龍戦記 第一巻

第一章 帰郷

皇帝が国を治める国の辺境にとある村があった。その村は古くからの伝統と独自の文化を持ち、外部からの影響をほとんど受けない閉鎖的な場所であった。そんな村にひとりの青年、煌齋煇（コウサイキ）が訪れることになった。

齋煇は栗色の長髪を後ろでまとめ、その腰には黒い剣を佩いていた。彼の目には強い意志と何かを成し遂げようという決意が宿っていた。

（久々だな。。10年ぶりか。）

齋煇が独り言を漏らすと、周囲の静けさが一層強調された。この村はまるで時間が止まったかのように静かだ。齋煇は一歩一歩、村の門へと近づいた。

「止まれ！」

突然彼の前にひとりの少女が現れた。彼女は藍色の髪を後ろで高くまとめ、伝統的な青色の格闘家の装束を纏っていた。その姿は凛々しく、どこか威厳を感じさせた。

少女の声は冷たく響き、齋煇の動きを止めた。彼女の目は鋭く、齋煇を上から下まで一瞬で見極めるように見つめていた。流瑋の目には、齋煇に対する警戒心がはっきりと浮かんでいた。

「お前は。。」

齋煇の目も鋭く細められた。彼はこの少女がただの村の守衛ではないことをすぐに理解した。その気配は、訓練を積んだ龍の戦士ものだった。

ーそう、この村は龍の一族の末裔・古（いにしえ）の龍の戦士達が暮らす村だ。

「何者だ」

龍の村の少女・孫流瑋（ソンルイ）の問いかけに、齋煇は隠すことなく答えることを決めた。

「煌齋煇だ。」

その名前を聞いた瞬間、流瑋の表情に怪訝な表情が浮かんだ。そしてさらに鋭い声で問い詰める。

「なぜここに！」

「極秘事項だ。悪いが話せない。」

齋煇の返答は短く、確信に満ちていた。齋煇はこの村に来る目的を話すことはできなかった。

「そうか。」

流瑋はしばらく黙り込んだ後、拳を振り上げた。

「ならば、ここは遠さん。帰れ！」

「おい、待て！」

齋煇が叫ぶも、流瑋はすでに次の動作に移っていた。その動作に齋煇は一瞬身構えたが、流瑋は既に術を発動させていた。

「水！？」

流瑋の拳からは龍の力の恩恵を受けた龍術（リュウジュツ）・青龍の力を発動させる。

「青龍波！」

流瑋が叫ぶと同時に、彼女の手から水流が飛び出し、齋煇に襲いかかった。

（ま、まずい！）

齋煇の心中での叫びは遅すぎた。水流は勢いよくうねりながら齋煇に迫り、その威力は尋常ではなかった。齋煇はその威力に圧倒され、避ける間もなく倒れ込んだ。

（...？ 抵抗しないのか？）

齋煇は水との相性が最悪であり、彼の力はここでは役に立たなかった。加えて流瑋の術は齋煇の想像を超えるものであり、齋煇は抵抗する間もなく倒れた。

（...相性最悪だろ、水と火じゃなぁ。。運の悪い。。）

（何だコイツ、ふざけているのか。）

流瑋は倒れた齋煇を見下ろしながら、彼の抵抗のなさに内心あきれていた。普通ならば抵抗するはずだが、彼はまったく動かなかった。

「おい、お前。何しにここまで来た？」

その問いかけに、齋煇は弱々しく答えた。

「楓蘭に会いに来た。」

その名前を聞いた瞬間、流瑋の表情が硬直した。

ー楓蘭（フウラン）

彼女の頭の中でその名が何度も繰り返された。楓蘭はこの村の中でも特別な存在であり、楓蘭に会いに来る者の目的の多くが彼女の能力を頼るためだった。

齋煇がゆっくり身を起こす間、流瑋は彼をじっと見つめていた。流瑋の心には疑問と戸惑いが渦巻いていた。齋煇はなぜ楓蘭に会いに来たのか。その答えはまだ流瑋にはわからなかった。