不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。

久遠 れんり

第1章 新しい人生の始まり

第1話 腐っていた人生と召喚

 俺はある日、この世界に見切りをつけて崖から飛んでみた。

 靴は脱いでいない。


 そして訪れた、白い世界。

 そう、その世界は白かった。

 そして、凍てつく寒さ。

 気温はたぶん絶対零度くらい。


 そんな中、一人の女の人が、氷の椅子に座り泣いていた。

 俺に気が付き、ふと顔を上げる。


「うーん。七〇点」

 なんか、いきなり点数をつけられた。

 そして悩んでいる。


「よし仕方が無いけれど、あなたで良いわ」

 じっと見たまま、しばらく人を無視して考えていたようだが、そんな事を言い出す。

「ねぇ、佳人ぉ。あなたしか頼れる人が居ないの……」

 何で俺の名前? それにさっき、仕方が無いって言ったよね。


「まあ、周り誰も居ませんから、そうなりますね」

 色々と気になるが、突っ込んでみる。

 ああ、言葉的にね。


「ううん。そんな意地悪、ゆ、わ、な、い、で。私…… アデルミラ=ヘルトルディス=アバスカル=デルリオ=アプロディーテー、悲しくて泣いちゃうわよ」

 なんか、体をくねくねしながら言ってくる。

 あーと、その早口言葉何?


 人が絶句しているのを良いことに、コイツは説明を始めた。


 この世界に、人が生まれた時、指導者として一人の少年を自ら創り上げたと。

 カスタマイズをして、三千年ほど統治をさせたけれど、生物的な限界が来て、彼は死んでしまった。

 そのキュートで美しく、かわいい彼の子孫なのに、今の王族達は駄目だと。

 かわいくないと……

 直接手出しが出来ないから、駆除して。

 あんたならまあ、及第点だから統治を任せてあげる。


 要約するとそんな感じ。

 話をしながら、凍てついた心が多少ましになったのか、気温が上がってきた。

 そして、派遣をされるために…… いや覇権を取るためにチートを貰った。


「じゃあ、お願いね」

 ちゅっと、キスされた瞬間、体の中に何かが流れ込み、目や鼻、耳から血が流れ出す。

「あら、ノーマルの人って弱いのね。だけど、あなた七〇点だから、仕方ないわよね」

 そこで意識が途切れた。



 そして、体中は痛く。

 頭痛もひどい。

「頭が割れそうだし、腕も足も痛い」

 どのくらい倒れていたのだろう、俺の手足に三匹の狼君達が噛みついて、肉を食いちぎろうとしているのか、噛みついたまま首を振りながら後ずさり。

 甘噛みではない様子。だが、謎材質の服も体も丈夫な様だ。


「ああ、君達。痛いからやめなさい」

 そう言ってみるが、目はこちらとあわせたまま、噛むのに必死。

 手を振り、足を振り上げる。


 体は、かなり強化されているらしく、彼らはどこかへ飛んで行ってしまった。


 周囲は鬱蒼とした森。


 周りで、驚きながらも、まだ四匹ほど、こちらを向いて唸っている。

 一歩近寄る。

 みんなが下がる。

 一歩前へ。

 みんなが下がる。

 すると、一匹白い奴が、他の奴らに押し出される。


「世知辛い、犬の世界でもいじめかよ。がああああっ」

 手を広げ、威嚇をしてみる。


 みんな尻尾を膨らませながら、股の間に挟んで逃げていった。

 あの一匹以外。


 彼は、腹を出して服従。

 いや。すまない彼女か。

 怖かったのか、お漏らしをしてる。


 まあいい、くるっと周りを見回して、南だろうという方向へと歩き始めた。


 なぜか…… 理由はない。なんとなく。


 歩きながら、地球でのことを思い出していた。



 高校を卒業までは、普通の家だと思っていた。

 土建屋兼、農家。


 用水路の橋や、擁壁を造っていた親父。

 それの手伝いで、忙しくしていた母親。


 高校に入り、俺も休みの時には手伝っていた。

 型枠を作り、鉄筋をくんで、生コンを入れて貰いながら、バイブレータや垂木で一生懸命突く。そうしないとスが入るから。一般的にはジャンカとか言われる。

 

 十手シノーとかを持ち出して、ガキの頃とかチャンバラをして叱られた。

 十手シノーは、番線を締める道具。

 型枠に通したりする、ふとめの針金。

 そいつをねじりながら引き締める。

 それの形が、先の尖った十手なんだよ。

 遊ばないわけが無い。


 そうガキの頃は、楽しかった。


 だがそれが、高卒で就職をしてからだ。

 すぐに、母さんから金の無心が始まった。

「一万で良いから貸して」

 それが最初。

 すぐに五万、十万と大きくなる。


 高卒の初任給。そんなに多いわけもない。

 クレジットカードのキャッシング枠。

 それが、すぐにノンバンクのカードに変わった。


 何とかしながら、借りては貸す。

 貸しては返してもらえず、次に走る。

 当然、俺の足は実家から遠のく。

 すると、給料日になると、母親から電話がかかってくるようになった。

 会社へ……


 弁護士さんへ相談をしてみるが、契約をしたのは君だ。払わなきゃいけない。

 そう、親は、金がなかったようで、返してくれと言っても返さない。

 お前が借りたのだから、自分でなんとかしろの一点張り。



 それでまあ、喧嘩をして数年後。

 いきなり、ローン会社から本人確認の電話が来る。

 当然否定。


 すると母親から電話。

「なんで、うんと言わないんだい?」

「何のことだ?」

「ローンだよ。せっかく道具を買う約束をしていたのに、向こうさんにも迷惑を掛けた」

 とまあ、犯罪だよ。


 また弁護士さんに電話。


 電話をして、釘を刺して貰う。

 それから、脅しがきいたのか、電話はかかってこなかった。

 そのおかげで、なんとか、少しづつ借金も返して、おれは安心していた。


 だけど、いきなり証券会社から電話。

 FXの追証おいしょう信用取引レバレッジの回復のために、五百万払えと言うことだ。

 そんなのは覚えもないし…… だが、俺はそれが親の仕業だと理解をした。


 そうその時、もう少し調べればよかった。

 証券会社からの電話こそが、嘘だということを……


 一応少ないながらも生命保険もある。

 だが素直に渡したくもないし、少し事件性を匂わせる仕掛けをして飛んだ。

 そうは言っても、親による詐欺? とメモをしただけ。

 たぶん本当にそうだったようだが、俺はすでにこの世界にいなかった。


 そう、異世界の森で、犬に囓られていた。

 だが、こちらの世界は、意外と楽しいところだった。

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