王女ですが女王になりたくないので妖精使いになります!

畳アンダーレ

第1話

「いたっ! あいつが例の魔物だっ!」

「さっさと倒してクエスト達成! そして巨大梅おにぎりを沢山食べてやるんですから!」

「みんな油断しないでよっ? ケガなんかしたらダメだからっ」


平原のど真ん中に、オークが一匹徘徊している。人間よりも一回り大きい身体に巨大な斧を持っている。あの見た目だと、斧はもちろん、拳をもってした打撃の一撃でも食らってしまえば大けがは免れないだろうね。

しかし私の傍にいる仲間は恐怖するどころか、獲物を見つけた狩人のように意気揚々と構えている。もちろん私も、勝つつもりでいるけどね。


「それじゃみんな。作戦通りに行くよっ」

「りょーかいっ! まずはあたしからだねっ!」


私の肩に乗っていた小さな妖精が、勢いをつけて飛び立った。

そしてそのままオークの元へと向かって行く。


「鍛えた体の一撃、受けてみなー!!」


オークの頭上で、身体を回転させながらまっすぐ下へと落下する。

そして片足を出して、オークの頭に蹴りを入れた。


「グゥッ!?」


落下と回転が相まってそれ相応に威力が出たのか、オークは自分の頭に何が起こったのか分からないまま周囲を見回した。

その目は、剣を持って突っ込んでくる一匹の妖精をとらえた。


「ググッ!!」

「遅いですっ!」


妖精の持っている小さな剣の、ほんのわずかな刃がオークの手に傷を入れた。

一瞬にしてできた小さな傷に驚いたのか、オークは手に持っていた斧を地面に落とした。


「グググッ!?」

「決まった……!?」


剣を持った妖精が後ろを振り向いてオークの様子を伺う。蹴りを入れた妖精と、剣を持った妖精二匹による奇襲は成功した。

しかし人間の頭ほどの大きさしかない妖精の打撃と剣撃は、オークにわずかなダメージを与えるにとどまった。


「ほらほらぁっ! あたしはここだぜぃ!!」


手足に防具を身に着けた妖精が、オークの頭上でげしげしと足踏みを繰り返す。


「グゥッ! ウガァッ!!」


自らの身体よりもずっと小さい妖精の足蹴りなんか、ほんのわずかな痛みしか感じないがそれでも鬱陶しい感覚には違いない。

オークは両腕を頭上にやって、虫を追い払うように振り回した。


「おっとと……そんなにあたしの蹴りは効いたのかな?」

「そうみたいですね。すっごく怒ってます」


丸太のように太いオークの腕をひょいひょいとかわしながら二匹の妖精がぼやく。

そして二匹はオークから少しだけ離れたところに移動して、二匹揃って構えた。

片方は拳を前に突き出し、もう片方は剣を両手に握って息を吐いた。


「ウグルル……」

「来るよ」

「分かってます。後は……」

「あぁ。あいつの出番だね」


今にも二匹目掛けて突進しようとするオーク。

そんなオークを、私ともう一人の仲間は離れたところで見つめていた。


「どう? 準備はできた?」

「バッチリ。いつでも良いよっ」

「うん。それじゃあっ……!」


隣で私に手を向けていた女の子から目線を外して。

それからあたしは手に握っている杖に意識を集中させて、それから口を開いた。


「食らいなさい! ブリッツ!!!」

「ウガアアアッ!!」


オークの頭上に大きな魔法陣が現れる。突然の魔法陣の出現にオークはまたもや驚いたようだが、頭を散々踏みつけられてバカにされた怒りなのか、すぐに危害を加えてこない魔法陣から目を背けえ、拳を握り、怒りのままに二匹の元に駆け出していく。

でも、もう遅いよ。

オークが地面を蹴った直後に魔法陣から一本の太い雷が、オークの元に降り注いだ。


「ウガガガガガガガアアアアアアアッッッッ!!!!!!!」

「やった!」


頭上からの衝撃に両腕を広げて叫び声をあげるオーク。

あの巨体が雷に当たって光るせいか、眩しくてあまり直視したくないなぁ。


「ア……ガ……」


ズシーンっと音を立てて、オークは地面に倒れた。おおー……真っ黒こげだよ。


「ふぅ。何とかバレずにやっつけられたよ」


私は魔力が少し残った杖を胸元で握り直して、ホッと息を吐いた。

そして隣を見る。


「おー……見事に黒こげね」


私と同じ感想を言いながら、余裕そうに腰に手を当てて立っている女の子。

私はその子に向けて軽く手を振った。


「ありがとう。おかげで強力な魔法が使えたよ。」

「魔法じゃなくて、”妖精魔法”よ。魔法とは違うモノなんだからそろそろ慣れなさい?」

「ふふふ。そうだったそうだった。」


私は両腕を腰に当てて前のめりになって怒っている子から目を離して、向こうでオークの黒こげをゲシゲシと蹴ったり、ツンツンと突いて遊んでいる二匹に声をかけた。


「おーい2人ともー!」


私の声に反応して、二匹は背中に生えた透明な羽をはためかせて、こっちに向かってきた。

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