第115話 組織の秘密

 私は、組織の女の後について歩いています。


 朝になって話し合い、私が組織の調査に行く事になりました。リージュさんも調査には積極的でしたが、二人共が行く訳にはいきません。視点を変えて調べるために、一人ずつ行く事にしました。組織も支障は無いそうです。向こうの迷惑なんて知りませんが…。


 今はお昼頃で、リージュさんとあの子は病院です。朝のうちにお風呂に行ってましたから、今は食事中でしょうか。少しずつ仲良くなっていて欲しいです。


 着いた場所は、私達が借りている家が見える所にある小屋でした。


 偶然?


 気になりますが、今は心の隅に置いておきましょう。


 小屋の中は農機具がいくつも置かれていますが、不自然な物は無く、よくある風景です。誰もが何の印象も持たないでしょう。


「行こうか」


 組織の女はしゃがみこみ、地面にある丸い蓋を開けます。古井戸の蓋。使い古された木の蓋。そんな風にしか見えません。隠れ家はこの中で、地下室でしょうか? 大勢隠れるのは無理ですね。案外、小さな集団なのでしょうか?


「梯子で降りる。来たまえ」


 後について降ります。木の蓋は、中から戻しておきます。


 底に着くと、殆ど真っ暗です。壁は石組みですが、床は土ではありません。煉瓦を敷いたみたいに平面です。これなら暗くても転びにくいですね。広さは、四、五人が立っていられるくらいでしょうか。


「思ったより深いですね。でも、誰も居ませんよ?」


「すぐに案内する」


 返事をした女は、奥の壁まで進み、何も無い部分に手を突きます。火花が散ったみたいに手の傍が光り、扉が開きます。


 扉? 地下室ですね。向こうは、とても明るいです。


「扉を閉めるから、入って欲しい」


 リージュさん、ジオさん、行って来ますね。


 罠が無い事を祈りながら、扉を潜ります。


 何ですか、ここは?


 言葉が出ません。


 扉を出た所は廊下です。松明なんてどこにもありませんが明るいです。真昼みたいな白っぽい光が周囲から差し込んでいて、廊下の突き当りまで見えます。とても地下とは思えません。


 床も壁も漆喰でしょうか? 木材や煉瓦じゃありません。廊下の左右の壁はガラスが嵌っていて、外を見渡す事が出来ます。


 廊下の外は広い空間です。その空間も明るくて、地上と変わりありません。向こうの壁まで遠過ぎて、私が槍を投げても届きません。地面までも高さがあって、この廊下は二階建ての窓の高さにあります。


 ここは空中回廊? ここは地下ですよ? 何で明るいんですか? ランプはどこですか? そこに見えるのは林檎か梨? 何で地下に木が生えてるんですか?


 廊下の先は大きな建物です。一階から入らずに二階から入るなんて、ここは一体何ですか?


「まずは事務室に案内する」


 後をついて歩きますが、物凄く怖いです。擦れ違う組織の人には殺気なんてありませんが、怖いです。全く戦える気がしません。


「聞いているか? ガーネットと呼んで欲しい。そんなに緊張しないでいい」


 全く聞こえませんでした。今は何でもいいです。


「ここに入ってくれ。落ち着くまで、椅子に掛けて休むといい」


 建物の中はずっとそうですが、ここも窓の無い部屋です。彼女が壁に手を突くと、すぐに明かりが点きます。お城の応接室みたいな部屋は、机と椅子が並んでいます。何だか震えが止まりません。全く落ち着きません。


「少し寒いな。温度が低過ぎる」


 彼女は扉の横の壁に寄って、壁についた四角い小さな枠を指差します。それも火花みたいに光って、すぐに消えます。どれもこれも魔法ですか? 怖くてもう泣きそうです。ジオさん助けて下さい。


「少し温度設定を上げたから、少しずつ寒くなくなるだろう」


 何の事ですか、それ?


「飲み物は、暖かい方が良さそうだな」


 扉のついた白い箱は、開けると中が光るのは何ですか? 取り出した透明な瓶は何ですか?


 瓶の中身は水ですか? 取っ手のついた白い容器は何ですか? 瓶の水を注いでますが、それに口をつけて飲むんですか? 容器についた黒い紐を壁に刺したのは、何のためですか?


「すぐにお湯が沸くから待ってくれ。その間に少し話そうか。何か説明して欲しい事はあるか?」


 あり過ぎです。ちょっと待って下さい。こんな状況で話? ちゃんと出来るでしょうか…。


「あの…」


「何かあるか?」


「床を動き回っている円形のものは何ですか? どんな魔法ですか?」


「ああ、あれは、ロボット掃除機だ」


「は? ろ…?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る