3-21.行こう
一番星が目前に迫った時。わたし達の身体はまるで一番星の向こう側に放り投げられるように、勢いよく浮き上がった結界によって吹き飛ばされました。わたし達の身体はあの廃墟の床に打ち付けられ、全員倒れ込みます。
わたしは何とか身体を起こして後ろを振り返ります。
リビングにあったあの壇上に開いていたゲートは、ゆっくりと、そして何も無かったかの様にその姿を消してしまいました。
「う……うぅ……帰って来れたの~?」
沙奈枝さんが頭を抱えながらゆっくりと起き上がります。
「ま、眩しい……ってことは!」
加奈さんは顔を手で覆いながら廃墟の窓の方に向かいます。
「……夕日だ……梢枝ちゃん! 夕日だよ!」
加奈さんはそう言いながらわたしに抱き着いてきました。あまりに勢いよく抱き着いてきたものですから、わたしの身体はまた床に倒れてしまいました。
「まったく元気ね……私はもうこんな目はこりごりだわ……」
「同感だ。次も脱出できるとは限らないしな」
幽霊さんとお父さんも起き上がってきます。
「アンタね……この雰囲気に紛れてるようだけど、この後みっちりと説教だからね!?」
「おや、それはあたしも参加させてもらおう。色々と聞きたいことがあるからな。だろう? 晃光?」
幽霊さんと真琴さんはボロボロの身体でお父さんに詰め寄ります。
「……あの世の次は地獄か……勘弁してくれ……」
二人に詰め寄られたお父さんはガックリとうなだれていました。
わたしは床に座り込む沙奈枝さんに近寄ります。そしてさっきと同じように手を差し伸べます。
「沙奈枝さん、一緒に行こう? あの温泉宿に」
「……もちろん! しっかり案内してもらっちゃおうかなぁ~」
沙奈枝さんはいつもの調子でそう言って、わたしの手を掴みました。
「……僕も」
少し遠くの方から声が聞こえました。それはモジモジしていたあの男の幽霊さんでした。
「僕も……その温泉宿に連れて行ってほしい」
みんなが男の幽霊さんを見つめます。すると、男の幽霊さんはまたモジモジしてどんどん小さくなっていきます。そんな男の幽霊さんに、温泉宿の幽霊さんが近寄っていきます。
「もちろん。部屋も有り余ってるし大歓迎よ」
それから幽霊さんはわたし達全員の方に振り返りました。
「さ、みんなで行きましょ。あの温泉宿に。知ってる? 温泉はね――」
――心までほぐしてくれるのよ。
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