第112話 部屋への突入
私達は、練習をさせられました。
病院職員と組織の女が見守る中、中に誰も居ない部屋の扉の前に立ち、真剣な顔で手順をこなします。
「リージュさん、これ、凄く恥ずかしいです。皆が見ています」
「分かってる、分かってるよ。でも、わたしがやるって言っちゃったし、病院のためになる事したいし…。本当にごめん」
「はぁ…」
病院職員の時間稼ぎが終わって、中の強盗に向かって話し掛けていた職員は扉の前を離れます。こんな筈じゃありませんでしたが、もう後には引けません。実戦の時間です。
「ルオラ、準備は良い?」
「いつでもいいです」
頷くリージュさんから目線を外し、取っ手を静かに回します。扉を勢いよく奥に開け放ち、リージュさんの進路を確保します。私達の戦いは始まり、きっとすぐに終わります。
わたしは、室内に一歩踏み込む。
「何だ?」
声を上げたのは強盗、森で会った男、心を読む魔法使い。室内の中央に立ち、右手に短剣、左手を人質の女性の首に回している。距離は三歩程。とても近い。机やなんかの障害物は無い。狙えそうなのは顔、右肩、右足のどれか。迷わずに顔を狙う。
筒を水平に構えているから、ほんの僅かに筒先を動かすだけで顔を狙う事が出来る。この距離では外さない。心を読んだってもう遅い。
私は、リージュさんが扉の正面から移動するのを待ち、部屋に入ります。
「ぐわ」
強盗の声、顔に飛び道具が当たった音、痛そうにして怯んでいます。目を押さえていて、私の事は見えません。間合いを詰め、警備員さんに借りた警棒を振り下ろして短剣を叩き落とします。すぐに人質の女性の手を引き、そのまま部屋の外に出します。乱暴ですが、許して下さい。
わたしは、次の飛び道具を準備し終わり、筒先を強盗に向け直す。
部屋の中を三歩移動して、強盗の側面に立つ。さっきの位置なら、ルオラの背中が近くにあった。ここなら、ルオラに当てずに二撃目が放てる。
床に落ちた短剣がわたしの方に転がってきたから、拾われないように足で柄を踏む。筒先を向けたままで居て、周囲を確認する。他には誰も居ないし、危険な物は無い。
ルオラの蹴りが強盗の胸を直撃し、倒れ込んだ先には天井まで届く高さの棚。落ちて来た木箱の下敷きになり、強盗は動かなくなった。死んでないだろうけれど、きっと立てない。二撃目は不要だった。
「終わったね。早過ぎない?」
「連携っていうんですか? 狭い部屋ですが、お互いに邪魔をしないから早いですね」
外から縄が投げ込まれて来たので、二人で強盗を縛った。
「見事だ。面白いものを見せてもらった」
女は静かにそう言った。
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