第46話 神器を探して1

「誰かいるぞ、重傷者だ。担架をもってこい」


 河岸から大勢の保衛団が集まってきた。皆の視線は、仰向けの状態で流れてくる美しい少女に釘付けとなった。


「大丈夫だろうか? おい、生きているか?」

「う……」

「…(ち、何で生きてるんだよ)」

「ちょっと、頭の中でうるさいのよ!」


 目を覚ますと、天井には「セーレを解剖したい。 by クライ」と書かれた文字が見えた。いつものように、枕を天井に投げて起床した。


「うーん、すっきりとした朝ね」


 簡易施設の外へ出たセーレは、背伸びをして大きな欠伸をした。暖かな日差し、滝のミストシャワーと冷んやりと感じる清涼感に気分も和らぐ。


「おはよう、セーレ」


 ビィシャア、マークの順に簡易施設のドアが開き、挨拶を交わす。セーレは、簡易施設の外壁にある10桁のデジタル端末の暗証番号を入力した。入力を終えると、簡易施設はみるみる小さくなり、四角い小さな箱に戻った。


「クライさん、天才過ぎる」

「そうよね、解剖とか考えなければ尊敬するわ」

 

 各自、食事と身の回りの準備を終えて、セーレの神器捜索が開始された。


「滝壺にはないか」

「ここには神器はないようね」


 セーレは、黒縁眼鏡をかけて神器の反応を探る。この眼鏡は、砂クジラ事件解決時のクライ依頼の達成報酬だ。周囲1kmの神器反応を黄色の点滅マークで知らせる。


「さて、移動しましょう」


 山茶花さざんかの滝から下流に向かい、足を進めていく。途中、セーレが変な方向へ行きそうになる度に、マークは注意を促した。


「隣で何回も口出しして、うるさいわよ。そんなに言うなら、あなたが先導しなさいよ」

「はいよ、先導します」

「ふふふ、面白いですね」


 マークは足元の悪い道を選ばないよう注意しながら、川沿いの道を先導した。後方にはセーレが指示を出しながら、マークの道選びの不満を漏らす。ビィシャアは、2人の様子を見て面白がっていた。


「ここは……」

「セーレ、どうしたのですか?」


 ビィシャアが話しかけても、セーレは無言で棒立ちだった。着いた場所は、緑溢れる森の中に流れる深めな池であった。


「…(滝から近いわね。それもそうか、浅い水深なら全身傷だらけになるし、最悪死んでたかもしれない。けど、こんな近くまで、保衛団がいたのかしら? 都合が良過ぎないかしら、うーん…わからないわ……)」

「セーレ?」


 ビィシャアは、心配そうにセーレの顔を覗き込んだ。


「大丈夫よ。この場所ね……」


 セーレは、マークとビィシャアに対し、この場所に流れ着いたこと、保衛団に拘束されたことを隠さず事実を話した。アーネスとのトラブルは除く。


「なるほど、この場所の反応はあるか?」

「うーん、ないわね」

「なら、もっと下流の方でしょうか」


 下流の方に目を向けると、かなりの急な傾斜で川の流れも強くなっている。遠くにはイース湖が視認できる位置まで辿り着いていた。


「セーレ、保衛団に槍を回収されたって可能性は」

「ないわね。あのとき、微かに意識はあったし、槍は握っていなかったわ」

「では、やはりこの先でしょうか」


 マークは、イース湖までの道順を考えていた。セーレとビィシャアは、保衛団が残した銅の盾、木のバリケードを見ながら話し込んでいた。セーレは、木のバリケードを手に取るとおもむろにマークへ近づく。


「あなたは、何でも深く考え過ぎなのよ」

「セーレ、その木の板は何だ? どうするつもりなんだ」


 セーレは、川に木の板を投げ込むとその板に飛び乗った。


「何してるんだ」

「あら、知らないの。サーフィンよ。私こう見えても、バランス感覚は凄くいいの。学問所の課外実習でも上手と褒められたのよ」

「まさか……」

「頼んだわよ」

「わかりました。マークは私が連れて行きます」


 セーレは、川の傾斜を利用し勢いよく飛び出した。ビィシャアはマークを呼び、亀を錬成。その甲羅の上に乗り、セーレを追いかけた。


「最高だわ」


 大きな石を交わしながら、風と波飛沫を全身に感じる。ボードが揺れるのを左右の足腰で調整する。瞳に映るモニター表示を確認するが、反応はなく、時折水滴がかかる。


「これよ、これよ」


 セーレの胸は高まり、軸足の親指に力を入れ踏ん張った。板を左右上下に降るようなしごきを続けた。そして、瞳は常に遠くを見てある言葉だけ考えた。私は「遠くを目指したい」と気持ちを前へと押し上げた。


「気持ちいい。こんな気持ち、いつ以来かしら。あはははは」


 セーレは笑顔で気分も上々だった。


「セーレ、サーフィンできたのか」

「素敵です」


 マークとビィシャアは、遅れてイース湖に流れる川の入り口付近に到着した。


「遅かったわね」

「あれ、木の板は?」

「あそこよ」


 セーレが指差した方向に、木の板がプカプカと浮いていた。


「どうやって、止まったんだ」

「止まってないわよ、途中で乗り捨てたから」


 セーレは、目的の場所に着く直前。広い陸地を探して、木の板を強く蹴り、空中で前方宙返りにひねりを入れて、背中を向けて着地した。


「見てみたかった。きっとスタイリッシュ……」

「馬鹿なこと言ってないで、イースの湖の探索を始めるわよ」


 セーレは、周囲に小型船がないか散策を始めた。

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