第15章 死者と司書。

第1話 死者と司書。

《林檎君、ココは少し不味いかも知れない》


 神宮寺さんと近所の図書館に来たのですが。

 怖い話も無しに、神宮寺さんが真っ白な顔をしながら。


「あ、えっ、出ましょうか?」

《すみません》


 怖くなると見える筈の神宮寺さんが。

 何故。


「あの」

《この公園もダメみたいです、近くに神社仏閣は無いですかね》


「あ、えー、取り敢えず出ましょうか」

《お願いします》


 僕は神宮寺さんに何か面白い話を思い出して貰う為、図書館へ来たんですが。

 まさか、そこに居るとは。




「神宮寺さん、あの」

《酷く強いモノが居て、それで見えたんだと思います、既に何人か殺していますから》


「えっ」


 無理も無い。

 地元の図書館の司書に、まさか何人も憑いているとは。


《少し休めば大丈夫ですから、後で戻りましょう》

「いえ、でも、そう無理をしなくても」


《いえ、少し動揺しただけですし、もしかすれば話に出来るかも知れませんし》

「危ない事はダメですよ、帰りましょう?」


《あの場には子供も来るんですよね》


「はい、ですけど」

《もしかすれば徘徊していただけかも知れませんし、少し確認させて下さい》


「無理はしないで下さいね?」

《しませんよ、無理をすれば死に直結しますから》 


 霊能者の死因はバラバラだが、害される割合は人と霊の半々。

 暴かれない為に人が殺そうとしてくるか、完全に狂った霊が殺しに来るか、又はその両方か。


 今回は、その両方かも知れない。


「僕には分からないんですから、無理は絶対にしないで下さいね」

《はい、なので念の為にお伺いしますけど、周囲で事件等は有ったんでしょうか》


「いえ、特には。ただ新聞部では無いので、もしかすれば何か有るかも知れませんけど」

《あ、でしたら刑事さんに頼んでみましょうか、万が一にも新聞部の方に来られても困りますし》


「どう、お伝えしましょうか」

《そこは僕が、繋がらなければそのまま図書館に戻りましょう、単に利用客と一緒に入って来ただけかも知れませんから》


「分かりました」




 そうして近所の喫茶に入り、個室へ。

 ココに電話を設けて貰ったんですよね、助かります。


【あぁ、どうも、林檎君かね】

「はいはい、どうも、林檎です。つかぬ事をお伺いしますが、〇×地区で行方不明者の増加や事件等、表に出ていない事って、無いですよね?」


【君、気になる言い方をするねぇ】

「知り合いの霊能者の方が、不穏な気配がしたそうで、その原因を探ろうとしてらっしゃるので。念の為、お伺いしようかと、お互いの安全の為に」


【残念だが、その地区で行方不明者が等間隔で発生しているんだよ、しかも老若男女問わずだ。けれども事件かと言われると非常に困る、それこそ以前の様に血痕でも有れば良いんだが、何も出て来ないんだよ】


「総数を、お伺いしても」


【届出が有っただけで、2桁だ】

「どの位の期間で、ですか」


【この3年で、だ】


 駆け落ちは勿論、人攫いに夜逃げ。

 事件事故に巻き込まれ逃亡した等も含めれば、都会での行方不明者は年に3桁が常だ。


 けれど、この地区だけで。


「あ、周辺地区も含めてですよね」

【だとしても、多い】


「ですよね」


【怪しい場所、怪しい人物でも】

「もしそうだった場合、刑事さんで大丈夫なんでしょうか?」


【おう、構わんよ】

「お忙しいでしょうから、もう少し確証を頂けましたら再度ご連絡させて頂きますので、それでも構いませんでしょうか?」


【載せる前に、頼むよ】

「はい、では、失礼致します」


《あの文言で信じて貰えるモノなんですね》

「怪談実録の方も定期的にお届けさせて頂いているので、ご興味は有るそうですよ、基本的には偽者にしか出会えないそうですから」


《あぁ、詐欺師とかですか》

「あ、見分けって付くんですか?」


《ですね、ただ一時的に見えているだけだろう、とかも有りますから。一概に偽者、と言っても種類が有りますし》

「そうした事だけで構いませんよ?コレで思い出した事だけでも十分なんですから」


《それだけ多いんですね、数が》


「はい」

《その解決策が見付かるかも知れませんし、下手に首は突っ込みませんから、珈琲を飲んだら行きましょう》


「少しだけですからね」

《あ、僕だけでも》


「ダメです」


《なら、何も聞かないで下さい、良いですね》


「分かりました」




 明らかに、司書に憑いている。

 それこそ老若男女問わず、誰も彼もが怨念を抱き、彼を憑き殺そうとしている。


 けれど、彼は全く感じていない。

 寧ろ朗らかに、爽やかに利用客と接している。


《いつも彼は居るんですか?》

「はい、僕がココに来てからなんで、7年以上ですかね」


《ご結婚はしているんでしょうかね》

「確か、4年前に、お見合いを斡旋されてましたね」


《本好きでも、結婚する方は結婚するんですよね》

「仕事内容が違いますから」


《どうしてならなかったんですか?司書》

「図書館へ入る迄には検閲が必ず入るんですよ、そうなると読める迄に時間が掛かりますし。僕は本と言うか物語が好きなんですよ、それこそ本屋の方がまだ結婚出来てたかも知れませんけど、結婚が全てでは無いですし?」


《まぁ、兄弟姉妹が居るなら、無理に子を成す必要も無いですしね》

「ですです、ウチはもう姪っ子も甥っ子も居りますから」


《ウチもです、姉が丈夫で助かりましたよ》


(彼に憑いているんですか?)

《そこは聞かないで下さい》


「あ、何か思い出しました?」


《港町に行った時の事ですかね、丁度台風が来るとなって、暫くお世話になったんですよ》


 故障が無いかの確認も兼ねて、台風が来る前に1度サイレンを鳴らし。

 そして間違って外へ出て巻き込まれない為にも、ど真ん中になったらサイレンが鳴る。


「終わりには、そっか、あくまで警報ですもんね」

《ですね、それこそ電車や踏み切り、危ないと思う箇所には大体居ますね》


「電車、良いですね、良い企画が組めそうです」

《良いんですか?夜行列車の話でも》


「んー、回収が終わってからにしておきます」

《一緒に行きましょうか、それで乗りながら話すとか》


「それ、逃げ場が無くて凄い怖いんですけど」

《でももし経験したなら、良いネタになるのでは?》


「読むのですら怖いのに、経験は、ちょっと」

《どうです?結婚したくなりました?》


「確かに、家に居て欲しいってこう言う事なんですかね」

《いや、まぁ、確かにそうかも知れないね》


 林檎君は少しズレていると言うか、着眼点が少し不思議と言うか。

 だからなんだろうか、見えないのは。


 他の者は無意識に、無自覚に否定し拒絶している。


 それがお守りとなって影響を受けない、見えない。

 けれど見れるモノなら見たいのが林檎君。


 ただ、ココに居るのは流石に見せない方が良いだろう。


 明らかに、アレは不条理と理不尽の産物だ。

 何体か俺に気付いたし、もう今日はココを離れるか。


「そろそろお昼ですけど、どうしましょうか」


 林檎君の方に憑かれても困る。

 今日はもう、ココで解散だな。


《今日は明るいですし、調子も悪いので帰りますね》

「本当に大丈夫ですか?」


《大丈夫ですよ、何か有ればお知らせします》


「分かりました、無理しないで下さいね?」

《はい、では》


 そして憑いて来てくれたのは、男児と少女と老婆。

 目の前の公園の花壇に立ち、其々に血の涙を流しながら絶叫している。


 案の定、遺体の一部が埋まっているのだろう。


 ただ、司書が犯人なのか、司書に恨みを持った誰かの仕業なのか。

 コレが全く分からないから困る。


 死口をするしか無いか。

 また死人が出ても寝覚めが悪いのだし、どうせ同じく寝覚めが悪いなら、良い方向へ向く事の方がマシだろう。

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