体内魔素の量で分かる? 他者が持つ魔素の量なんて、なんでわかるんだ? 魔素感知? 魔素の掌握範囲? 掌握率? 聞けば簡単に、しかも分かりやすく原理を教えてくれた。
師匠は魔法の仕組みというものを、きちんと理解していた。
私みたいにレベルごり押しで適当に魔法を使ってるんじゃなくて。
もうこの時点で師匠は卓越した能力の持ち主なんだって理解したけど、師匠は帰り道で出て来た魔獣を遠くから一撃で仕留めてしまった。
私に原理を解説しながら、魔獣の方さえ見ることもせずに。
当時の私は師匠が何をしたのかもわからずにいたが、今なら私も師匠と同じことができてしまう。
師匠は正しく魔法を理解していたんだ。
私を宮廷魔導師長に押し上げた新型魔導機器の製造だってそうだ。
当時十二歳の少女だったマーガレーテは、たった二、三か月師匠に師事しただけで、いともたやすく魔導機器を作り上げてしまった。
魔導機器を作るなど初めてだったのに。
そのあとで私とマーガレーテとの違いを説明され、実際に木の札を三角に積むことで違いを見せ付けられた。
マーガレーテの方がはるかにレベルが低いのに、私にはマーガレーテのように魔法を操ることができなかったのだから。
ただ、同時に修練方法を教えられたので、落ち込んでいる暇など無かった。
実際に教えられた修練を繰り返してみれば、日に日に魔法の精度や威力が上がっていく。
配下たちも、毎日見える成果に、修練にのめり込んだ。
結果、地方の領付魔導師が、気付けば宮廷魔導師と魔導師長だ。
先日騎士団から、壁の向こうを把握できる魔導師の派遣依頼があった。
部下が教えている者たちの中から何とかできるだろう者を選んだが、メトニッツの元魔法兵も参加するらしい。
選んだひよっ子たちは宮廷魔導師と辺境の魔法兵を一緒にされたと憤っていたが、少々増長のきらいがあるこいつらにはいい経験になるだろう。
メトニッツの元魔法兵ということは、アカリ師匠の指導を受けていたということだぞ。
あの師匠が、たとえ片手間にでも指導をしていたとしたら、その元魔法兵の実力はかなりのもののはずだ。
行ってこい。そして現実を見てくればいい。
……派遣から戻った魔導師たちが、シュトラウス領での人材育成プランへの参加者の席を取り合っている。
お前たち、宮廷魔導師たるものが辺境で学ぶことなど無いと、派遣を押し付け合っていたではないか。どういう心境の変化だ。
詳しく聞いてみると、騎士団の捜査に参加したメトニッツの元魔法兵は、マーガレーテの姉弟子だった。
つまり私の姉弟子でもあるわけだ。
ははは、それはさぞ度肝を抜かれたことだろうな。
だが、実力差を見せ付けられて落ち込むどころか、シュトラウス領に行きたがって席を取り合うほどの意気込みとはどういうことだ?
…さすがはアカリ師匠の愛弟子といったところか。
単に実力を引き上げに行くのではなく、実力を引き上げる講義ができる環境を学んで来いと焚きつけたのか。
これは、騎士団を巻き込んでの席の奪い合いになるな。
魔導師長の席にいる私でさえ、心惹かれるものがあるのだから。
こうなると、派遣するのはこいつらではダメだ。
おそらくその講義を受けた者は、次代の魔導師長になるだろう。
さて、誰を派遣するべきか。
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