恋人は砂かけ婆!
崔 梨遙(再)
1話完結:1900字
翔太はイケメン大学生。近寄ってくる女性は数知れず。そして、そんな女性達を遊んで挙げ句捨てる。ヒドイ大学生だった。季節は夏。翔太は、その日、コンビニの夜勤のバイトを終え、いつも通り人通りの少ない公園の中を通って自分のワンルームマンションまで帰ろうとしていた。
すると、公園のベンチに座って苦しそうにしている着物姿の老婆を見つけた。
「お婆さん、大丈夫ですか?」
「ちょっと目眩がするんじゃ」
「だいぶん汗をかいていますね、熱中症じゃないですか? ベンチに横になってください。俺、飲み物を買ってきます」
「すまんのう」
「はい、これを飲んでください。救急車を呼びましょうか?」
「いや、救急車はいい、少し寝転がれば……」
「顔色が良くなってきましたね」
「ああ、気分も良くなってきた。ありがとう。それにしても、お主はキレイな顔立ちをしているのう。それに、優しいし……儂はお主に惚れてしもうたわい」
「え! 惚れた? 悪いけど歳の差がありすぎるから」
「そんなことは心配いらん、ほら、惚れ砂じゃ!」
婆は翔太に頭から一握りの砂をかけた。
「息子の翔太が、“婚約者を連れて来る”と言って実家に連れて来たのが年寄りだったんです。遺産目当てとも思えません。それで、もしかしてその年寄りは妖怪ではないかと思った次第です。妖術でも使わなければ、あんな年寄りに……。勿論、今の世の中、妖怪なんて信じられないんですけど、念のため……」
「任せてください、超常現象解決所、この黒沢影夫が調べてみますわ!」
黒沢影夫は私立探偵。だが、超常現象解決所の所長も兼務していた。(詳しくは、ハート・ボイルド①②をお読みください)
黒沢は、まず翔太と会ってみた。
「僕は君のお父さんとお母さんの知り合いなんや。東京での君の様子を見てくれと頼まれたんやけど、最近、何か変化は無い?」
「好きな女性(ひと)が出来ました」
「どんな女性? 会ってみたいな」
「もうすぐ、ここに来ます」
翔太は明らかにおかしかった。目の焦点が合っていない。そして、その女性は来た! うん、確かに婆だ。和服の婆。
「あ! 待ってたよ!」
「待たせたか? すまんのう」
「早く一緒に暮らそうよ」
「わかった、わかった、早く新居を見つけないとなぁ」
「今日も不動産屋に行こうよ」
「わかっておる、早く住むところを決めような」
「うん!」
「お話中、すみませんなぁ。私は翔太君のご両親の知人で黒沢と申します」
「……私に何か用があるようじゃな」
「ええ、少しだけお話がしたいんですわ」
「翔太、待っておれ、スグに戻る」
「えー! 俺も一緒じゃダメなの?」
「少しだけ、ほんの少しだけ待っていてくれ」
「この公園は人気が無い。ここでいいじゃろう?」
婆は黒沢に砂をかけた。
「やっぱりか。結論から言う、お前、砂かけ婆やな?」
「それがどうかしたのか?」
「お前は関西の妖怪やろ? 何故、東京に?」
「東京見物に来たら、翔太と出会ったのだ」
「お前、翔太の心を無理に奪ったやろ?」
「そうだ、惚れ砂を使った。それがどうした? 結果、翔太も儂と一緒にいて幸せなのじゃ。それでいいじゃろう? いかんのか?」
「それは翔太の本当の心やない! 妖力で翔太の偽りの心を手に入れて、それで本当に幸せなんか? 翔太の本当の心を奪わなくてもええんか?」
「本当の心を奪わなくてもいい! 今のままで充分幸せじゃ!」
「おお! 言い切ったな? ……幸せなら、まあ、ええか。今回は見逃してやる」
「見逃す? 見逃さなくてもいいぞ。儂を倒してみろ」
「え!」
「気付いておるわ、お主に妖怪を倒す能力は無いのじゃろう?」
「むむむ……よくわかったな! あ、身体が痺れてきた」
「ふふふ、さっきかけた砂は痺れ砂じゃ」
「助けてくれ」
「儂と翔太の仲を応援するなら助けてやる」
「応援する! 応援するから」
「よし、助けてやろう」
「……ああ、助かった。翔太の両親には、婆にとって都合のいいように報告しとくわ。それでええやろ?」
「そうじゃ」
「で、1つお願いがあるんやけど」
「ということで、翔太君と婆さんは愛し合っています。翔太君が惚れているんですから、見守ってあげたらええんとちゃいますか?」
「わかりました……あ、調査料を支払わないといけませんね」
「いえいえ、今回は超常現象ではなかったので料金はいただきません」
「いいんですか?」
翔太の母の秋子は40代前半。だが、若く見えるし美人だった。スタイルもいい。若い頃はモデルをやっていたらしい。黒沢のストライクゾーンのど真ん中だった。
「あ、奥さん、頭から少しだけ砂をかけてもいいですか?」
「え! なんのために?」
「幸せになれる砂なんですわ」
黒沢は、砂かけ婆から惚れ砂をわけてもらっていた。
恋人は砂かけ婆! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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