第3章 霊能者と記者。

第1話 E橋殺人事件。

《そ、そこの君》

「はい?」


《この先は、ちょっと》

「何か有ったんですか?」


《実は、血溜まりが有って》

「えっ、警察にお電話は?」


《掛けに行こうかとも思ったんだけれど、もしアレが事件現場なら、踏み荒らされない様にすべきかと。それに、僕はこの辺の地理に疎くて》

「成程、お名前をお伺い出来ますか?」


《あぁ、神宮寺だ》

「僕は林檎と申します、どうぞ、最寄りの家にでも行って電話を借りますので待っててくれますか?」


《あぁ、頼むよ、僕は人払いを続けているから》

「はい、では」


 僕と神宮寺さんが出会ったのは、この時が初めてでした。


《あ、戻って来てくれたんだね》

「はい、もう片方も道を塞ぐべきだと思ったので、少し遠回りして封鎖しておきますね」


《けれど、もし殺人鬼がうろついていたら》

「なら走って逃げますから大丈夫ですよ、足が速いんです僕、地区1番でしたら」


《そう、無理をしないで》

「はい」


 それから警官が到着するまで、僕らは橋の両側に立ち塞がっていたんですが。

 草木も眠る丑三つ時の前、どちらかと言えば亥の刻だったんですけど、ココら辺を歩く人って殆ど居ないんですよね。


 殆どが車か汽車。

 人通りの無い場所で。


《来たみたいですねー!》

「ですねー!」


 通報から到着までは、約10分。

 都会は警官の動きが早いな、と思ったものでした。


《で、君が発見者かね》

「いえ、向こう岸の彼の方です。僕は向こうからコチラに行こうとして、血溜まりが有るそ、と教えられ近隣の方に通報して貰おうと1度離れ。コチラ側も封鎖すべく遠回りしてコチラに来た次第です」


《ほう、有り難い事ですが、それこそ殺人鬼が》

「地区1番の足の速さなので、その時は逃げ出そうかと。ですが幸いにも不審な方は見掛けませんでした、車が8台ココを通り過ぎるのを見ていただけです」


《君、慣れているが》

「あ、僕、こう言う者です」


 警官に名刺を差し出すと。


《はぁ、雑誌社の人間か》

「ゴシップ誌は出さない真っ当な社です、他と一緒にしないで下さい」


《いや君、月刊怪奇実話だなんて真っ当では無いだろうに》

「あ、我が社の雑誌をご存知でしたか、読まれた事は?」


《いや、まぁ、少しは。だがアレは虚構だか事実だか》

「はい、それが月刊怪奇実話の軸ですから」


《だとして。いや、良い、それより君はどうしてこの道を》

「歩くのが趣味なんです、何か有れば先生方の糧になりますし、何も無くても何も無い事が却って先生方の糧にもなる事が有るので」


《で、どうしてだ》

「あ、接待です、T荘で接待しておりました。お相手の方は事情によっては申し上げられますが、今直ぐには無理です、会長のご許可が無ければ無理なのでご承知下さい」


《はぁ、なら書くなと言ったらどうするんだ》

「事情によります」


《君は、もう良い、暫く車の中で待ってなさい》

「はい、ありがとうございます」


 いや助かりました、立ったままは苦手なんです、走ったり歩くのは平気なんですけどね。


 で、暫く車内で休憩させて貰ってると。

 警察車両が増える増える、しかも両側から。


 そこで思い出したんですよ、川の向こうは石川区音羽、もう片方は牛込区の中里村町。

 管轄の真ん中で起きているんだ、と。


《君は、少し、署まで来てくれんかね》

「あ、管轄揉めですね」


《まぁ、そう言う事だな》


 そして僕は神宮寺さんとは別の警察署へ行く事になりました。




《あの、アチラの方って、どうなってるんですかね》

『いやー、すみません、管轄の問題が少し有って。多分、コッチと同じだと思いますよ』


 橋の真ん中。

 その時点で嫌な予感はしていたんだが。


 コレは、長く掛かる。


 困った。

 遊ぶ金欲しさに歩いて帰ろうとしなければ。


《あの、いつ、家に帰れますかね》


『あー、んー、ちょっと今日は無理ですねぇ』


《となると、明朝なら》

『いやー、アナタは第1発見者ですし、ね。こう、家の方に電話が繋がらないので、ね』


 親は殆ど家に居ない。

 しかも今回は頼まれていた神社の連絡先も処分し、いや、調べて掛けても貰えば良いのか。


《あ、じゃあ、歩いて帰ろうとする前に居た場所ならどうですかね。神社なんですけど、ちょっとそこの方に呼ばれたので、その方に僕の事を確認する。とかは、どうでしょう》


『んー、あぁ、念の為に神社の名前を良いですかね』

《はい、天神町のK神社なんですけど……》


 神主の電話番号は分かったが。

 まぁ、この時間だ、出ない。


『まぁ、明朝と言う事で』

《はぃ》


 結局、留置場で過ごす事になり。


「おはようございますー、神宮寺さん、大丈夫ですか?」


《君は》

「どうも林檎です」


《君は、解放されたんだね》

「はい、会長の家に掛けて頂いて、そこで解放して頂けました」


《あぁ、そうか》


「ご実家にお電話、繋がらなかったんですか?」

《良く家を空ける人達で、ね》


「その、少し前に立ち寄った方、とか」

《多分、もう、繋がってくれていると助かるんですけどね》


「あ、じゃあ、もう大丈夫なんじゃないですかね、もうお昼過ぎですし」


《はぁ、もう昼なのか》


 お祓いを行うとゴッソリ持って行かれるんだ、メシを食わなかったせいだなコレは。


「あ、カツ丼頼んで貰っちゃいます?」

《先ずは確認してみるよ、はぁ》


 そうしてやっと、出られる事に。


『いやー、すみませんでした、念の為とは言えど申し訳無い』

「事件が事件ですからねぇ、今朝の一面に出てましたし」


 あんなに警官が集まれば、さもありなん。


『結局、合同ですからねぇ』

「情報共有が大変そうですよねぇ」


『だねぇ』


《あの》

『あ、お疲れ様でした。ただ未だに推定容疑者なので派手な行動や、何処か遠くに行かれない様にして下さいね』


 あぁ、この上なく面倒だ。

 コレは、下手をすれば犯人に仕立て上げられてしまうかも知れない。


「もー、あまり脅さないであげて下さいよ、それこそ追い詰め過ぎで逃げられちゃうかも知れませんよ?」

《そうですよ、逃げませんって》

『いやいやすみません、念の為ですよ、念の為』


《林檎君、守って貰っても良いですか?》

「勿論ですよ、犯人でなければ」


 あぁ、なら情報を提供し、味方に引き込めば良いか。


《何でも話ますから、お願いします》

「はい、では食事処に行きましょう」


 そして一連の流れを説明し、その足で神社へ。


《どう、でしたか》

「はい、確認出来ました、確かに神宮寺さんが犯人では無さそうですね」


 ほわほわしてるのに、しっかりしてやがる。


《生憎と、その前は実家に居たので》

「ご実家も神社でらっしゃるんですよね?」


《はい》


「例えば、例えばです。アナタが犯人だとして、どう服も何も汚さず、あんなに血をぶちまけられると思いますか?」


《まぁ、輸血用の血をぶちまけて、証拠は川へ。ですかね》

「成程、殺人の犯人では無さそうですね」


《ぁあ、勿論ですよ》

「警察では改めて行方不明者の届け出と、近隣での聞き込みをしてる筈なんですが。確かに輸血用の血液が撒かれた悪戯の可能性も有る、となれば次は病院へ聞き込みをしているかも知れませんね」


《あぁ、そうですか》


「このままですと犯人や容疑者に仕立て上げられる可能性も有ります、なのでご本人様が疑いを晴らすのが1番かと、親しいお知り合いはいらっしゃいませんか?」


《ココの神主では》

「共犯の可能性も有るので無理ですね」


《あぁ》

「それこそ恋人とかですよ、大概は怨恨か金だとして疑うでしょうから」


《少し前に、別れた》

「では恋人がいらっしゃった、その方が生きていれば少しは疑いも晴れるかと」


《あぁ、遺体が出て無いんですね》

「ですね、僕が事件に巻き込まれたとして、代理でお電話しますよ?」


 仕事の事を浮気だと疑われ別れたんだが、まぁ、良いか。


《じゃあ、お願いします》

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