第8話 滞在決定
ぼく達は負傷した男の子と共に山に囲まれた町の前まで着いた。
そこには入国審査官ならぬ入町審査官なる者がそこに立っていた。
「君たちは?」
「旅の者ですが、先ほど奥の森で獣人に襲われている子を保護しました。この子の手当てと、私たちのこの町への滞在を許可して欲しく。」
凛とした態度で雪姉ぇが答える。
すると審査官は雪姉ぇがおぶる子を覗き込む。
「
「知っているんですか?」
「この町の住人だ!事情は分かった。とりあえず君たちの入町を一時的に許可しよう。詳しい話は後で聞かせて欲しい」
そういうと審査官は門を開け、ぼく達を中へと案内した。そしてぼくらは審査官の休憩室へと入っていった。
雪姉ぇは休憩室内のベッドに男の子を寝かせ、審査官にこれまでの経緯を説明した。
「そうだったのか。ありがとう。町民の命を守ってくれた君たちに感謝する」
そう礼を言い、審査官は言葉を続けた。
「君たちはここへの滞在を希望していたが、何日間滞在する予定だ?」
「3日間ほど」
「······ふぅ、そうか。分かった。君たちへの入町を歓迎する」
祐葉の返答に審査官はどこかホっとしたような反応を見せ、とても柔らかく優しい笑顔を見せた。
「う······うぅ····」
するとベッドで寝かせていた男の子が目を覚まし、意識を取り戻した。
「
審査官が彼に駆け寄る。
「俺····は······?」
「獣人に襲われている所を彼らが助けてくれたんだ。幸い軽傷だ」
「そうだったのか...あの、ありがとう·····」
背丈はぼくよりちょっと低く、色素の薄い髪。右半分が外ハネのセット、左半分がおかっぱという特徴的なヘアスタイルをしている。
審査官と一緒に彼の手当てをする。どうやら自分で歩けるぐらいまでは回復したらしく、ある程度は彼自身で傷跡に包帯や傷あてをつけていた。
手当てが一段落したところでぼくらはもう一つの目的を審査官に聞くことにした。
「あの、ここで滞在するに当たって、泊まれる宿を探しているんですが」
「あぁ、それだったら──」
「それなら俺のとこに来ないか?俺の家は宿屋だから」
審査官の言葉を遮るように、傷を負った少年、
「そうだな、それが良い。
「あぁ、平気さ。」
「じゃあ君たちは彼の家である宿に向かうと良い。私はこれで失礼するよ」
審査官はそう言うと部屋を後にしようと立ち上がった。
「え?持ち物検査とかはしないんですか?」
「それは君たちが犯罪を犯さない限りはしたりしないよ。何もしてない君たちにそんなことをするのは失礼に当たるだろう?」
ぼくの質問に審査官は優しく笑顔で答え、部屋を出ていったのだった。
「ここが俺の家で、民宿だ」
平屋ではあるが、外から見ても5部屋は確認出来るとても大きな宿にぼく達は圧倒された。
カランコロン〜
どこか懐かしい鈴の音と共にぼく達は中に入る。
「澁鬼!!一体何があったの!?」
傷だらけの彼を見て受付にいた女性が慌てて駆け寄ってきた。
「母さん、実は····」
澁鬼くんはこれまでの事を母親とぼく達に説明してくれた。
どうやら彼は近くの湖の
確かにそんな状況で覚えている事などほとんど無いのは無理ない話かもしれない。
「この度は息子を救ってくださり本当にありがとうございました」
深々とお辞儀をしてお礼を言う澁鬼くんの母親。
彼と同じ髪色を背中まで伸ばし、茶色ロングスカートがよく似合う落ち着いた雰囲気の女性だ。この民宿の経営者であり、支配人でもあるらしい。
ぼく達は澁鬼くんの紹介でこの民宿で3日間の滞在、つまりはここで2泊したいことを伝えた。
「部屋には空きがあるので、良かったら1番良い部屋を。息子を助けて貰った恩です。お代はいただきません」
ぼく達はそれは悪いと断ったが、澁鬼くんのお母さんはどうしても譲らず、仕方なしにぼく達は折れ、お言葉に甘えることにした。
だけどせめて従業員さんとお母さんの手間を減らしたいって事で部屋は1つにしてもらった。
「まさかこんな部屋に泊まれるなんてねぇ」
「ホントになぁ」
ベッドにドサッと飛び込みながらぐでーんとする雪姉ぇに対して祐葉も自分のベッドにゆっくりと腰掛ける。
ぼくらは久しぶりに温かく柔らかいベッドに寝れることに幸せを噛み締めていた。
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