第7話
「すいません」
「すいません」
「すいませんじゃあねえよ!このバカーお前ら本当にバカだ。よし決めた、詩織お前にはまた握手会をしてもらう」
「えぇー嫌よ、昨日握手する前に手に鼻くそや唾つけるような人がいたんだからーお願い他のことなら何でもするからー許してよー。」
詩織は俺に泣きつき懇願する。
泣きついたって許す訳がないだろ、このバカだよぉ‼
「ダメだ。他にお前に金を稼ぐ術なんてないだろ。和お前は今日一日奴隷だ、分かったな」
「はい」
和と詩織は下を向いて答えた。
こいつらはしょんぼりしやがってこっちが悪いことをしているみたいじゃないか、ならいっそのこと悪いことをしてやろう。
「あのすいません。やっぱり馬車はキャンセルで……。」
「あははは……大変ですね。」
ギルド受付嬢は苦笑いで答えた。
辛い!この苦笑いが辛い!絶対今俺達異常者だと思われている、このバカ二人はしょうがないが俺まで勘違いされるのは嫌だ!
俺達はギルドを後にした。グリズリーベア討伐のために森に向かって俺と詩織は並んで歩いているが和はその少し後ろを大荷物を持ち歩いている。
「はぁ……はぁ……屑少し待ってくれ……荷物が重くて」
「屑?屑さんだろ?」
「はぁ……屑さんなんで……こんなに荷物重たいんですか?」
うーん、奴隷に好き勝手文句言うのは気持ちいいな。
「お前の部屋の荷物を全て持って来ているからだ」
「屑さん、なぜそのようなことを?」
「俺の杖だけじゃあ重たくないからな。それに俺の荷物や詩織の空の酒瓶だとしたら捨てるっていう選択肢をお前が取るかもしれないからお前の荷物にしたわけだ」
俺は振り返って答えた。
ふふふ、どうせ荷物を運ばせるならより重い荷物を運ばせる方が楽しいのだ。
「えぇー……。」
和の声から力が感じられない。
いいぞ、ざまあみろ、このバカが!勝手に金をすべて使った罰だ。次は何を命令してやろうか……、楽しくて、楽しくて仕方ないな。
「もう二度と勝手にお金を使うのはやめるわ」
「俺もだ」
「どっち道そんなこともう出来ないぞ。俺がお金を管理するからな」
「もっと早くそうして欲しかったわ、屑が管理するのが遅いからこうなったのよ。はぁー最悪だわ。」
何で俺のせいなんだよ……、握手会の時間を長くしてやろう。
「着いたな」
俺達は街外れの森の入り口に辿り着いた。目の前には深い緑の山が広がっている。
「やっとか」
和は荷物を置いた。
「ご苦労奴隷では森の中に進むぞ。奴隷お前は荷物を持って来い」
「え~、今置いたばかりなのにですか?」
「そうっ!今置いたからだっ!」
「あっ……。」
和は絶望のあまり口から言葉が漏れた。
フッフッフ、やっと和も理解したようだな。俺は和を奴隷のように扱き使いたいわけではない、ただただ嫌がらせをしたいだけなのだ。
「やりすぎじゃない?私は本当に握手会だけで済むの?もしかしてエッチなことまでする気じゃないでしょうね?冗談じゃないわよ」
と、詩織は自分自身のことを抱きしめる。
「顔だけ女勝手に決めつけんな、そんなロリガキみたいな体に興奮するかよ。」
「うるせえ!殺すぞ!」
「ゴハッ!」
詩織は一撃で俺を殴り倒した。
「おかしい濡れ衣を証明しようとしただけなのに」
なんて理不尽な奴なんだ、このクソ女が俺は殺されたことも許してやったっていうのに……、握手会だけじゃダメだ。もっともっと復讐してやる。
「人の体を馬鹿にした罰よ」
「あのー屑さん、荷物重たいので早くいきませんか?」
ふむふむ、和の方は辛そうだな。よし少し元気出てきた。
「それじゃ森に入っていくか」
俺達三人は深い緑の森の中に進む。
「でもグリズリーベアってどれぐらい大きいいの?」
「屑さんヒグマサイズなら俺達殺されてしまいますよ」
「初心者おすすめだし子熊ぐらいじゃないか?」
全く、初心者おすすめでヒグマサイズが出てくるわけないだろ、スキルを習得したとはいえ勝てる気がしないぞ。
俺達は更に一時間程森の中へと歩いた。そして出会ってしまった体長が三メートルはあろうかという巨大な熊に。
「あれがグリズリーベア……、あんなの勝てる訳無くね?」
俺は体長三メートルほどの熊、グリズリーベアを指差した。
「勝てるでしょだってあんた達今魔法使いでしょ?」
詩織は杖を指差した。
は?いやいや魔法なんか簡単に防がれそうだろ。転生二日目で死ぬとか馬鹿らしくて嫌だ。そうだ……。
「よしっ、和攻撃してみろよ」
「えっ……、分かった。フレア!」
和の杖の先から火の玉が飛び出した、グリズリーベアは火の玉が当たり少し悲鳴を上げた、その後怒ったように吠えた。
「あまり効いてなさそうだな」
やば……、攻撃一発じゃ意味なさそうだな。たくさん当てないと倒せないのか、え?無理じゃね?
グリズリーベアは俺達に気が付きこちらに向かって走ってきた。
「あっやばい、あとよろしく!テレポート」
俺の姿はその場から消えた。
「はぁぁぁぁ⁉あいつ何一人で逃げてんのよ!」
と、怒りに震えている。
「すまん詩織あとは任せた、信じてるぞ!クリアー!」
和の姿は見えなくなった。
「和、ちょっと待ちなさいよ!か弱い乙女一人置いて行く気?私も透明にしなさいよ!」
「無理あいつ鼻良さそうだし匂いで追われると困る、だから囮になってくれ。」
「だからって私を囮にしないでよ!」
グリズリーベアは唸りながら詩織に向かって一目散に走る。
「あーもう!プラススピード!」
詩織はバフを自分に掛けて走って逃げた。
場面は再び森の入り口にまで戻る。詩織が走ってこちらに向かって来た。
「やっと来たか」
「はぁ……はぁ……あんたら何私一人置いて行ってんのよ」
詩織は息切れしている。
フハハハ!バカがざまあみろ、まだまだ置き去りにしてやる。
「そんなことより作戦を思いついたから戻るぞ」
「えぇー、私今戻ったばかりでへとへとなのに……。」
と、詩織はその場に座り込んだ。
「俺だって今戻ったばかりだから文句言うなって」
「あんたはグリズリーベアに追いかけられてないからゆっくり歩いて戻れたでしょ」
「ハイハイそこまでにしろ。疲れてるのはみんな同じなんだから行くぞ」
俺は手を叩いて、歩き出した。
さてさてあと一回置いて行けばちょうどいいか?一応見とくか。
「あんたは最初にテレポートで逃げたから疲れてないでしょ」
「ついてこないなら置いて行くぞ」
和は俺を追いかけ、森の中へと再び歩き始めた。
さてさてあと一回置いて行けばちょうどいいか?一応様子見とくか。
「……あーもう!分かったわよ」
詩織は俺達を追い付こうと走った。俺と和は追い付かれないように走り出した。
「はぁ⁉ちょっと待ちなさいよ」
詩織はより必死に走った。一時間ほど走って俺達は再びグリズリーベアを見つけた。
「はぁ……はぁ……そういえば作戦って何?」
追い付いた詩織は杖に寄りかかっている。
「すぐ分かる、フレア!」
屑はグリズリーベアに向けて杖から火の玉を放った。火の玉は見事的中しグリズリーベアは怒り走って来る。
「このあとはどうすんの?」
「俺は逃げるテレポート」
その場から俺の姿は消えた。
「ちょっと待って私もう本当に走れないんだけどあのバフ三分しか持続しないし使った後はものすごく疲れんのよ」
「そうかドンマイ。なら防御魔法でも使えば?俺は逃げるから、クリアー」
和の姿が見えなくなった。グリズリーベアは残った詩織に向かって走った。
アハハハ!この前は仕方なく俺を殺したことを許したが勝手に全員の軍資金を使うからだ、このバカがよぉ‼アハハハ!
「バリアー、あいつらマジで何なのよ。仲間なのに魔物を前に置いて行くなんて、私一人じゃ死ぬに決まってるのに……。あの世で必ず絶対ぶっ殺す!」
詩織は疲れ果てて座り込み防御スキルで身を守っているがグリズリーベアは構わず攻撃をしようとした。
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