噂の黒マント 〜街角の隠者〜

平中なごん

一 黒マントの都市伝説

 〝黒マント〟──そんな名前の怪人のウワサが、まことしやかに巷で囁かれている……。


 オカルトに少しでも興味のある者ならば、誰もが知るそれなりに有名な都市伝説だ。


 なんでも真っ黒いマントをその身に纏い、さらに頭まで黒いフードで覆い隠した黒尽くめの人物で、運悪くそれに遭遇した者は命を奪われる…なんて、一種の〝死神〟のようにもいわれている存在だ。


 いつの頃からか全国的に目撃情報が聞かれ、わたしの住む小江越ごえごえ市でも、街のシンボルである時計塔の天辺に、そいつが立っているのを偶然見かけた…などという話があったりなんかする。


 だが、その時計塔の目撃談からもわかる通り、なんとも嘘臭くてどうにも眉唾感が否めない。常識ある人間ならば、ただの都市伝説と一笑に付すところだろう。


 どこかの都市や地方ではなく、全国津々浦々に現れるというのもなんだか現実味のない話だし、〝口裂け女〟や〝カシマさん〟といった都市伝説と同じようなものなのかもしれない。


 それにその名前や恰好からして、昭和の初期に流行したという有名な都市伝説〝赤マント〟を原型に、新たに生み出されたリバイバル的な噂話とも考えられる。


 もちろん、わたしも単なる都市伝説と〝黒マント〟の存在を信じてはいなかった……あの時までは──。

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