【SF短編小説】量子の糸で紡ぐ愛

藍埜佑(あいのたすく)

第1章: 交差する軌跡

 朝霧の立ち込める東京郊外の研究所。

 17歳の天才物理学者、美紗は、量子もつれの実験に没頭していた。彼女の指先から繰り出される複雑な数式が、ホログラフィックディスプレイに次々と投影される。

 

「やはり、これは……」

 

 美紗の瞳に、驚きの色が浮かぶ。彼女の計算によれば、量子もつれを利用して、異なる時空間の粒子同士を結びつけることが理論上可能だというのだ。しかし、それは同時に、因果律の根本を揺るがす発見でもあった。

 

 その瞬間、研究所のドアが開く音がした。

 

「やあ、美紗。また徹夜か?」

 

 声の主は、同じく17歳の天才数学者、隆二だった。

 彼は微分位相幾何学の分野で既に複数の難問を解決し、学会で注目を集めている逸材だ。

 

 美紗は隆二の方を振り向き、僅かに目を細める。


「隆二くん、おはよう。ええ、ちょっと面白い結果が出てね」

 

 隆二は美紗の横に立ち、ホログラフィックディスプレイに浮かぶ数式群を眺める。


「へえ、これは……まさか、時空を超えた量子もつれ?」

 

 美紗は小さく頷いた。


「そう、理論上は可能みたい。でも、これが正しければ……」

「因果律の根本が揺らぐことになる」


 隆二が言葉を継ぐ。


「でも、美紗の計算なら間違いないはずだ」

 

 二人は無言で見つめ合う。そこには言葉にできない緊張感と、同時に何かが始まろうとしている予感があった。

 

 美紗は深く息を吐き出す。


「隆二くん、この発見を一緒に検証してくれない?」

 

 隆二の瞳に、決意の色が宿る。


「もちろんさ。僕たちなら、きっと……」

 

 その言葉が、二人の運命の歯車を大きく回し始めた。

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