夢が叶うライブ〜ドリライ!Stage On !〜
@kisaragi0409
第一章~the beginning〜
Stage01~夢が叶う瞬間~
中学三回目の春。周りの皆は進路に向き合う年になった。帰りのホームルームで進路調査のプリントが配布される。
「進路調査は来週の月曜日だからな、忘れないように」
担任教師が言うように進路選びは重要だ。高校の進路は大学や社会人と、この先の大きな分岐点。しかし、俺は進路について全く関心がない。
親代わりの姉だけの生活で、私立の高校は論外。なら、無難に公立高校が正解だ。学校選びは何も困らない。
俺には音楽が奏でられば何処でも良い。
ホームルームが終わった後は、部活動や帰宅する生徒が交差する。その中俺はギターケースを持って、いつもの場所へ走って向かう。
「今日も誰も居ないな」
いつもの場所とは、公園である。しかし、皆んなが想像するような、遊具が沢山ある公園ではない。
あるのは、ベンチとシンボルツリーだけ。この物寂しい公園は誰も居ない。けど、俺にとっての憩いの場だ。
「今日も昨日の続きからだな」
幼い頃から不思議と音楽が好きだった。クラシックからロック、何でも好きな雑種だ。最近は自分で作曲をして、好きな音を作りげることがルーティンになっている。誰も居ない公園は正にベストな場所なのだ。
「よっと」
アコースティックギターを取り出し、作りかけの曲を考える。完成のイメージはアップダウンの激しい曲。だが、その中に美しさを連想するような、曲に仕上げたい。
まずは、続きまでの部分を引いてみよう。目を閉じて、弦を弾く。ギターから奏でられる音は、正に自分好みの音。シンボルツリーの葉が風に揺られ、自然の音もギターと合わさり、弦が弾むが、作りかけの曲は終わりが突然だ。
「その曲なんて言うの?」
曲が弾き終わり、目を開けると、俺をじーっと見る男性がいた。彼を見ると世間では、美形に該当するだろう。銀色の髪は夕焼けに眩しく照らされており、琥珀色の瞳は濁りが無く、とてもクリアだ。
「あの何ですか」
今まで曲を弾いている時、人が来ることがなかったので、思わず黙ってしまった。
「いい曲だね君が作ったの?」
質問を質問で返すな。俺の心情もお構い無しに彼は隣に座った。彼の眼差しがあまりにも綺麗に思わず目線を外す。こんな美形を直視できない。
「俺が作った。曲名は…まだ名前はない」
「そう、まだ名前がないのね」
名前は無い。曲名は完成してから、決めている。
終わらない曲しかないので、名前の無い曲しか生まれない。
「君って近所の中学校だよね?高校は音楽関係に行くの?」
さも当然のように進路を予想しているが、残念ながら俺は普通の高校に進学だ。
「普通の高校。俺の作曲は趣味の範囲だし、それで、食って行くこともない。」
自分の考えていることを素直に話すと、彼は眉を顰め、残念そうな表情をした。俺が音楽関係の高校に行かないことが、彼には関係ないのにな、とぼんやりと考えた。
「これ、君にあげるよ、いい曲聞かせてくれたお礼」
彼は懐からチケットを取り出し、俺は渡す。チケットには【伊集院ユキヒトDREAM LIVE】と書かれている。
ドリームライブ、幼い頃から盛り上がっているライブだっけ?普通の人なら喜んで受けるチケットだ。けど、わざわざ会場に行ってまで、ドリライを観たいとは思えない。
「いらない」
「ちょっと待って!このチケットプレミアだから!絶対楽しいドリライだから!お願いだから受け取ってよ!」
「結構です 」
無理やり渡そうとする手を俺が引きがはがし、彼がまたチケットを渡す。そんなことを三回繰り返す。一向に引かない彼に霧がない。俺は降参した。
「わかりました。受け取ります」
「始めから貰えばいいのに、あーチケット転売しないでよ」
「しませんよ !」
転売は法律違反だろ。と突っ込みを入れたくなった。面倒なので、何もしない。すると、彼は腕時計を見て、ハッとした表情になった。
「やっべ !もうこんな時間、アキトに怒られる。君の曲本当によかったよ!ありがとう」
夕日が沈み欠けており、結構な時間が経ったんだな。そして、彼は颯爽と公園を去った。だが、問題が発生した。
足元にはペンダントが落ちていた。彼が来る前は。何もなかった。あのペンダントはきっと彼の物だ。
「あ!待って!」
彼を引き留めるが、姿は消えていた。追いかけるにも追いかけられない。仕方ない。また会った時に渡そう。
辺りを見ると、夕日は沈みかけていた。今何時だ !俺も心臓が一瞬跳ねあがる。スマホの時計を見ると、十八時三十分。
「マズい !」
姉さんに音楽をしていることがバレたら、怒られるのレベルじゃ済まない。俺も先程の彼のように公園から出る。街中は街灯が徐々に点灯していた。走っていた足を更にに急がせる。息を切らしながらも足は止めない。
今まで時間に余裕を持って帰宅していたのに、今日は災難だ。と今は姉が先に帰ってないことを祈りながら走った。
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「危なかった」
家まで全速力で走った結果、姉さんはまだ帰宅してなかった。しかし、問題はまだ解決していない。それは家事だ。
基本的に俺と姉さんで家事を交代制にしている。今日の晩御飯当番は俺。いつもの時間帯なら、晩御飯ができている。もし、晩御飯ができていない理由を問い詰められたら、アウトだ。
荷物を部屋に置き、ギターケースは隣の部屋のお姉ちゃん‘の部屋へ。
早速晩御飯作りの準備をする。冷蔵庫を見ると、ひき肉に豆腐、ニラ、その他諸々の食材。昨日は洋食だったから…和食いや、姉さん明日、魚使うって言った気がする。
「中華…麻婆豆腐でいいか」
急いでる時や面倒な時、食材を切るだけで、簡単に出来る麻婆豆腐の素。そのままだと、少し味が寂しいので、香辛料もぱっぱと調理台に置いた。
「後はテレビを付ければオーケっと」
テレビに電源を入れれば、準備の完了だ。今の時間は、天気予報をアナウンサーが元気よく伝えている。
そのBGMに食材を淡々と切る。それよりも姉さん今日は遅いな。何かあったか?
「さて!次のコーナーはドリライ特集!」
ニュースキャスターは元気よく、タイトルコールをする。今まで、ドリライに耳を傾けなかったが、今日はテレビに耳を傾ける。
「今週のイチオシは、伊集院ユキヒトのラストドリライですね」
丁度食材が切り終わり、視線をまな板からテレビを見ると、思わず声を上げてしまった。
「あっ!あの人!」
テレビに映っている伊集院ユキヒトは、俺にチケットをあげた彼だった。晩ご飯作りに手を止め。テレビを見続ける。
「今回のラストドリライは、チケットの当選倍率は数百倍以上!しかし、落選した方もライブビューイングは販売中です!」
キャスターは伊集院さんの魅力を枠内で紹介する。そして、街頭インタビューコーナーへ移る。
「ユキヒト様が活動休止!もう生きられない!」
「あの人のドリライはいつも夢で溢れていますよね」
「最後だからって、抽選しすぎだろ!」
街頭インタビューで涙を流すファンが多く、沢山の人に、愛されていることが数分で、知った。
俺はそんなチケットを貰ってしまったのだ。
俺にチケットを渡した理由は知らない。けど、この機会逃すわけにはいかない。
いかん、早く晩御飯作らないとな。そして、手を止めていた晩御飯作りを再開した。
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あれから、あっという間にライブ当日。ドーム周辺会場は沢山のファンが居た。駅周辺から既にスタッフの誘導もあって、スムーズに会場に到着した。
会場入りの列へ並ぶが中々前へ進まない。既ににスタッフは、プラカードを掲げて、最後尾の案内をしている。グッズも長蛇の列だ。
ファンは最後のドリライを全力で、楽しんでいるようだった。この会場はお祭りムード一色。ついに列の先頭だ。スタッフにチケットを渡す。
「チケット拝見しました。ではドリライバンドをどうぞ」
「あ、はい」
スタッフから銀色バンドとパンフレットを受け取った。一体何のバンドなんだ?丁度パンフレットもあるので、席に着いたら見よう。
「すげぇ」
会場入りとするとズラリと、ブーケスタンドが多く並んでいた。これはすべて伊集院さん宛の物だろう。彼のイメージカラー、白いの花や、綺麗に装飾された飾りはどれも華やかだ。
ファンから企業まで、多くのブーケは彼が多くの人に愛されていることを知る。そして、アリーナへ入って、上を見上げると、三階席まで満員だ。緊張してきた。
この気持ちはなんだろうか、考えても仕方ない。まずは席に着こう。
「ずいぶん緊張していますね」
声の主は眼鏡を掛けた黒髪女性だった。大人しそうな彼女も、伊集院さんのファンなのだろうか?
「会場のファンの熱気になんか。緊張してた。ドリライも初めてなんだ」
「ドリライ初参戦でアリーナ席は凄いですね、なら、ドリライバンドを付けた方がいいですよ」
辺りの人達を見ると、腕にドリライバンドを装着していた。周りの人たちも同様だ。
この機械的なバンドは一体何使うのか?俺には全く想像できない。丁度良いし、彼女に聞いてみよう。
「このバンド何に使うんだ」
すると、彼女は大きくため息を吐いた。仕方ねぇじゃねか、俺はドリライに興味を持ったのも数日前なんだ。
「話掛けたのが、私で良かったですね。仕方ありません教えましょう。」
俺も彼女に聞いてよかった。もし、過激ファンだったら、俺は物理的に干されていた。そして、ドリライについての説明が始まった。
「ドリライバンドは、ライブ中、パフォーマーに叶えて欲しい夢を蓄積する物です」
ドリライは観客の夢を叶えるもの。その夢のためには、観客の想像力が必要だ。しかし、想像力を見ることは、現代では難しい。そこで開発されたドリライバンド。
ドリライバンドで想像力のデータを【GENSOUげんそう】と呼ばれる物質へ変わる。GENSOUは観客の夢の塊、触れたりすると、感情や夢の内容がが読み取れる。
このGENSOUを元にパフォーマーは観客の夢を叶える。【ドリライパフォーマンス】が発揮できる。
「GENSOUは、人によって違います、直接見れば分るでしょう」
「なるほどな、じゃあ俺達もドリライの一部なんだな」
「そうですね、ドリライは素晴らしいエンタメです」
彼女は自分のことの様に、ドリライを語る姿は、緊張を忘れて、俺も今から楽しみになった。
「説明は此処で終わり、始まりますよ」
彼女の言葉を合図に会場の巨大スクリーンは、カウントダウンが始まった。観客もカウントが0に近づく度に声が大きくなる。
そして、カウントは0になった。
派手に登場をする。誰もが思った。しかし、彼は違った。出入り口の端から、モデルのように歩く姿を見て、思わず息をのむ。
靴音が会場に響く。ただ歩いてるだけなのに、この存在感は圧巻してしまう。
「今日はありがとう、全力で歌って、踊って、皆の夢を叶えるね」
しんしんと会場に降り始めた雪は、彼の美しさに拍車が掛かる。
一粒の雪をつかみ取った瞬間、演奏が始まった。白を基調とした衣装は、雪国の王子。彼の歌とダンスでで会場のボルテージは上がる。
(雪の結晶‥これが観客達のGENSOU)
会場内は雪の結晶が、ひらひらと舞っている。それは、ドリライバンドから抽出されたGENSOU。伊集院さんの雰囲気にとても合っている。
(伊集院ユキヒト、まだ一曲目だぞ)
まだ一曲目ドリライは、始まったばかりだが、観客達は歓声を上げる続ける。
(この人の音楽は今までにない。音が詰まっている。なんで、こんなスゲーモンずっと知らなかったんだよ!)
自分でもおかしいぐらいに、興奮している。ずっと、ずっと、観ていたい。この瞬間が終わってほしくない!願ってしまった。この人に夢を見てしまった。
彼の動きに自分の夢を創造すると、ドリライバンドから雪の結晶がふわふわと浮いた。それは伊集院さんの元へ近づく。
雪の結晶はステージ中央へ近づく。俺のGENSOUが伊集院さんがそっと掴んだ。
夢が叶う時、人はどう思うのか、嬉しい。感動。様々な感情が渦巻く。
初めてのドリライで夢が叶った。俺はこの日を忘れない日になった。
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【ドリライ】
観客の夢を叶えるをコンセプトに歌とダンスが合わさったライブ
【パフォーマー】
ドリライをする演者
【ドリライバンド】
観客の夢の創造を蓄積させるバンド。
【GENSOU】
ドリライバンドに蓄積された夢が、視覚的に変換された物質。
物質の姿はパフォーマーによって変わる。※伊集院の場合は雪の結晶
【ドリライパフォーマンス】
GENSOUを元にできるパフォーマンス。
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