2-7.■■を求めて

 ――とある廃墟にて。


 とある男――晃光は一人、ある廃墟に訪れていた。そこはかつて様々な人で溢れていた場所。だが今はその痕跡だけが点々と残っており、その過去を知る者は殆どがこの世を去った。


 晃光は廃墟の床に散らばった紙を一枚一枚手に取って目を通す。そして、目を通しては紙を放り投げる。その行為をひたすらに繰り返していた。


 “認識”、“使役”、“祓い師”、“封印”、“神霊”。

 そういった言葉が投げ捨てられた紙には書かれていたが、どれも恐らく彼の求めるものでは無いのだろう。


 彼はさらに廃墟の奥へと進んで行く。


 …………。


 …………。


 ここは静かだ。彼が歩く音すら静寂の中に飲まれてしまう。だが彼はこの静寂を幾度となく体験している。悪しき概念達の領域。祓い師として怪異に立ち向かった時。そして、彼の運命を変えた“祓い”の瞬間。


 この静寂の中で様々な思考が頭を巡る。


 ふと、彼は足を止める。

 足元には一枚のレポート。

 彼はそれを拾い上げるように座り込む。


『概念に関する記録


 我々の存在は概念によって成り立っている。

 地縛霊がその土地に縛られるのも、

 我々に“家”という概念が必要なのも、

 全てその存在を確立させる為に必要なのである。


 では、上記を踏まえて一つの仮説を立てよう。

 概念によって存在が縛られているのであれば、

 存在を縛る概念が無くなったときに、

 我々は果たして何処へ向かうのだろうか。

 また、概念から存在を生み出す事は可能なのか。


 これらを踏まえて以下の実験を行う。

 実験内容は――』


「こんなところで何を探している」


 彼の背後から聞こえてきたその声は女性の声。彼にとっては長いこと聞いてきた馴染み深い声であった。


「足音一つ立てずについてくるとか……幽霊かよ」


「あたしらは幽霊とそんな大差ないだろう。アイツらが見えて、アイツらに触れて、アイツらを祓って……あたしらも変わらないだろう」


 長い金髪を後ろで結んだポニーテイルの彼女。ぴちっとした黒いスーツに身を包んだ彼女は彼の隣に座り込む。彼が拾い上げたその紙切れを覗き込み、少しすると短くため息をついた。


「……あの方の資料を見て何を探している。まぁ、目的は大方想像できるけど。まだ方法を探してるんでしょ?」


 彼は投げ捨てるように紙を放り投げ、立ち上がりその場を後にしようとする。が、同時に彼女も立ち上がり彼に一言声をかける。


「お前にあの力が制御できるとでも?」


 彼は足を止めた。

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