子守り話

九戸政景

本文

 週末の午前中、私は添い寝をしながら静かな声で歌を歌う。隣にはまだ六歳の娘がいて、私の歌を静かに聞いているけれど、少しずつうとうとし始めていた。



「そろそろ寝る?」

「まだ……聞いて、たい……」



 そうは言うけれど、コックリコックリとしているし、言葉も途切れ途切れだ。そんな娘を愛おしく思いながら私は歌を続ける。私がお腹をポンポンと叩くリズム、静かな歌声に娘はうつらうつらし始めると、そのまま目を閉じ、ゆっくりと寝息を立て始めた。



「おやすみなさい」



 夢の中に行った娘に静かに声をかける。すうすうと寝息を立てる娘はとても可愛く、生涯大切にしたいと思うほどだった。私は家族とうまくやれなかったからこそ、この子をより大切にしたい。他の人達から大切にされてきたように。



「寝ちゃったな」



 そばで見ていた夫が笑う。学生時代に出会い、ウチの親に啖呵を切ってでも私と添い遂げようとしてくれた大切な人。それが夫だ。



「うん……そうだね」

「お前も寝てて良いぞ? よかったら子守唄でも……」

「……そうだね。それじゃあお願いしようかな」



 夫が優しく笑った後、私も目を閉じた。耳に拙くも優しい声が届く。音楽の評定がそんなに高くなかったけれど、夫の声はとても優しくて私はその歌声が好きだった。


 そしてその内、私もうつらうつらし始める。



「……おやすみなさい」

「おやすみ」



 幸せと嬉しさを感じながら私は眠り始める。おやすみなさい。心の中でもう一度言った後、私は娘と同じ夢の中に向かっていった。

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子守り話 九戸政景 @2012712

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