第49話 火に油を注ぐ

「え…マーク……嘘でしょう」

「そんな、マーク!? まさか、そんなことって。きゃあ…あなたは誰なの?」


 若い女性が、ビィシャアの背後を取り地面へと叩きつける。流れるような動作で、両手首を片手で抑え、刃物を首筋付近に近づけた。


「セーレ様。動かないでください。少しでも動いたら、この女を刺します」

「セーレ、逃げてください」

「マーク…どうして……私、あなたの名前を言える。そんなことって」


 セーレは「少し動揺していた」しかし、慌てても「被害が大きくなる」可能性がある。「冷静になろう」と深呼吸をして、自身が「置かれている」立場を理解しようとした。


「あなたは何者なの?」

「このような格好での挨拶で、大変失礼いたします。私は魅力を愛する優勢思考のミエと申します」

「そう。また教団関係者なの」

「はい、その通りです」

「目的は何?」

「あなたの拘束です」


 セーレは、ミエに対しビィシャアは「無関係と主張する」が拘束の手を緩めことはしなかった。ビィシャアは小刻みに体を揺らし、ミエの「拘束を振りほどこう」とするが、腕の関節技が決まり、抜け出すことができない。


「離してください」

「嫌でちゅ。じっとしていてください」

「貴方、ふざけているの?」


 セーレの髪が銀髪になり、目が「笑っていない」寧ろ、目が据わり、一点を見つめ続けていた。ミエはその「目に恐怖を感じ」セーレに脅しを掛けた。


「セーレ様。理解されていると思いますが、下手な考えはお勧めしませんよ。ちょっとでも動けば、ブスリですから」

「それ、楽しいの?」

「楽しいですか? そうですね。信仰を拡げるためなら致し方ないことなのです。ご理解ください」

「…」


 セーレは沈黙し考え込んでいた。ミエは、セーレの後方からゆっくりと近づくナーブへアイコンタクトを送った。


「…(今よ、睡眠薬を)」

「…(任せろ)」


 ナーブは左手に睡眠薬を用意し、右手のハンカチ中心に置いた。そして、小走りでセーレとの距離を詰める。足音は、柔らかいゴム素材のアウターソールで、音を吸収していた。


「…(よし、行ける)我らと……」

「ねぇ、後ろにいる輩も私のことを理解していないのかしら」

「…(気付かれてる?)」

「ナーブやれ!」


 ナーブはセーレを羽交締めにし、口元にハンカチを押し当てた。セーレは頭を伏せ、脱力状態になった。ナーブとミエは目標を達成し、勝手にはしゃいでいる。


「セーレ。そんな嫌……」

「やったぜ、ミエ見たか」

「ナーブ。はい、やりましたね。これで我々の任務も……」

「勝手に終わらせないでよ。これからなのに……」

「!?」


 セーレは静かに顔を上げた。


「もう、わかったわ。これではっきりとした。やはり、教団は完膚なきまでに叩き潰さないとね」


 セーレの顔が急に笑顔となった瞬間。ナーブとミエの視界は、ブラックアウトした。

 

「これは何だ。目の前が急に何も見えなくなったぞ」

「待ってください。話し合いませんか」

「もう楽に死ねるとは思わないで。私は貴方達に対しては、今後一切容赦しないから」


 ナーブとミエの目の前に、突如として巨大な足が現れる。「グルグルグル」っと不気味な呻き声が聞こえる。その恐怖心に、2人の体がブルブルと発作が止まらない。上からもドロドロと粘液が垂れ、2人の肩や頭にへばり付く。ゆっくりと顔を見上げる。


「こんな話、俺は聞いてないぜ」

「…(目がない、口は狼、背中には無数の触手、皮膚はワニの鱗、全身棘だらけ)これが生物? 意味がわからない」

「さようなら」


 2人は大きな声を上げる。痛み、後悔、懺悔など口に出した。「助けてくれ」っとセーレに懇願する。


「死ぬことでしか許されないの。早くあの世へ行ってよ」

「嫌だ、セーレ様。助けてください」

「俺も、もうしませんから、セーレ様」


 セーレが許す筈もなく、さらに洗脳と幻想を見せる力を強めた。


「え、本気で言ってるの? 許す訳ないじゃない。貴方達は私を困らせ、望んでいないことばかりする。お兄ちゃん、マークを殺害して欲しいなんて、誰が頼んだのよ。ほら言ってみなさいよ。ほら!!!」

「助けて…ください……」

「ふふふ、だぁめ。私の大切な仲間にまで、手を出した貴方達はここで終わりよ。Travel through illusions!」


 2人は口から泡を拭きながら、地面に倒れた直後、体が弾け飛んだ。肉片と血はビィシャアの体を汚した。


「セーレ、大丈夫ですか?」

「まだ終わりじゃないの、待っててね」


 ビィシャアは、セーレの「笑顔に恐怖心を覚えた」が、顔を横に振り自身が「今すべきこと」を考えた。ふと、ビィシャアは亀の錬成作業を開始した。


「……(私のできること、湖に落ちたマークを生きてると信じて探すこと。セーレが名前を呼んだけど、あの馬鹿がそう簡単にくたばるとは思えない)」


 ビィシャアはセーレに対し「マークは任せてください」っと言い、亀の甲羅に乗り、湖にいるマーク救出へと向かった。


「さて、いるんでしょう。出て来なさいよ」


 ぞろぞろと教団信者達が出て来る。その数200人を超える。


「ふふふ、少ないくらいね」


 セーレは走り出した。

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