神様の筆は今日も重い

パントガンマン

第1話 前略、貴方は神になりました

先ずはメタな視点から話を始めよう

1人の男が亡くなりました

彼は不摂生で尚且つ

何もかもが恵まれない運の悪かった男です。

ですが本筋には関係の無い話です。

此の作品は死んだ男の話をする物語ではありません。

彼の存在のその後がメインなのです。


「何が一体?」

彼は誰かに尋ねる

白一色無地の場所

壁も無く天井も無い

「よく来た新しいクリエイターよ、君は死んで神になった。

但し世界は自分で創りなさい。」

姿なく声もない

しかし何かが伝えてくる

「私も忙しい他所のクリエイターだ。

君に構う程優しくも無いし義理もない

偶々役目が回ってきたので教えてあげたのさ

より良い世界に君臨したまえ新人様」

それは役割を果たしたらしく静かになった。

何も無い

音も色も

あの声は私をクリエイターと呼んだ

ならば創れるだろう

ありとあらゆるものを

「先ずは自分を描くべきだな」

己が生前夢見たマッチョイズムの体現者を参考に型を描く

「お次は机と椅子が必要かな?」

マホガニーの机と豪華で良質なクッションの椅子

机の上には羽ペンと万年筆と鉛筆と消しゴムと原稿用紙が何枚か

彼は筆をとり世界を創る。

ところが

不思議な事に紙は途中迄描くと無くなってしまった。

まだまだ描く予定だったのに

すると彼は一つの感覚を感じた。

その感覚を辿れば白い部屋が別の色合いを醸し出す。

先程とは真逆の暗黒が広がる

彼の描いた通りの暗黒宇宙

そこに一つの銀河系

あぁ神よ貴方はSFを描くのですね?

太陽があり水金地火木土天冥海

数多の隕石がぶつかり地球が作られている真っ最中だ。

「なるほどこうなるのか」

体感的に彼は仕組みを理解していく




「おそろしくつまらない」

星に命が芽吹くには時間がかかるようだ。

ただひたすらに赤熱する何も無い環境を見せつけられている。

「事細かに宇宙創世から作ってこれか」

机を見る

其処には新たな原稿用紙

しかし

枚数が以前より少なくなっているのがわかる。

考えは巡る

下手したらどうなるか?

失敗したらどうなるのか?

コンティニューコインは後何枚あるのだろうか?

相談相手が欲しい

誰かとコミュニケーションがしたくなった。

よし創ろう

原稿用紙一枚に設定を綴る

もしもこの部屋に現れなくとも何かしらの起爆剤にはなりそうだと思い立つ。

馬鹿な女にしよう

自分と真逆な存在

最後の字の後に句読点をつけてあげて完成

すると紙は光ながら燃え上がり女神を産み出した。

「どうもはじめまして」

「どうもはじめまして我が娘よ」

「自分と真逆で馬鹿な女と描いたきながらそんな者に『娘』?正気ですか?」

彼は彼女の態度や仕草に驚いた。

白磁の肌

金糸の髪

豊満な体

蒼石の瞳

描いた部分は大概想像通りに出来上がった。

しかし

[馬鹿な女][真逆の存在]的な要素は見えない。

「どうゆう事だ?」

「答えは理解出来てるのに出力出来てないのですよ我が父よ

どれだけ馬鹿と成しても

どれだけ天才と成しても

貴方以上も貴方以下にもなりはしない

なれば

貴方の表す馬鹿な存在とは

理解していても寄り添わない者の事です。」

知性的な受け答えの中に敵対的なアクセントを感じる。

「イエスマンじゃないだけましか」

「全裸じゃ無いだけマシですが何故ギリシャ神話風の布ドレスなので?センスの無さを感じますわ」

この子は[馬鹿な女]じゃ無い[馬鹿にしてくる女]だ。

内心をズケズケと…

嫌味が的確

「さぁ悩める貴方様の相談相手ですよ

なんなら性欲の捌け口にもしますか?慰めてあげますよ」

見たくも無い内心を見透かした様にストレスを与えてくる。

「建設的議論がしたい、この部屋の現状から脱したい」

「わかってるとは思いますが私は貴方様の一側面なのでこの考えは思ってはいるが口に出ない程度の意見だと理解して下さいね」

「わかった」

精一杯自分を取り繕った返事だった。

「建設的?基礎どころか地盤調査よりも前から作る気ですか?

恐らくこの紙は貴方様の発想力なんでしょう

1から事細か?ここまで前からやる必要あります?

歴史や史実なんてきっと後から生えてきますよ

適当に中世ファンタジー創って設定足してけばいいと思いますよ」

「この部屋は?見捨てるのか?」

「そこの紙全部使ってどこまで設定足します?足した設定が活かされるのは何万年後になりますか?

大自然の優雅なヒストリーを感じて創作意欲が出るならいいですが

私と二人だけの環境でダイナミック同棲生活して満足します?」

彼女は新しい世界を創れと促す

嫌味ったらしく発破を掛けてくる 

自分の内に消えた馬鹿な考えを出力してきてストレスは加速していく

兎にも角にも筆をとる

心の何処か…

見下していた中世洋式な物語を書こう

中身のない主人公と薄っぺらな魔法世界で

残り少なく感じる紙に世界を綴ろう

嫌味な彼女を見返す為にも

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