赤い女。

「怪奇実録?」

『お前、怖いのは苦手だろう。だが、その怪奇実録ならどうだろうって話してたんだよ、怪談実話の方は洒落にならんからな』


「こんな夕暮れ時に止めてくれよ、俺は微塵も聞きたくない」

『だーかーら、コレから夏に。おい、何だあの赤い電柱』


「布か何か、いや、アレはコート」

『ぁあ、そう言えば赤いちゃんちゃんこって』


「止めてくれ!本当にっ」

『なっ』


 その赤い何かが、ふらっと車道に動いて。

 俺は、そのまま目を瞑って速度を上げちまったんです、早く通り過ぎたくて。


 そしてドスン、と音がしたんです。

 それに車にも、何か当たった衝撃が有ったんです。


「ぅあああ」


 けれど後ろを写す鏡にも、何も写っていなかったんで。

 俺は怖くなって逃げ出したんです。


 ですけど。


『馬鹿!戻れ!人だったらどうすんだ!』


「でっ、でも」

『俺が確認してきてやるから戻れ!!』


「はぃっ」


 戻ったんですけど、本当に何も無かったんです。

 でも、そこで確認したら確かに凹んでるんです、車が。


『はぁ、人も何も無かったが』

「ひぃっ!帰りましょう!お代は結構ですから帰らせて下さい!」


『悪かった悪かった、赤い褌を盗んだ犬でも轢いたんだろう、そんでどっかに逃げてった。悪かったよ、お前の怖がりがあんまりに面白いもんで、悪かった』


「お、俺、アンタの言葉を鵜呑みにしますからね」

『おう、しろしろ、犬猫だ穴熊だ。さ、帰るぞ』


「はい」


 俺はあんまりに怖がりなんで、この事を怖くて誰にも言えなかったんです。

 本当に、幽霊に会っちまったと思って、その日は全く眠れなかった。


 次の日も、次の日も。


 幾ら眠くても、起きちまうんです。

 涼しい川沿いの家だって言うのに、寝汗でびっしょりになって飛び起きちまうんです。


 アレが幽霊で、また轢いた、と俺に恨み言を言うんです。


 どうにか、助けて下さい、お願いします。




「神宮寺さん?」

《コレ、本物ですよ、行きましょう》


「はい」


 そうして久し振りにお会いした神宮寺さんと共に、長い間電車に乗り、関東の端に辿り着きました。

 幾つか隣の駅はもう、隣県。


 菜っ葉が有名な、郊外と言うよりも田舎寄りで。

 牧歌的と言うか、何も無い場所だな、と。


 ですけど奥地に行くと工場が多いんですよね、川沿いは特に、荒川にも繋がっているので。


《場所は、ココだね》


「はい、ですね」


 手紙には事件の起きた場所と、差出人の住所が書かれていたんですが。

 神宮寺さんが先ず立ち寄ったのは、その赤い何かが居た、とされる場所。


《手紙の通り、全く痕跡は無さそうだね》


「ですけど、数日経ってますし、雨が」

《その日から今日まで、雨は降っていないよ、通り雨までは分からないけどね》


「いつの間に、新聞か何かで確認したんですか?」

《出掛ける前のラヂヲでね、数日前からの晴天が暫く続くんで、熱中症には気を付けろ。とね》


「あぁ、もう梅雨明けですかね」

《だろうね》


「あの、それで」

《ぁあ、不味い》


 熱中症に気を付けろ、と自分で仰っていたのに。

 神宮寺さんはしゃがみ込み、そのまま用水路へ。


「神宮寺さん!」


 まさか神宮寺さんが暑さに不慣れだとは思わず、気に掛けずに連れ回してしまった事を後悔しながら、用水路へ降りると。


『先生に、会いたかったんです』


 神宮寺さんの口から、若い女性の声が響いた。

 自信の無さげな、か細く、か弱い声。


「けれど、会えなかったんですね」

『はい』




 私と先生は、重版記念の交流会で出会いました。

 先生は着物を褒めて下さって、そして電話番号を下さった。


 そうして何度かお電話での交流を深め、再びお会いする事になったんですが。


 先生は、来て下さいませんでした。


 だから、だから会いに来てくれる様に。

 私が私だと分かる場所で、ずっとお待ちしていたんです、ずっと。




「だそうで、佐藤先生の愛読者の方でした」


《いや、うん、確かに僕は着物を褒めた事が有る。ただ、全ての女性男性に大して、一張羅だと分かる全ての人を褒めていた。けれど、電話番号を見ず知らずの、しかも僕の愛読者に渡すワケが無いんだけれど》

《霊も元は人です、話し言葉ですから省いたりは勿論、都合の悪い事を伏せる場合も有ります》


《成程、それで彼女の言葉だけを、聞かせてくれたんですね》

「はい、先ずはお考えになりたいかと。彼女の処遇はコチラにお任せ下さい、先生が何もしていないのは、僕も良く知っていますから」


《ありがとう林檎君、それに神宮寺さんも》

《いえ、終わりましたらまた、お話させて頂きますから》


《あぁ、頼みます》


 事の発端は、確かに佐藤先生だと思うんですが。

 佐藤先生には、何の瑕疵も無い筈なんです。


「そう言う事だったのね、ありがとう林檎ちゃん」


「と言いますと?」

「少し前に、何度か悪戯電話が有ったのよ。ただ無言で、少ししたら切られてしまうの」


《それも大丈夫ですよ》

「そう、ありがとう」


「奥様、本当にもう良いんですか?神宮寺さんに聞けば」

「良いの、心配はしていないし。それに、あの人の新作を1番に喜びたいの」

《信じてらっしゃるんですね》


「勿論、あの人には浮気する間も、心根も無いですし。何より意味が無い、愛読者を減らす、それを1番に嫌がる人なんですから」

「ですよね」


「はい、ただオチは気になりますから、宜しくお願いね」

《はい、では、お邪魔しました》

「お邪魔しました」


「はい、またね」




 真に誰が悪いか。

 それが俺には分かる、けれど証明しなければならない、都会では特に。


《清水 崇子》


 俺は情報提供者のフリをし、今回の元凶へと接触した。


「その名前を、何処で」

《あぁ、良かった、やっぱりご存知でしたよね。何せ、彼女から良く聞いてましたから》


「あ、いや、確かに勘違いさせてしまったかも知れませんが」

《コレ、アナタの字ですよね》


 彼女が大切にしていた、紙。


「なっ」

《愛読者に記念品を処分しろ、だなんて。無茶ですよ、捨てられるワケが無い》


 俺が見せた紙には、佐藤先生の名前、それと電話番号。

 けれど、佐藤先生の家の電話番号では無い事を、林檎君には既に確認している。


「そ、それこそ、彼女が勘違いしただけで」

《あぁ、警察が既に通話記録を取り寄せているそうです。捕まるか自白が早いか、どちらが真に助かる道か、良く考えて行動して下さい》


「君は、一体」

《彼女に頼まれたんです、先生を助けて下さい、と。では、失礼しますね》


 彼女の遺体は、未だに見付かってはいない。

 だが、もし見付かってしまったら、佐藤先生への糾弾が始まってしまうだろう。




《そんな、刑事さんが来るって事は》

『いやいやご安心を、いや、足取りが未だに掴めず。面目ない』


《いえ》


『ご心配でしょうが、お嬢さんを良く探す為にも、是非彼女について詳しく知らねばならんのです。ご協力を、お願い致します』


《あまり、社交的な子では無く、学校の先生方には内向的だと……》


 大人しく物静かな、本が好きな文学少女。

 との評判は近所からも聞こえたが。


 内実、彼女の内面が苛烈だったとは、誰も気が付かなかったらしい。


 まぁ、かく言う私も半信半疑だが。

 ご遺体と対面し、その日誌を見れば確実だ、と。


『成程、では、やはり単なる失踪とは考え難いんですが。交友関係は、どうでしたか』


《1人、2人……》


 交友関係は周囲から聞く事と同じく、幅広いとは言い難く、特に悪い交友関係との繋がりも無い。


『では、少し消息を探る為にも、少し娘さんの部屋を拝見させて頂いても』


《はい》


 案の定、部屋にさして本は無い。

 古本屋で買っては売り、時に途方の図書館に出入りしている事も確認が取れた、質素倹約な文学少女。


 だが、厳選された様に置かれた本がわずかに置かれている。


 それは林檎君の担当する雑誌、怪奇実録の作家、佐藤 英二郎の本のみ。


 だが、コレは目眩ましらしい。

 必ず何処かに、真の彼女を知るモノが有る、と。


『暫く、考えさせて頂いても宜しいですか、幾ばくか1人だけで』


《はい、お茶を淹れ直して参ります》

『はい、ありがとうございます』


《では》


 猶予は僅かか。




「神宮寺さん、コレ、コトリバコってご存知ですか?」

《勿論、生み出された怪談だそうだね》


「そこまでご存知でしたか、まぁ、ですよね」

《大元、何処から何故出たか、もね》


「まさか」

《呪いの箱、とされたなら、本来は見知らぬ箱だなんて誰も触りたくなくなるだろう》


「まぁ、ですけど」

《例えば梓巫女の背負う箱、それが盗まれ悪用されたなら、誰も得はしないだろう》


「あ、成程」

《そして簡単に呪う方法にもなる》


「急に怖くなったんですが」

《仕組みは簡単だよ、家人の見知らぬ箱を仕込むだけで良い。そう、詐欺師の使う手だったんだよ》


「なんだ、じゃあ実害は。実害は、ありますよね、場所が悪ければ、ソコに本当に籠もってしまう」

《だからこそ詐欺師は使わなくなった、儲けた以上に損をする事になるからね》


「でも、どう、仕掛けるんですか?何も持たずに来た僧侶風の男が、不吉がある、と言って」

《その男が帰った後、家人の見知らぬ箱が家に現れる。てっきり、林檎君にはもう既に分かっていると思っていたんだけれどね》


「んー」


 今日は珍しく神宮寺さんの家でお話をお伺いしていたんですが、電話が。


《はいはい、神宮寺です、はい。はい、はい、あぁ。はい、直ぐにお伺いさせて頂きます、はい》


 そうして神宮寺さんが何かを書き留めると、電話を切り。


「もしかして、お仕事の」

《ですね、近くで待っていて下さい、直ぐに終わらせますから》


「あ、はい」




 コトリバコの発生のさせ方は、簡単だ。


《どうも、お電話頂いた神宮寺ですが》


《あ、あ、お願いします、どうか》

《落ち着いて下さい、触れてはいませんね?》


《はい、はい、勿論です》

《では、お邪魔させて頂いても》


《はい、あの》

《こうしたモノの処分に何かを要求する事は有りません、偽物でも本物でも、そんな事をすれば祟られてしまいますから》


《すみません、どうか、宜しくお願い致します》


 持ち込んだ6枚の板を組み合わせるだけで、コトリバコは完成する。

 板は薄く、簡単に組み上がる様に仕掛けているので、刑事さんには脱いだ上着に隠し持ち込んで組んで貰った。


 ただ、もし本当に呪詛を掛けたいなら、少し手間はいるが。

 今回は品物を運び出すだけ、俺が持ち込むのは風呂敷のみ。


 先ずはさも怪しげな風呂敷で包み、差し出す。


《終わりました、コチラ、預からせて頂きますが》

《はい、どうかお引き取りを、宜しくお願い致します》


《はい》


 そして何の変哲も無い風呂敷で更に包み、持ち出す。


 家人は自身の財産でなければ、何かが持ち出されるかどうかなど、気にはしない。

 ましてや厄ともなれば、寧ろ喜んで放棄する。


「神宮寺さん、それ」

《ただの遺品整理ですよ、古今東西、家族に見られたくないモノが有る。ソレらを処分するだけで成仏出来るのなら、簡単だとは思いませんか?》


「神宮寺さん」

《家人の承諾は勿論、ご本人の望みです、決して財にはしませんから問題有りませんよ》


「はぁ」

《それとも、良いんですか、先生に汚名を着せられ叩かれてしまっても》


「ですけど」

《信じてくれないんですね》


「無闇に信じる事を信頼とは言いません」


《仕上げまでもう少しです、先ずは少し休憩しましょう》


「はい」




 裏切り者からの2回目の頼み事は、死体を探し、皮を剥ぐ事だった。


『あぁ、成程、確かにコレは不味いな』

『良いんですか、死体損壊ですよね』


『もう既に、分離埋葬は国から違法では無いと結論が出た。コレも一種の分離埋葬、本来彼女には有るべきでは無いモノを取り除く、そう言う事だよ』


『分かりました、始めます』


 例え本人が承諾していても、自らの体に触れられる、ましてや傷を付けられる事を喜ぶ者は殆ど居ない。


 だからこそ、こうした行為の前には必ず儀式を行う。

 暫し目隠しをし、成仏をしたいと思わせる。


 コレは極楽浄土への試練、若しくは三途の川の渡し賃、次に繋がる得だと改めて説得する祝詞を唱える。


 けれど、神宮寺さん。

 まだ、彼女を納得させてはいなかったんですね。


『おや、問題かな』

『少し掛かるかも知れません』




 神宮寺さんが休憩にと指定した店へ向かうと、中華屋だった。

 そして見知らぬ男性、女性?と軽く挨拶を交わし、そのまま席へと着いてしまった。


《やぁ、ご苦労様》

『本当です、苦労しました』


《まぁまぁ、ココは彼の奢りだ、好きに頼んでくれて構わないよ。ね?》

「あー、えっと」

『コチラが例のモノです』


《手袋を、それと覚悟して見た方が良い》


 僕は事件の真相を、ココで初めて知る事になった。


「こ、れは」

《清水 崇子の背だよ》


 彼女の背には、作家、佐藤 英二郎を称賛する刺青が。


『交換、ですよね』

《あぁ、出すよ》


 そして箱の中から出て来たのは、佐藤先生の本が全巻、しかも直筆の署名入りまで。

 それと、佐藤先生との交流を綿密に書き込んだ、日誌が。


「でも」

《電話では声の判別はし難い、しかも自分が望む通りの言葉が聞けたなら、疑う意味すら無くなってしまう》


「ですが、一体どう、電話の代金は高いですよ?」

《最初は向こうから電話を掛けさせ。ほら、僕らが使う様な店を教えたんでしょう、店にも情報提供者だと伝えれば問題無い》


 そうして原稿が忙しい、取材だ何だと、会わずに親交を深めた。

 しかも飲食代金まで相手が持ったなら、彼女の親も動向には気付かない。


 そして彼女自身も、出版社や作家ならではの事ばかりを聞いていたなら、思い込むのも無理は無い。


「ですけど、この日誌が見付かってしまったら」


 家の奥深くで眠っていたとしても、捜索の際に露呈し。

 果ては、照明が済むまで、佐藤先生は悪者になってしまう。


『しかも彼女は未だに納得していなかったんです、説得に時間が掛かりました』


「神宮寺さん」

《納得には時間が掛かる、それこそ証拠も、客観性も。そして何より、彼女を許す者が必要になる。君は彼女を責めるかい、林檎君》


「いえ、騙された方を責めるなんて僕には出来ません。何より、騙した方を僕は責めたいんですが」

《何故、騙したか。それは多分、追々、だろうね》


「それに、彼女が何故亡くなったのかも」

《それは、ココを出てからにしよう》

『お代は置いていって下さい、今日は何も持っていないんですから』


《頼めるかな林檎君》


「はい」




 彼女は、本当に夫の本を愛してくれていた。

 けれど、そこから悲劇は重なってしまった。


 彼の為に、と怪異の話題を探していた。

 もう都会の話題は既に集まっているだろう、けれど田舎に向かうにも自由になるお金も、伝手も無い。


 そして彼女は考えた。

 無いなら、作れば良い。


「そうして怪異を作ろうとして、亡くなってしまった」

「はい、事故を引き起こす赤いコートの女。ですが驚いた運転手に跳ねられ、体は用水路へ。前日の雨により増水した水が勢い良く流れており、少しして戻るも、何も無い」


「ましてや幽霊だと思ったなら、通報もしないでしょうね」

「はい」


 けれど後日、彼女の遺体が発見され、詳細が載る事に。

 そこで彼女を轢いてしまったかも知れない、そう出頭した方が出た。


 けれど不起訴となり、事件はそっと幕を下ろした。


《もう、交流会は》

「僕が付き添いますから大丈夫です、ね?奥様」

「そうね、お願い。愛読者の方の生の感想は、とても得難いものだもの」


「はい、それに事前の説明もコチラでしますので、僕らを信じて下さい。詐欺師の噂を耳にした為、注意喚起を、と」


 彼女を騙したのは、他の出版社の取材部の者。

 彼女の声を気に入り、騙してしまった、と警察へ。


 けれども警察は取り合わず、彼は仕事を失い、行方知れずだそう。


「それとも、私にお土産を買うのが嫌なのかしら」


《分かったよ》

「やったー」

「ふふふ、ありがとう林檎ちゃん」




 僕はただ、彼女の声が聞きたかっただけ、なんだ。

 彼女に損はさせていないし、ましてや死ぬ様に仕向けてもいない。


「お願いします、もうしません、だからどうか」

『良いんですか、一生、聞こえなくなりますよ』


 誰の声を聞いても、彼女の声にしか聞こえなくなってしまった。

 だからこそ、僕は自首すらしたのに。


「お願いします、どうか、お願いします」


『分かりました。但し、コチラの願いを3回、叶えて貰います。アナタに出来る事、です、良いですね』

「はい!」




 僕が撮った写真と彼女の皮は、刺青師の眼前に突き付けられ、刺青師はウチと警察の犬になった。

 大物が刺青を入れる日時は勿論、普通には見えない小さな印や、呪詛を刻ませている。


 そして皮は後日、騙した男への呪物となり、男はコチラの便利な道具となり。

 彼女が隠していた全ては、葬儀の際に刑事が棺に詰め、燃やされ。


 真実を知った彼女は、早々に完全なる成仏の段階へと入った。


 道義や道理に反する、と都会の無知な者は思うだろう。

 けれども死者の無念を甘く考えてはならない、今回、裏切り者の動きは完全に正しかった。


 人は簡単に怨霊になれる。

 だからこそ、心残りを出来るだけ解消しなければならない。


 盲目的だった者程、容易く狂えるのだから。


『どうしてか、最近は治安が良いねぇ』


 この刑事に捕まりそうになった時は、幾ばくかの縁が出来ればとは思っていたけれど。

 それより上からも、最近は相談が増えた。


『どうして、でしょうね』


 都が荒れれば、いずれは田舎すらも荒れてしまう。

 ココを守るには、まだまだ人手が足りない。


 何せ人が増え続けているんだ、無理も無い。


『まぁ、無辜なる民間人が幸せなら、私は何でも良いんだけれどもね』


『平和が、1番ですからね』 

 

 山が豊かで無ければ、海は育たない。

 そして海が豊かで無ければ、人は山に入り、好き勝手に荒らす。


 コレは支え合いだ。

 内々に、暗黙の了解の元で行われる、古くから存在する縁。


 けれど、知るモノは僅か。


『実はね』


『何ですか、何か、問題でも』


『実は、君に、新しく案内してやれる店が無くなってしまってね。残弾終了だ』


『驚かせないで下さい、何か有ったのかと。今回は案内しますから、お互い自腹にしましょう』


『実は私は、中華が怖いんだ、特に拉麺が怖くてね』

『あぁ、ではさぞ怖がって下さい、案内先は中華屋ですから』


『いやー、困った困った、怖い怖い』

『奢りませんよ、そこそこ良い店なんですから』


『そら怖い、うん、実に恐ろしいねぇ』

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