第一部 生けるゆうれい

第一章 生きるだれかへ

生きているなかれ


 なんで生きているのだろう。

 大斬葦ノ《おおぎりよしの》は、大斬葦ノの墓石まえで思う。

 墓場で新参の墓たら、なまえ彫ってあって堂々と硬く滑らかである。

 ほかのずたぼろで、ざらつきそうな面構えで、やはり硬く黙っている。

 新しい墓石の囲って、黒い服の人らの涙たら惨めである。

 両親もあって、辛いものへハンカチあてて吸わせている。吸い切れていない。

 むしろ葦ノなら、静かで不思議に瞬くだけだった。

 反復横跳びしようとして帰ってこなかったんだなと他人ごとで思った。

 しかたない、こうなればさっさ成仏してしまおう。

 割り切ってしまって、でも成仏なんぞどうやってやるんだろ。

「世のなか教育不足だなぁ」

 言ってみて、だれせよ聞こえない響き。

 自身せよちょっと変わって聞こえ、きっと体のないからだった。

「肉体へ音の響かないんだ」

 録ったものの聞く気分。どうも人だった名残で気恥ずかしかった。

 線香ゆらり一筋みじかい。

 やがて尻尾で広がって曇天へと消えて。

 あんなふうに生きていたのかもしれない。

「そもそも私とは、なんで生きてたんだろう」

 またここへ回帰した。

 幽霊であって、こう意志の回って半端に残る。

 やはり呟いた。

「なんで生きているのだろう」

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