4人目 ―幽霊さんの住む温泉宿―
4-1.賑やかな朝
――チュンチュン。チュンチュン。
――ミーンミンミンミンミー。
「う~ん……」
小鳥のさえずりとセミの鳴き声が聞こえる中、わたしは目をこすりながら目覚めます。温泉宿の客室の窓からは眩しいくらいの日差しが差し込み、目がショボショボして開きません。
周りを見ると……どうやら幽霊さんは居ないみたいです。普段同じ部屋で寝ているので、恐らく先に起きて一階に下りたのでしょう。それにしても――。
――ガチャガチャ……ガヤガヤ……。
「ちょ! ……わね~!」
「……ってください~」
……何だか幽霊さんと加奈さんの賑やかな声が聞こえてきます。それに、よく耳を澄ませば二人以外にも何だか声が聞こえてきます。わたしは温泉宿の寝間着のまま客室の扉を開きます。
「っわ! 何か光ってます!」
ん? 何をしているんでしょう。光ってるって、何が光ってるんでしょう?
よく分からない声が聞こえてきますが、わたしは手すりに掴まりながらゆっくりと階段を下りて行きます。
「何それ!? 近付かないでって! ブワッ!」
声は温泉宿の休憩スペースから聞こえてきます。それにしても幽霊さん、何かぶつかってやられた様な音がしましたが……大丈夫でしょうか。わたしは一階に下りて休憩スペースをチラッと覗いて見ます。
(……あぁ~なるほど)
休憩スペースにいつの間にか置かれていたテレビに幽霊さんと加奈さん……それに沙奈枝さんとあのモジモジしていた男の幽霊さんが集まっていました。テレビには“Swetch(スウェッチ)”というゲーム機が接続されているみたいで、どうやらみんなでゲームをしていたようです。ゲームは……レースゲームですかね?
「嘘でしょ!? あと少しだったのに~」
「何とか勝てました……」
っあ、勝敗がついたようです。反応を見る限り加奈さんがギリギリで勝ったみたいです。
「っあ、梢枝ちゃん! おはよ~!!」
「ウ"ッ」
沙奈枝さんと目が合った瞬間いつも通りわたしに勢いよく抱き着いてきて、まだ寝惚けて視点が定まらない視界が沙奈枝さんの胸に埋もれました。
「さ……沙奈枝ふぁん……おふぁようごふぁいまふ……ふ、ふるしいでふ……」
「っあ、ごめんごめん!」
沙奈枝さんはバッとわたしを離して離れてくれました。わたしは改めて沙奈枝さんの顔を見上げます。キラキラとした目に身体中から溢れ出ている「元気です! 遊ぼう!」というようなオーラ。はい、いつも通りの沙奈枝さんです。
「おはよう。ぐっすり寝ているみたいだったから、起こさないでおいたわ」
「おはよう梢枝ちゃん」
「幽霊さん、加奈さん。おはようございます」
わたしは挨拶をしながらみんなが集まっている輪に歩いていきます。
「おはよう。梢枝……さん?」
少し自信が無さげな男の人の声。その声の方を見ると、あの男の幽霊さんが座っていました。わたしは少し驚きつつも、いつもより少し柔らかい表情を意識して――。
「おはようございます。あ、あとわたしのことは“さん”付けじゃなくて呼びやすい呼び方で大丈夫ですよ? わたしより年上なんですし……年上ですよね?」
「そ、そうか……じゃ、じゃあ……梢枝、で」
「はい」
あっちこっちから話し声が聞こえてくる朝。これがこの温泉宿の朝です。
わたし達はあの悪夢のような場所から帰ってきて、いつも通りの賑やかな朝を迎えることが出来たのです。まぁ、いつもよりは人が沢山居るのでより賑やかではあるのですが。
「よし! それじゃあ梢枝も起きてきたことだし……」
幽霊さんが休憩スペースの中央に来て浮き上がります。
「今日やることを発表するわよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます