不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。
久遠 れんり
第1章 新しい人生の始まり
第1話 腐っていた人生と召喚
俺はある日、この世界に見切りをつけて、崖から飛んでみた。
靴は脱いでいない。
そして訪れた、白い世界。
そう、その世界は白かった。
そして、凍てつく寒さ。
気温はたぶん絶対零度くらい。
―― 知らんけど。
そんな中、一人の女の人が、氷の椅子に座り泣いていた。
俺に気が付き、ふと顔を上げる。
じろじろと人を見て、眉間に皺が寄る。
「うーん。七〇点」
なんか、いきなり点数をつけられた。
そして、俺を見たせいか、悩んでいる。
「よし。仕方が無いけれど、あなたで良いわ」
じっと見たまま、しばらく人を無視して考えていたようだが、そんな事を言い出す。
すっくと立ち上がり、近寄ってくる。
腰をくねらせ、大昔に流行ったというモンローウォーク?
側に来ると、俺の顎を指でなで上げる。
今気がついたが、此の女性のドレス、近くで見ると透けている。
胸の先っぽが、つんとなっているし……
寒いからなのか??
「ねぇ、佳人ぉ。あなたしか頼れる人が居ないの……」
何で俺の名前? それにさっき、仕方が無いって言ったよね。
「まあ、周りには誰も居ませんから、そうなりますね」
色々と気になるが、突っ込んでみる。
ああ、言葉的にね。
「ううん。そんな意地悪、ゆ、わ、な、い、で。私…… アデルミラ=ヘルトルディス=アバスカル=デルリオ=アプロディーテー、悲しくて泣いちゃうわよ」
なんか、体をくねくねしながら、言ってくる。
あと、その早口言葉は何?
人が絶句しているのを良いことに、コイツは説明を始めた。
この世界に、人が生まれた時。指導者として一人の少年を自ら創り上げたと。
カスタマイズをして、三千年ほど統治をさせたけれど、生物的な限界が来て、彼は死んでしまった。
そのキュートで美しく、かわいい彼の子孫なのに、今の王族達は駄目だと。
そう、ただの人と交ざり、かわいく無くなってしまった……
今となると、直接手出しが出来ないから、駆除して。
あんたならまあ、及第点だから統治を任せてあげる。
要約するとそんな感じ。
話をしながら、凍てついた心が多少ましになったのか、気温が上がってきた。
まあ冷えていた原因は、別の奴の所為だったが、後に分かる。
そして、派遣をされるために…… いや覇権を取るためにチートを貰った。
「じゃあ、お願いね」
ちゅっと、キスされた瞬間、体の中に何かが流れ込み、ひどい頭痛と体が軋み、筋肉からブチブチと音が聞こえる。手の平に血が降ってくる。どうも目や鼻、耳から血が流れ出てたようだ。
「あら、ノーマルの人って弱いのね。だけど、あなた七〇点だから、仕方ないわよね」
少しだけ困った顔をする女神。
「与えた能力は……」
そこで意識が途切れた。
―― そして、体中は痛く。
頭痛もひどい。
「頭が割れそうだし、腕も足も痛い」
どのくらい倒れていたのだろう。
気がつけば、俺の手足に三匹の犬君達が噛みついて、肉を食いちぎろうとしているのか、噛みついたまま首を振り、後ずさり。
甘噛みではない様子。だが、謎材質でできたこちら側での一般的な服? 犬に噛まれても平気の様だし、体も丈夫な様だ。
「ああ、君達。痛いからやめなさい」
そう言ってみるが、目はこちらとあわせたまま、噛むのに必死。
「ふん!!」
手を振り、足を振り上げる。
体は、かなり強化されているらしく、彼らはどこかへ飛んで行ってしまった。
見回すと、周囲は鬱蒼とした森。
周りで、驚きながらも、まだ四匹ほど、こちらを向いて唸っている。
立ち上がり、一歩近寄る。
みんなが下がる。
一歩前へ。
みんなが下がる。
すると、一匹白い奴が、他の奴らに押し出される。
「世知辛い、犬の世界でもいじめかよ。がああああっ」
手を広げ、威嚇をしてみる。
みんな尻尾を膨らませながら、股の間に挟んで逃げていった。
あの白い一匹以外。
彼は、腹を出して服従。
いや。すまない彼女だったか。
怖かったのか、お漏らしをしてる。
まあいい、くるっと周りを見回して、南だろうという方向へと歩き始めた。
なぜか…… 理由はない。なんとなく。
歩きながら、地球でのことを思い出していた。
高校を卒業までは、普通の家だと思っていた。
土建屋兼、農家。
用水路の橋や、擁壁を造っていた親父。
それの手伝いで、忙しくしていた母親。
高校に入り、俺も休みの時には手伝っていた。
型枠を作り、鉄筋をくんで、生コンを入れて貰いながら、バイブレータや垂木で一生懸命突く。そうしないとスが入るから。一般的にはジャンカとか言われる。
十手シノーとかを持ち出して、ガキの頃とかチャンバラをして叱られた。
十手シノーは、番線を締める道具。
番線とは、型枠を絞めるために通したりする、ふとめの針金。
そいつを穴を開けて通し、ねじりながら引き締める。
それの形が、先の尖った十手なんだよ。
子どもが見つければ、遊ばないわけが無い。
そうガキの頃は、楽しかった。
だがそれが変わったのは、高卒で就職をしてからだ。
すぐに、母さんから金の無心が始まった。
「一万で良いから貸して」
それが最初。
すぐに五万、十万と大きくなる。
高卒の初任給。そんなに多いわけもない。
クレジットカードのキャッシング枠。
それが、すぐにノンバンクのカードに変わった。
何とかしながら、借りては貸す。
貸しては返してもらえず、次に走る。
当然、俺の足は実家から遠のく。
すると、給料日になると、母親から電話がかかってくるようになった。
出ない俺のスマホではなく、会社へ……
弁護士さんへ相談をしてみるが、契約をしたのは君だ。払わなきゃいけない。
そう、親は、金がなかったようで、返してくれと言っても返さない。
支払いどうすんだよと文句を言う。だが、お前が借りたのだから、自分でなんとかしろの一点張り。
俺は切れた。
それでまあ、喧嘩をして数年後。
いきなり、ローン会社から本人確認の電話が来る。
当然否定。
すると母親から電話。
「なんで、うんと言わないんだい?」
「何のことだ?」
「ローンだよ。せっかく道具を買う約束をしていたのに、向こうさんにも迷惑を掛けた」
とまあ、犯罪だよ。
また弁護士さんに電話。
電話をして、釘を刺して貰う。
それから、脅しがきいたのか、電話はかかってこなかった。
そのおかげで、なんとか、少しづつ借金も返して、おれは安心していた。
だけど、いきなり証券会社から電話。
FXの
そんなのは覚えもないし…… だが、俺はそれが親の仕業だと理解をした。
そうその時、もう少し調べればよかった。
証券会社からの電話こそが、嘘だということを……
一応少ないながらも、生命保険もある。
だが素直に渡したくもないし、少し事件性を匂わせる仕掛けをして飛んだ。
そうは言っても、親による詐欺? とメモをしただけ。
たぶん本当にそうだったようだが、俺はすでにこの世界にいなかった。
そう、異世界の森で、俺は犬? に囓られていた。
だが、こちらの世界は、意外と楽しいところだった。
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