第36話 見守る
ある深夜、シューズを履いた人が慌ただしく、病室の廊下を駆け出す。当直の女性は、ナースステーションで患者記録を付けていたとき、緊急の呼び出し音で事態を知った。彼女の頭には、最悪の事態も「予期し想定」していた。
「セーレさん!」
「ピーーーッ!」
目的の場所に着くも、白衣を着た女性の瞳には患者の姿は映ることはなく、心電図のアラーム音だけが耳に残った。
「何だって!? セーレがいなくなった!」
「あぁ、そうだよ、マーク。専属担当から聞いた話だが、病室から姿を消していたらしい」
「いったい、何処にいったんだ」
「ヘーゼルが治療したから、体調に関しては問題ないだろう。僕も探しに行きたいのだが、本日中に終わらせなければならない認可処理が溜まっていてね」
「わかりました、俺達で探しに行きます。夜遅くのご連絡ありがとうございます」
「あぁ、お願いするよ。…わかったよ、もう電話を切るから、そんなに催促しないでくれ……。マーク、頼んだよ。ちょっと、もう切る…ばつん……」
マークは、ホテルに備え付けの壁掛け電話を元の場所に戻した。自室のドアを開け、右隣のビィシャアの部屋に行き、事情を説明した。2人とも自室に戻り、
「マーク。セーレが行くところに、心当たりはありませんか?」
「
「無理ですね。あれは対象者に予め、石を取り付けておく必要があります。病室で苦しんでいたセーレに異物何か付けられませんよ」
この街は、工場、住居、展望台、商業施設に区分けされている。セーレ達は商業施設におり、マークとビィシャアはクライ手配のホテルに泊まっていた。
「前回来たときは、コウモリ型の機械に案内されて、工場の施設には案内されたんだがな。この街は、ドーム上で壁が高い。もし抜け出すなら……」
「抜け出すなら?」
「そうか、展望台だ。あそこなら、外の景色がよく見える」
「…考えても答えはでませんね。マークの案に賛成です。展望台へ行ってみましょう」
明るい商業施設を走り抜け、展望台へと急いだ。
「あのさぁ、そろそろ終わりにしない?」
「ダメです」
「今日の昼にやるからさぁ」
「今すぐの認可処理が必要です」
マークとビィシャアへ捜索を依頼したクライは、執務室での書類の認可処理に追われていた。
「もう、いいでしょう? 僕、疲れちゃったよ」
「ダメです! 次は、王城からの式典参加依頼です」
「何それ?」
「読み上げます。クライ殿、この度は……」
「いや、要点だけ教えて」
「はい、わかりました。では、王城で式典やるから参加しろです。以上」
「式典ねぇ、僕は興味ない……。いや、待ってよ」
「どうされましたか?」
「ちょっと面白いこと考えたよ」
クライは頬杖付き、悪さを企む小悪魔のような顔で笑っていた。若い秘書の男性も頭を抱えた。
「何を企んでいるか、知りたくもありませんが、程々にお願いしますね」
「君が気にすることはないさ。能力を逆手に取った
「その考えが怖いんですが」
「楽しみだな、アーネスに会えるからな。どうせなら、12人全員集合すれば……。あ、バクは来ないでいいや。あの男は、暑苦しいし、猪突猛進の無自覚馬鹿で、僕の計画を壊すからな」
秘書としては、そんな話「どうでもいいんだがなぁ」っと思いつつ、自身が早く帰るために、本案件へのクライの承認可否を尋ねた。
「では、この案件は」
「承認っと。いやぁ、楽しくなってきたね。もう充分満足感に浸れたよ。さて、本日中の案件は、後何枚残っているんだ?」
「100枚です」
「よし、今日は帰ろう」
「ダメです!!!」
そんなクライと秘書とのやり取りが続く中、マークとビィシャアは展望台へと到着していた。
「ここが、展望台か。誰もいないなぁ」
「マークの当てが外れましたか?」
「もっとよく、周囲を探そう。セーレがいるかもしれない」
「ちょっと待て、何か叫ぶ声が聞こえる?」
「ビィシャア。急に何言ってるんだ。あれ、本当だ。これは寧ろ叫びって言うより、泣いてる?」
展望台の近くには、集合墓地があった。その場所に目を凝らすと2人の影が薄らと見える。そのシルエットには、見覚えがあった。
「ヘーゼルさん、セー……」
ビィシャアの左手がマークの口を覆い、大きな声を立てないよう注意を促した。そして、墓地の慰霊碑の影に隠れ、小声で話を始めた。
「急に何すんだよ」
「マーク、今はそっとしておきましょう」
「だから、何で。目の前にセーレがいるだろう」
「わかりませんか、もっと2人の様子を見て下さい」
「あ…悪い、そうだったのか……。わかったよ、ビィシャア。今は、そっとしておこう」
悲しき涙が吹き荒れる世界とは別に、旅の行き先を
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