第66話 雨
俺は、まずいなと心の中で呟いた。
出発からずっと晴れていてくれた空は、今日の朝から曇りがちになり、昼を過ぎた頃には太陽が全く見えなくなった。進んで行く先の西の空は暗く、雨を予感させる。馬の様子を見ながら速度を上げるように促す。人も荷物も濡らしたくない。
道の先に宿場町が小さく見えた時、霧のような雨が降り始めて、荷台の屋根と馬と俺の靴の爪先が濡れ始める。しかし、俺達は運が良かった。大粒の雨に変わった時には町の厩舎に飛び込んでいて、ずぶ濡れにならずに済んだ。
大きな厩舎の大きな扉は、俺達を待っていたかのように開け放たれていて、迷わずに馬車ごと中に入った。
建物は奥行きがあり、左右には飼い葉を食む馬達が静かに並んでいる。中央の通路は馬車が十分通れる幅と高さがあり、少々の雨漏りが気になるが、雨の日に馬車を停めておけるように設計されているようにも思える。
「荷物はどうしますか?」
ルオラの顔には、ここに一晩馬車を停めておいていいのなら積んだままにしたい、と書いてあるようだった。
「雨漏りしてるが、俺達の馬車には屋根があって、荷物が濡れるような事は無いだろう。宿の方に行って聞いて来るよ」。
そう言って俺は、雨の中を宿の受付に向かって走った。片手を頭の上に上げて、傘の代わりにしようとしたが何の意味も無い。本降りの雨だった。
受付に居た女性は、いらっしゃいませ、厩舎は馬車が停められるように作ってあります、お泊り頂けたら停めて頂いて構いませんと笑顔で言った。
厩舎に戻った俺は二人に言う。
「じゃあ、一部屋借りたから、お前ら行って来るといい」
「ジオはどうするの?」
リージュは、荷物から身の回りの物を取り出しながら言う。
「俺はここの方が落ち着くからここで寝るよ」
「そう。ルオラ、行こう」
「は、はい。ジオさん、いいんですか?」
「いいよ。部屋の事は受付で聞いてくれ」
「それでは、お言葉に甘えて」
俺は二人を見送って、ひと眠りする事にした。
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