第20話 登録完了。そして夜。

「どういう事だよ! 不合格って!!」

ドンっ!! と机を叩き、祐葉は詩枝南しえなさんに詰め寄る。自分が下された判定に納得がいってないのだろう。それはぼくにも痛いほど伝わってきた。

「先ほど申し上げた通りです。あなた方は自身の心の傷に対してしっかりと向き合わなかった。それが全てです」

「...ッ......!!」

詩枝南さんはあくまでも毅然とした態度で答える。

「ここで行える試験は以上となります。ですが、不合格となった方々もいずれ心の中の自分と対話する機会は必ず訪れます。チャンスはこの1度だけではありません。そしてあなた達が【異能】の開花を目指し、そして『伝説の7人』を探していらっしゃるのならこちらを目指すのがよろしいかと思います」

そうして詩枝南さんは1枚の紙を手渡した。

そこにはここから目的地までの道程みちのりが記された地図のようなものだった。

「こちらの国では、ここ最近獣人の残党の襲撃が何故か増えているとのことです。そこで、我々の研究所に討伐の派遣要請が来ました。あなた達は今からこの研究所の一員として所属し、討伐要員として向かっていただけますか?もちろん討伐が出来た報酬も出ますし、所属費用もかかりません。そして、ここに所属して頂ければ、こちらが管理する寮棟に住むことが出来ます。つまり、最低限の衣食住は保証されます。いかがですか?」

ぼく達は特に拒む理由も無かったので、この依頼を承諾した。

「では、明日の朝にでも現地へお願いします。お部屋の方は早速手配させていただきますね」

それからぼく達は簡単な書類手続き等を済ませ、用意された部屋へと向かった。部屋は5人が暮らすには十分な広さがあり、1人一部屋、おまけにシャワー付きだ。電気も通ってるし、澁鬼くんの民宿には劣るけども、これまでの野宿生活になんて二度と戻れなくなるんじゃないかと思えるほど充実していた。

「それじゃあ、今夜は各々ゆっくり休みましょう。疲れをしっかり取って、明日へのぞむとしましょう」

雪姉ぇがそう提案すると、ぼく達はそれぞれの部屋に入る。

ぼくはベッドへ向かって身体の全てを預けてダイブした。

「はぁ〜ふかふかのベッド····幸せだ〜······」

野営していたのはここ1日2日だけなのに、とてつもない幸福感だ。澁鬼くんの宿の布団も良かったけど、これはこれでまた良い····。

「············。」

ぼくはふと澁鬼くんの母親のことを思い出した。ぼくたちが澁鬼くんに対してしてあげられる正解は一体何なのだろうか。

ぼくはそんな事を考えるも、疲れからか、やがて深く心地よい睡魔に、ゆっくりといざなわれて行った。








────澁鬼視点────



「フッ!! フッ!!」

俺は皆が寝静まった夜に外へ出て、日課である拳の突きに加え、今回の異能力試験で渡された模造刀を握りしめ、素振りを繰り返していた。

何が駄目だったのか、考えても分からない。だが、新入りの俺が足を引っ張る訳にはいかない。

苦しいことも、辛いことも、日々鍛錬を積み上げる事で振り払える。忘れられる。俺はそう信じている。これは努力なんかじゃない。俺の習慣なんだ。

俺の心にそう言い聞かせると言わんばかりに、俺は素振りをただただ続けた。








────祐葉視点────



「クソッ...!! 何がダメだったんだ...」

俺は廊下からただひたすら外で素振りを繰り返す澁鬼を見かけ、しばらく眺めていた。そこからどんどんどんどん心から溢れる悔しさを必死に抑え込んでいた。

俺は自分の心と呼べる存在と戦い、結局屈服させることは出来ず、異能は開花しなかった。そこに佐斗葉は異能開花に目覚めたという事実が、俺の焦りを募らせた。俺は自覚した。佐斗葉と自分と比べ、無意識に自分があにゆえに佐斗葉よりも優れていると思っていた事に。

「こんなんだから、俺は異能に目覚めねぇのかな...」

そんな弱音を窓に吐くも、当然何か返ってくるわけでもない。

あんなに努力している澁鬼を見ても、自分も真似しよう、参考しようなんて思いは出てこない。あいつも試験に落ちてしまったのだから。澁鬼のために何かしてあげたいと思うが、特に良い案は出てこない。

俺はこの言葉では表せないどうしようも無い気持ちを閉まい込み、部屋へと戻った。俺は、自分の心とどう向き合えば良いのか、何も分からなかった。




─────────────────



第2章はこれで終了です。

ここまで読んでくれた方、たまたま開いてくれた方、本当にありがとうございます!!読んでくださる事が何よりのモチベーションです!!

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