第3話

「ごめんなさい!なんでもするから許して下さい」

 と、詩織が力強く俺達にしがみついた。


 なかなかの力だな、さすがは剣道八段だ。


「やめろ、お前が悪いんだろ」

 俺と和は詩織を振りほどこうとするが詩織は手を離さない。


「しつこいな」


「ごめんなさいなんでもするから許して私が悪かったです。」


「だー!かー!らー!お前が嘘つかずに素直に答えてたら良かったんだよ」

 和の声が大きくなった。


「だからってこんな可愛い女の子一人異郷の地に置いて行くっていうの?」

 詩織も負けじと大きな声で言った。


 何が可愛い女の子だ、可愛いのは見た目だけで中身は誘拐犯兼殺人犯だろ、とはいえ埒が明かな

い。


「分かった、分かった。連れて行く、連れて行くから静かにしろ」


 何でもするって言うのなら自分から離れたくなるぐらいこき使ってやろう。


「ありがとう~屑~」

 詩織が俺に泣きついた。


 汚ねぇ鼻水着けてくるなよ……。


「何でもするって言ったこと忘れるなよ。」

 俺は念を押した。そして俺の言葉で詩織は離れた。


 まずはこの汚されたズボンを洗わせてやろう。


「さて酒場に情報収集に行くか」


「なんで酒場なんだ?」

 和が俺の顔を見て質問した。


 全くこいつはなってないな……。


「酒場に情報収集なんてゲームじゃ定番だろ」


「まあ確かに。」


 俺達三人は近くの人に酒場の場所を聞いて酒場に向かった。


 三十分ほど歩いて酒場に辿り着いた。酒場の中にハゲで屈強な体つきをしたマスターがいた。


「いらっしゃい何にする?」

 マスターらしき、ムキムキのハゲおじさんは元気な声で迎えてくれた。


 マスターは随分と気さくな人そうだ良かった。


「酒は今度にするよ。聞きたいことがあるんだ」


「何が知りたい?知ってることならなんでも教えてやるよ」

 マスターはカウンターにひじを掛けた。


 おお助かった。大抵こういう時は聞きたければ何か買えって言われる展開だからな。


「ちょっと屑、一杯ぐらい飲まないと失礼よ」


 詩織が嬉しそうに言った。俺は黙れと言わんばかりに詩織を睨んだ。


「すいません」

 詩織は悲しそうに下を向いた。


「冒険者になるにはどうしたらいいんだ?」



「一杯も飲まずにただ質問して答えてもらえると思ってんのかぁ⁉失礼だぞ」

 マスターが不機嫌そうに言った。


「え?でもさっき知ってることならなんでも答えるぞって、言ってただろ」

 和が困惑して言った。


 こうなるとこのマスターは一杯でも飲まないと絶対に教えてくれないだろうな。


「うるせぇな!ここは酒場だ。酒を飲まない人間にサービスする義理はない!」


「ちょっと待ってくれ……。」

 俺は二人を連れて店の外に出た。


「お前ら金持ってるか?」


「持ってない」


「持ってません」


「だよなぁ……。」


 それから少しの間俺達三人は酒をどうしたら買えるか腕を組み考えていた。


 金は無い、金を稼ぐための冒険者になる方法も分からない。詰みじゃん、餓死して地獄行くだけじゃん。地獄に行く前にあのクソ女神を殴ってやろう。


「詩織お前アイドルになれ」

 和が唐突に言った。


 アイドル?誘拐犯兼殺人犯の詩織が?人に夢見せられないだろ。


「なんでよ?」


「お前顔だけは良いからさスーパーアイドルの握手会とかなんとか言ったら金払ってくる人が現れるだろ」

 和が軽口をたたくように言った。


 顔だけは良いこの一言で理解した、こいつは本当に顔だけは良いのだ。


「嫌よ」

 早々に拒否された。


 余程嫌らしい、こうなったら早速脅しますか。


「お前俺たちにでかい借りがあったよな、それにさっき何でもするって言ったよな?」


「えぇー……、分かったわよ。あんたらろくなし死に方しないわよ」


「お酒に頭をやられた女子大生に居眠り運転で轢かれるとか?」


「そうよ!うるさいわね!」


「それでどうするの?いくら私が可愛くても巨乳って書いてあるだけの白Tシャツを着てる人をアイドルと思う人はいないでしょ」

 と、Tシャツの文字の書かれているところを引っ張り強調して言った。


 ここまで触れてこなかったが全くこいつは何というファッションセンスをしているのだろうか……。


「思いつきで言ったもののそれもそうだな。そもそもこの世界にアイドルなんて文化があるかも怪しい」

 と、和は再び腕を組んで考える。


「アイドル文化自体はあるだろ俺ら以外の地獄行きの人間が地球の文化をある程度広めているだろうし。アイドルだと思われるには踊ればいいんじゃないのか?」


「音楽無しで踊るの?」


「確かにしょうがない踊りはなしで行くか」


「それで一体どうするのよ」


「スーパーアイドルの南詩織さんの握手会はこちらから並んでください」

 俺は声を張って言った。すぐ周りに人が群がってきた。


「なんギラですか?」


「ギラ?」


「この国の貨幣単位のことだろ、一万ギラになります。」

 俺は和に説明し接客した。


 この国の物価は分からないがどうだ、値段設定はうまくいったか?


「1万⁉高いなぁ……。」


 はい失敗しましたー。


「おい説得しろ」

 と、俺は詩織に耳打ちで伝えた。


「確かに高いけどー?しおりんのためなら安いでしょ?」


「払います!」


「ありがとねー」


 流石だ、見た目がいいから少し説得するだけで高い金額も払わせることが出来るのか……これもう天職だろ。


 一時間後


「まさか四十七人も来るとわな」


「四十七万ギラも稼いだんだしこれで貸し借りなしよね?」

 俺に確認した。


 命に比べたら絶対安いだろうがこいつからこれ以上を望んでもこいつには無理だろう。


「もちろんだ。」


「うるさいわね。もう握手会はやりたくない握手の前に手に鼻くそつけるようなやつとかいて辛かったのよ」

 詩織は両腕を抱え震えた。


 途中から面倒くさくて何も見てなかったけどそんな奴いたんだ。


「まじか、お前それどうしたの?」

 和が質問した。


「鼻くそとは反対の手と握手したわよ」


「なるほど」


 和のやつ何感心してるんだ?というかそんなことどうでもいいだろ。


「お金も溜ったことだし戻るか」


 俺達は再び酒場に戻った。

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