第114話 待合室での考え事

 わたしは、待合室の長椅子で横になっていた。


 窓の外は真っ暗で星が見える。部屋の中には、廊下のランプから差し込む淡い灯りだけ。今夜は、他に誰も居ない。薄暗い部屋で考え事をしていた。


 あの子は、ルオラと一緒に昨日の部屋に帰った。その時は、手を引かれずに歩いて行った。今頃は眠っているだろう。少しだけ何かが変わった。ルオラの掛けた言葉は、届いたに違いない。


 あの女は、もう少しだけ話をしてから、また来ると言って立ち去った。


 そのうちのひとつは、不安を煽る内容だった。


「遺跡に入った時、あの男は居なくなっていた。行方は追っている」


 乱暴な格闘家。力試しをしたい魔法使い。ジオに怪我をさせた悪い奴。あいつは居なくなっていた?


 冗談じゃない。心を読む魔法使いみたいにここに現れた場合、今度はどうしようもない。


 おそらくだが重傷を負っていると思われる事。近くには居ないらしい事。病院の警備員を増やしてもらった事。何も無いよりいいが、不安は払拭出来ない。


 怪我をさせられた事を恨んでいて、ジオやわたし達に復讐に来る事。或いは、立てないジオや弱いわたし達に興味を無くしてどこかに行ってしまう事。どちらもありそうで、悩ましい。


 今は、わたしかルオラがここに居る必要がある。何かあっても、ジオを連れて逃げる事しか出来ないけれど、ジオの事を最優先で考えられる誰かが居ないと…。


 ルオラもわたしも、あんな用心棒を二度と雇うなと言ってやりたくて構えていたけれど、騒動のせいでその機会を失った。


 組織の方針になんて興味は無い。ただ、やたらと暴力的な用心棒に対して需要があれば、それで生活する奴が居る事になり、次の犠牲者を生む。それが嫌だから、言ってやるつもりだった。


 そう思いながらも、違う事も考える。森で見た時、組織の連中もあの男を怖がっていた。手に負えない用心棒を雇う事は、組織内でも問題になったと思っていい。だから、わたし達が言わなくても二度目は無いと信じたい。


「あの医師は、怪我をした彼を知っているそうだ。医師から聞いて、君達が我々の敵ではないと確信した。偶然のようだが、君らにとって良かったな」


 あの女から、思っていない情報が入ってきた時は混乱した。けれど嬉しい事だった。


 ジオは悪い奴じゃないから誰かに信頼されていて、誤解が簡単に解けた事。この事でわたしの胸の中は暖かくなった。彼と一緒に居られる事が誇らしい。


 その医師は、きっと手厚い治療をしてくれるだろう。他の人には不公平だけれど…。


 治療費も少し出してくれるみたいで、ただただ嬉しかった。ジオに何かを頼むような内容の事を言っていたから、わたしも出来る事があれば精一杯協力しないといけない。


「さっきの道具は面白かった。我々も似たような研究をしている。発明みたいな事に興味があるなら、我々の研究を見に来ないか?」


 彼女からの誘いには、大いに迷っている。


 宝石の秘密を知る事が出来るかもしれない。研究とは、どんなものなのか? また罠があって、一緒に行ったら捕まるんじゃないだろうか? ルオラが行くべきか? わたしが行っても理解出来ないかもしれない…。この誘いに一番に乗りたいのはジオだ。


 そう思うとジオが起きるのを待つべきかと考えてしまう。


 違う。ちゃんとしないと…。ジオが居なくてもやるべき事はやる。新しい事を学ばないといけない。


 ルオラと相談して決めるけれど、行ってみようと思った。

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